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【研究成果】果実をよく食べる食肉目ジャコウネコ科の4種が同じ場所で生息できる理由~同じ果実を食べても動物食性の強さが異なっていた~

本研究成果のポイント

  • 熱帯地域は世界でもっとも種多様性が高く、複数の近縁な種が同じ場所に生息しています。ボルネオ島の熱帯雨林には夜行性、半樹上性で、果実を頻繁に採食するジャコウネコ科の動物(パームシベットやハクビシンなど)が、同じ場所に4種生息しています。
  • 8年間におよぶ野外での調査の末、ジャコウネコ科の4種間では、昆虫などの動物や植物を食べる程度が種によって異なる可能性があることを発見しました。
  • もっとも大型のビントロング(体重約10キログラム)は、ほとんど植物しか食べないことが示唆されました。
  • 本研究によって、「熱帯地域では、なぜたくさんの種が共存できるの?」という大きな問いに対する答えの一つを示すことができました。

概要

 広島大学大学院統合生命科学研究科の中林雅准教授と総合研究大学院大学統合進化科学研究センターの蔦谷匠助教、海洋研究開発機構の石川尚人主任研究員、小川奈々子グループリーダー、大河内直彦部門長、佐々木瑶子臨時研究補助員、マレーシア・サバ大学のAbdul Hamid Ahmad教授は、炭素・窒素安定同位体分析とアミノ酸の化合物レベル窒素同位体分析によって、食肉目ジャコウネコ科パームシベット亜科に属する近縁な4種で動物食性の強さが異なる可能性があることを報告しました。
 本研究成果は、日本時間で10月2日、日本地球惑星科学連合の科学雑誌「Progress in Earth and Planetary Science」(オンライン版)に掲載されました。
 

論文情報

  • 掲載雑誌名:Progress in Earth and Planetary Science
  • 論文タイトル:Dietary partitioning in sympatric Paradoxurinae civets in Borneo suggested by compound-specific nitrogen isotope analysis of amino acids
  • 著者名: Miyabi Nakabayashi1,*, Takumi Tsutaya2,3,*, Abdul Hamid Ahmad4, Yoko Sasaki3, Nanako O. Ogawa3, Naoto F. Ishikawa3 & Naohiko Ohkouchi3
    *責任著者
    1 広島大学大学院統合生命科学研究科
    2 総合研究大学院大学統合進化科学研究センター
    3 海洋研究開発機構
    4 マレーシア・サバ大学
    DOI:https://doi.org/10.1186/s40645-024-00655-6
    掲載日:2024年10月2日(日本時間)
     

背景

 活動時間帯や生息地、食物など同じ資源を利用する複数の近縁種は、一般的に長期にわたって共存できません。ボルネオ島の熱帯雨林には、夜行性、半樹上性など似通った生態的特性をもつ哺乳綱食肉目ジャコウネコ科パームシベット亜科に属する4種(パームシベット、ミスジパームシベット、ハクビシン、ビントロング 図1)が、1平方キロメートルという狭い空間内でも共存しています。直接観察などの野外調査では、4種は食物を果実に強く依存しており、まったく同じ時間に同じ木で果実を食べる姿も観察されました。そして、動物食は稀と言われていました。しかし、これら4種は樹高が高い熱帯雨林の樹上で夜間に単独で活動するため観察が難しく、共存メカニズムの全貌は明らかになっていませんでした。
 本研究ではこれら4種の食物の違いに着目して、動物性食物の採食の程度を比較するために、8年間にわたって4種の体毛サンプルを集め、体毛中の炭素・窒素のバルク安定同位体分析(※1)をおこないました。さらに、アミノ酸の化合物レベル窒素同位体分析(※2)を用いて4種の栄養段階を推定しました。
 

図1. ボルネオ島で同じ環境に生息する食肉目ジャコウネコ科パームシベット亜科4種
(左上から時計回りにビントロング、ハクビシン、ミスジパームシベット、パームシベット)

