• ホームHome
  • 【研究成果】急性肝炎の原因となるE型肝炎ウイルス(HEV)の診断において、抗体検査が有効であることをメタ解析によって明らかにしました

【研究成果】急性肝炎の原因となるE型肝炎ウイルス(HEV)の診断において、抗体検査が有効であることをメタ解析によって明らかにしました

本研究成果のポイント

  • 複数の学術データベースを対象としたメタ解析(※1)により、E型肝炎ウイルス(以下、HEV)(※2)の感染診断においてHEV抗体検査(※3)が有効であることを明らかにしました。
  • 研究の成果により、専門的な設備技術が不足している地域でも抗体検査を行うことでHEVの早期発見が可能になり、適切な治療と重症化の予防につながります。また、衛生対策を早期に講じることで感染拡大の防止にも貢献できると期待されます。

概要

  • 広島大学 大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学 吉永弥生氏(博士課程後期 MD-PhDコース)、Mirzaev Ulugbek Khudayberdievich氏(博士課程後期)、KoKo助教、田中純子特任教授らの研究グループは、HEV抗体検査の診断精度を評価することを目的としたメタ解析を実施しました。
  • その結果、HEV IgM抗体(※4)を対象とした場合の感度は83%、特異度は98%、HEV IgG抗体(※5)を対象とした場合の感度は74%、特異度は89%と高い精度であり、共にHEVのスクリーニング検査に有効であることが示されました。
  • 本研究は広島大学肝炎・肝がん対策プロジェクト研究センターの支援を受けて実施されました。
  • 本研究の論文掲載にあたり、広島大学からの投稿費用(Article processing Charge, APC)の助成を受けました。
  • 本研究成果は、「Hepatology Research」誌に掲載されました (2024年10月17日)。

発表論文

  • 掲載誌:Hepatology Research (Q1)
  • 論文タイトル:
    Diagnostic Accuracy of Hepatitis E Virus Antibody Tests: A Comprehensive Meta-Analysis
  • 著者名: 
    Ulugbek Khudayberdievich Mirzaev1,2,3, Yayoi Yoshinaga1,2, Mirzarakhim Baynazarov1,2,3, Serge Ouoba4, Ko Ko1,2, Zayar Phyo1,2, Chanroth Chhoung1,2, Akuffo Golda Ataa1,2, Aya Sugiyama1,2, Tomoyuki Akita1,2, Kazuaki Takahashi1,2, Shingo Fukuma1, Junko Tanaka1,2*
    1.    広島大学大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学 
    2.    広島大学肝炎・肝がん対策プロジェクト研究センター
    3.    Department of Hepatology, Scientific Research Institute of Virology, Ministry of Health, Tashkent, Uzbekistan 
    4.    Unité de Recherche Clinique de Nanoro (URCN), Institut de Recherche en Science de la Santé (IRSS), Nanoro, Burkina Faso
    *責任著者
  • DOI : 10.1111/hepr.14132

背景

  • HEVは、経口感染により急性肝炎を引き起こすウイルスです。衛生環境が十分とは言えない発展途上国を中心に世界的に流行しており、年間の感染者数は約2,000万人と推測されています。通常は一過性で回復しますが、まれに重症化することがあります。特に妊婦や免疫不全状態の患者では重症化リスクが高く、感染の早期発見と治療が望まれます。
  • 感染診断においては、ウイルス自体を検出するPCR検査(※6)がゴールドスタンダード(※7)ですが、費用や技術の制約で利用できない国や地域があります。このため、より簡便で広く利用可能な診断法が求められています。
  • HEVを対象とした抗体検査は比較的簡便で広く利用可能ですが、感染を診断するうえでの精度については、これまで十分に明らかになっていませんでした。

研究成果の内容

  • 本研究では、HEVの診断における抗体検査の信頼性の精度の評価を目的として、メタ解析を実施しました。
  • 複数の学術データベースから抽出された21の研究を解析しました。そのうち、20件の研究は急性肝炎の患者を対象とした研究でした。メタ解析の結果、HEV IgM抗体の感度(※8)は83%、特異度(※9)は98%であり、HEV IgG抗体の感度は74%、特異度は89%となり共に高精度でした。その精度の高さからHEV IgM ,IgG抗体検査はPCRの代わりとして感染診断法としての利用が期待されます。

今後の展開

  • 本研究の成果により、急性肝炎患者の感染診断において、HEV IgM、IgG抗体検査が共にPCRに代わる有効なHEV感染診断法である可能性が示されました。これにより、専門的な設備が乏しい地域でも早期診断と適切な治療が可能となり、予後の大幅な改善が期待されます。
  • 当研究室では、現在DBS(※10)サンプルを使用して、アフリカ地域におけるHEV抗体の保有率の解明に取り組んでいます。

用語解説

(※1)メタ解析
多くの研究結果を集めて体系的に評価する方法で、その結果を統計的にまとめて分析します。

(※2)E型肝炎ウイルス(HEV)
主に汚染された水や食物を介して感染するウイルスで、急性肝炎を引き起こします。特に発展途上国での感染が多く報告されていますが、先進国でも豚や猪などの動物由来の食品を介して感染することがあります。

(※3)HEV抗体検査
E型肝炎ウイルス(HEV)に感染しているかどうかを確認するための検査で、HEVに対する抗体(体がウイルスに対抗して作る物質)を検出します。

(※4)HEV IgM抗体
HEVに感染したときに体内で作られる抗体の一種で、急性感染の指標として用いられます。IgMは感染初期に産生される抗体で、感染後すぐに検出されます。

(※5)HEV IgG抗体
HEVに感染したときに体内で作られる抗体の一種で、長期的な感染の指標として用いられます。IgGは感染後しばらくしてから産生される抗体です。

(※6)PCR
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、特定のDNAやRNA断片を短時間で大量に増幅する技術です。この技術は、感染症の診断や遺伝子研究に広く利用されています。PCRは、微量のサンプルからでも検出可能なため、非常に感度が高い検査方法です。

(※7)ゴールドスタンダード
ある検査や診断方法の正確さを評価するための基準となる方法です。ゴールドスタンダードは、最も信頼性が高く、正確な結果を提供するとされる方法であり、他の検査方法の有効性を比較する際の基準となります。

(※8)感度
検査で病気にかかっている人を正確に見つけ出す能力のことです。感度が高いほど、病気を見逃しにくくなります。本研究ではPCRによるHEV RNAの検出をゴールドスタンダードとし、PCRで陽性と診断された人のうち、抗体検査でも陽性と診断された人の割合を示します。

(※9)特異度
検査で病気にかかっていない人を正しく判断する能力です。特異度が高いほど、誤って病気と診断されることが少なくなります。本研究ではPCRによるHEV RNAの検出をゴールドスタンダードとし、PCRで陰性と診断された人のうち、抗体検査でも陰性と診断された人の割合を示します。

(※10)DBS
DBS (Dried blood spot) 法とは、指先から少量の血液を採取し、ろ紙に乾燥させて保存する方法です。この方法は、血液サンプルの採取や輸送が簡便で、特に抗体検査やその他の血液検査に利用されます。DBS法は、遠隔地やリソースが限られた環境での検査に有用です。
 

【お問い合わせ先】

広島大学 大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
Tel:082-257-5162 FAX:082-257-5164
E-mail:eidcp@hiroshima-u.ac.jp


up