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【研究成果】バレエでよく起こる不良テクニックにより外反母趾の発生リスクが増加する可能性が判明 ~バレエダンサーの足部障害発生メカニズムの解明を目指して〜

本研究成果のポイント

  • バレエダンサーに多く認められる外反母趾について、第1中足骨と内側楔状骨から構成される第1足根中足(tarsometatarsal: TMT)関節の過剰可動性に着目しました。
  • バレエにおける下肢の外旋テクニックが不十分である場合、動作中の第1TMT関節の可動性が増大していることがわかりました。
  • バレエダンサーの足部障害発生メカニズムの解明への一助となります。

概要

  • 16人の女性バレエダンサーを対象とし、第1TMT関節の動態を定量的に評価しました。
  • 全ての対象者は、3種類の肢位条件それぞれでバレエの基礎動作「プリエ」(下肢を外旋させた肢位での膝関節屈伸動作)を課題動作として実施しました。
  • その結果、足部の回内が大きくなる肢位にて、第1TMT関節の可動性の増大を示し、不良テクニックの継続が将来的な外反母趾の発症につながる可能性が示唆されました。
  • 本研究成果は2024年6月6日に「Scientific Reports」に掲載されました。

論文に関する詳細情報

論文名:The vertical mobility of the first tarsometatarsal joint during demi- plié with forced turnout in ballet dancers.
著者:石原萌香1、前田慶明1、小宮 諒2、3、田城 翼1、堤 省吾1、有馬知志1*、河井美樹1、田村佑樹1、生田祥也4、5、浦邉幸夫1*
1. 広島大学 大学院医系科学研究科 総合健康科学
2. 新潟医療福祉大学 運動機能医科学研究所
3. 新潟医療福祉大学 アスリートサポート研究センター
4. 広島大学 大学院医系科学研究科 整形外科
5. 広島大学病院 スポーツ医科学センター
* 責任著者
掲載雑誌:Scientific Reports(Q1)
DOI:10.1038/s41598-024-64304-0
 

背景

 外反母趾は母趾が外側に変形し、母趾の付け根に痛みを伴うため、前足部の感覚が重要となるダンサーにとって深刻な問題です。ダンサーにおいて外反母趾は代表的な足部障害のひとつであり、近年では原因として不十分なターンアウトテクニックが注目されつつあります。(図1)ターンアウトとは膝関節や足尖を外側に向けるようにした下肢全体の外旋を指し、バレエで常に必要とされる基本ですが、股関節の外旋可動域、筋力が不十分な場合、足部の過剰な回内*と前足部の過剰な外転強制(以下、ローリング)が生じます。ローリングによる足部への影響は、これまで体外からの評価によって研究されてきましたが、ローリングの影響で足部内の関節に生じる変化を捉えるには至っておらず、外反母趾の発生リスクに関しては明確なエビデンスが不足していました。そこで、本研究では外反母趾の進行に関与する因子である第1TMT関節の過剰可動性に着目し、不良テクニックにより関節動態が異なるか調査しました。

*足部の回内:踵が内側に倒れ、内側のアーチが潰れてしまう状態
 

研究成果の内容

 本研究では、外反母趾ほか下肢と足部に既往のない健常女性バレエダンサー16人を対象としました。3つの測定条件(図2);股関節中間位(Control条件)、股関節最大自動外旋角度までに制限することで足部での代償を除いた肢位(Functional条件)、足尖が最大限外側を向くように指示をした肢位(Forced条件)を設定し、バレエの基礎動作であるプリエを課題動作として実施しました。膝関節屈曲開始から完全伸展位までの解析区間にて、超音波画像診断装置と三次元動作解析システムを同期させ、第1TMT関節の関節運動(第1中足骨と内側楔状骨の垂直変位量)を測定しました(図3)。
 Control条件、Functional条件と比較して、Forced条件では内側楔状骨の底側変位が大きく、結果として動作中の第1TMT関節の可動性の増大を示しました。加えて、Forced条件にて足部の回内が大きいダンサーほど内側楔状骨の底側への変位量が大きく、不良テクニックによる第1TMT関節の可動性増大が将来的な外反母趾の発症につながる可能性が示唆されました。
 

今後の展開

 本研究はバレエでの不良な肢位での運動が、第1TMT関節の可動性を増大させることを示し、これまで明確なエビデンスが不十分であったバレエダンサーの外反母趾発症リスクに関して新たな知見を提供するものになりました。ダンサーの外反母趾を含むさまざまな障害の治療の際に徒手的な評価にとどまっていた第1TMT関節の不安定性を数値化し、客観的なデータの提示を実現しました。解析システムを活用して、第1TMT関節を含むリスフラン関節の関節動態およびアスリート、ダンサーの足部障害発生メカニズムの解明を目指した研究に発展していくことが期待されます。適切な指導方法の確立と障害予防を講じるうえで重要な研究成果を発信できるよう、今後も研究を続けていきます。

参考資料

図1 バレエダンサーの不良テクニックによる足部への影響

図2 本研究で設けた3つの測定肢位

図3 バレエ動作中の第1足根中足関節の動態評価

【お問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 大学院生 石原萌香
Tel:082-257-5413
E-mail:honoka-ishihara810@hiroshima-u.ac.jp

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 准教授 前田慶明
Tel:082-257-5410
E-mail:norimmi@hiroshima-u.ac.jp

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 教授 浦邉幸夫
Tel:082-257-5405
E-mail:yurabe@hiroshima-u.ac.jp


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