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【研究成果】心臓病患者の日常生活における身体活動パターンを解明 ~個別化された心臓リハビリテーションプログラムの重要性が明らかに~

本研究成果のポイント

  • 心臓リハビリテーション(以下、心リハ)を受けている外来心臓リハビリテーションを行っている人を対象に日常生活における身体活動を3軸加速度計内蔵活動量計を使用して客観的に詳細を明らかにしました。
  • 患者は1日の大半を座って過ごし、中程度から強い強度の身体活動を行う時間が極めて短いことが明らかになりました。(図)
  • 患者の性別、年齢、体格指数(BMI)、運動能力が、日常の身体活動パターンに大きな影響を与えることを発見しました。
  • 外来の心臓患者に向けた個別化されたリハビリのプログラムの必要性がわかりました。

概要

  • 心リハは心臓病患者の回復と再発予防に重要ですが、外来患者の日常生活における身体活動の実態は不明でした。
  • 本研究では、92人の日本人外来患者を対象に、加速度計を用いて日常生活における身体活動と座位行動を詳細に測定しました。
  • その結果、患者は1日の大半(平均約11時間)を座位で過ごし、中強度以上の身体活動時間は非常に短い(中央値約26分)ことが明らかになりました。
  • さらに、性別、年齢、体格指数(BMI)、運動能力(無酸素性作業閾値)が身体活動パターンに大きく影響することが分かりました。

論文名:Characteristics of physical activity and sedentary behavior in patients undergoing outpatient cardiac rehabilitation
著者:内藤 紘一1,2*,井澤 和大3, 前田 慶明4,笠井 佑哉2,岩間 一2
1.    名古屋女子大学 医療科学部理学療法学科 
2.    医療法人相志和診会 岩間循環器内科
3.    神戸大学大学院 保健学研究科 保健学専攻
4.    広島大学大学院 医系科学研究科 総合健康科学
*. 責任著者
掲載誌:Scientific Reports(Q1)
掲載日:2024年10月16日
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-024-75362-9

背景

 心臓病は世界的に主要な死因の一つであり、その予防と管理は重要な公衆衛生上の課題です。心リハは、心臓病患者の生活の質を改善し、再発を防ぐ効果的な介入方法として認識されています。具体的には入院中から始まり、退院後も外来で継続して行われます。入院中は、病室でのベッド上での軽い運動や歩行練習からはじめ、徐々に歩行距離を延ばしていきます。病状が安定してきたら、自転車エルゴメーターなどを使用した有酸素運動も取り入れ、心拍数や血圧を確認しながら、無理のない範囲で運動強度を調整していきます。退院後は外来での心リハに移行し、職場復帰や普段の生活に必要な体力を維持・向上させていきます。
 また、禁煙指導やバランスの良い食事療法、適度な運動習慣の指導、ストレス管理の方法など、より健康的な生活を送るための指導も行います。さらに、心臓病についての正しい知識や日常生活での注意点、緊急時の対応方法についても学んでいただきます。
 このように、心リハでは入院中から退院後まで継続的に、運動面だけでなく生活全般にわたるサポートを通じて、患者さんが安全に、そして自信を持って日常生活に戻れるよう支援していきます。
 近年、医療技術の進歩と入院期間短縮の政策により、日本では外来での心リハの重要性が増しています。
患者は日常生活の大部分を病院外で過ごすため、自宅での身体活動と座位行動(テレビを見る、デスクワーク、車の運転など、座っているか横になっている状態での行動)のマネージメントが心リハの成功に重要な役割を果たします。しかし、これまで外来患者の日常生活における具体的な活動パターンは十分に理解されていませんでした。この研究は、その重要なギャップを埋めることを目的としています。
 

研究成果の内容

 本研究では、心リハを受けている外来患者92人の日常生活における身体活動パターンを、加速度計を用いて初めて詳細に分析しました。具体的には、2週間にわたり就寝時と入浴時以外は3軸加速度計内蔵活動量計を腰部に装着していただき、普段通りの生活を送って頂きました。睡眠時間はアンケートで自己申告していただきました。その結果、患者は1日の大半(平均約11時間)を座位で過ごし、中強度以上の身体活動時間は非常に短い(中央値約26分)ことが明らかになりました。
 さらに、性別、年齢、体格指数(BMI)、運動能力(無酸素性作業閾値)が身体活動パターンに大きく影響することが分かりました。具体的には、男性は女性より1日あたり約64分長く座位で過ごす傾向があり、軽強度の身体活動時間(ゆっくりとした歩行、軽い家事、立っての作業など)は22%少ないことがわかりました。年齢が1歳上がるごとに中強度以上の身体活動時間(速歩、ジョギング、サイクリング、重い荷物を持つなど)が約3%減少し、BMIが1単位増加するごとに歩行時間が約4%減少しました。また、無酸素性作業閾値が一定レベル向上すると、日常生活での中強度以上の身体活動時間も大きく増えることがわかりました。具体的には、この閾値が1MET(座って安静にしている時の体の働きを1とした単位)上がるごとに、少し息が上がるような活発な活動時間が約43%も増えることが判明しました。
 興味深いことに、生活活動(家事など日常の軽い活動)においても性差が見られ、男性は女性に比べて生活活動に費やした時間が24%少ないことが分かりました。これは、日本の高齢者における家庭内での役割分担の違いを反映している可能性があります。

今後の展開

 この研究結果は、外来心リハプログラムの個別化と最適化に大きく貢献する可能性があります。患者の性別、年齢、BMI、運動能力に基づいて、より効果的なリハビリ計画を立てることができます。
 例えば、男性患者には座位時間の削減と軽強度活動の増加を重点的に指導できます。また、BMIの高い患者には適切な歩行プログラムを、運動能力の低い患者や高齢者には外来心リハで運動能力を向上させることの重要性を認識してもらうことができるでしょう。
 さらに、家庭での活動モニタリングと個別指導を組み合わせることで、患者の日常生活全体を通じた活動量の改善が期待できます。これにより、心臓病患者の回復促進と再発リスクの低減につながる可能性があります。
 

図:外来心リハ患者の一日の活動時間分布

用語解説

MET(メッツ):Metabolic Equivalent(メタボリック・エクイバレント)の略で、身体活動の強度を表す単位です。1 METは安静時の酸素消費量に相当し、活動強度が上がるほどMET値も高くなります。例えば、ゆっくり歩くのが約2-3 MET、ジョギングが約7-8 METとされています。
無酸素性作業閾値:運動強度が上がっていく中で、身体が楽に運動を続けられる限界となるポイントのことです。このポイントを知ることは、効果的で安全な運動を行う上でとても重要です。特に心臓病の方のリハビリテーションでは、この閾値を目安に運動強度を設定することで、過度な負担をかけることなく、安全に体力を向上させることができます。
 

【お問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 准教授 前田慶明
Tel:082-257-5410 FAX:082-257-5344
E-mail:norimmi@hiroshima-u.ac.jp
 


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