研究成果の内容

 ビントロングの毛のバルク窒素同位体比は他の3種よりも明確に低い値を示しました。このことは、ビントロングが4種の中でもっとも動物食の程度が小さいことを意味します。アミノ酸の窒素同位体比から推定された栄養段階は、ビントロングが2.0-2.1ともっとも低く、次いでミスジパームシベット(2.4-2.5)、ハクビシン(2.7)、パームシベット(2.9)でした(図2)。これらの結果から、ビントロングはほぼ植物食であることと、他の3種では動物食にばらつきがあることが示唆されました。
 アミノ酸の化合物レベル窒素同位体比を測定したサンプル数は少ないですが(各種2個体)、これらの結果は、ボルネオ島のパームシベット亜科4種が同じ果実を食べても、昆虫などの動物性食物の採食の程度を違えることで、食物をめぐる競合が小さくなり、共存が可能になっていることを示唆します。
 このように、同じ場所に生息する近縁種間で観察される、微妙ですが本質的な違いが、熱帯地域における生物多様性の高さを維持していることが考えられます。本研究によって、「なぜたくさんの種が共存できるの?」という生態学分野の大きな問いに対する答えの一つを示すことができました。また、本研究では、ビントロングなどの哺乳類における古典的な食性調査(直接観察など)の結果と安定同位体分析の結果が一致しました。このことは、従来の生態学的食性推定方法に加えて、バルク有機物およびアミノ酸の化合物レベルの安定同位体分析という化学的分析手法を併用することで、より高い精度で動物の食性推定が可能になり、生態系の理解に貢献することを示唆します。
 

図2. パームシベット亜科4種の栄養段階の計算値。エラーバーは伝播を含む誤差の範囲を表します。植物など生産者を栄養段階1とし、一次消費者(植物を食べる動物)を2、二次消費者(一次消費者を食べる動物)を3とします。

今後の展開

 本研究ではボルネオ島のパームシベット亜科4種の動物食性に着目して研究をおこないましたが、共存メカニズムのすべてが解き明かされた訳ではありません。利用する樹高や詳細な活動時間帯など、これまでに知られていない「微妙な」違いがまだまだ存在する可能性は極めて高いです。今後も、パームシベット亜科に限らずさまざまな生物で、「微妙な」違いが熱帯雨林の複雑な生態系を形成し、高い生物多様性が維持されていることを証明していきたいです。

用語解説

※1 安定同位体分析
自然界には、ある元素について重さの異なる原子が存在しており、それらのうち物理的に安定なものは安定同位体と呼ばれます。生態系や生体内で起こる化学反応によって安定同位体の存在比率(安定同位体比)が変化することがわかっています。この変化は予測可能な速度で起こるため、生体試料の安定同位体比を測定することによって、その由来がわかります。つまり、ある個体の体組織の安定同位体比を分析すれば、その体組織を構成するもとになった食物カテゴリーを推定できます。

※2 アミノ酸の化合物レベル窒素同位体比と栄養段階の推定
動物の体内には、動物が自分で作ることができるアミノ酸(グルタミン酸など)と、自分では作れないので食物から摂らなければならないアミノ酸(フェニルアラニンなど)があります。このうちグルタミン酸は、生産者から高次消費者まで窒素の同位体の比率(軽い14Nに対する重い15Nの比)が単調増加します。一方でフェニルアラニンは、一次生産者から高次消費者まで窒素同位体の比率がほとんど変わりません。この性質を利用して、グルタミン酸とフェニルアラニンの窒素同位体比から生物の栄養段階を推定します。

【お問い合わせ先】

 広島大学大学院統合生命科学研究科 
 准教授 中林 雅
 Tel:082-424-6513 
 E-mail:nmiyabi*hiroshima-u.ac.jp
 (*は半角@に置き換えてください)
 


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