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【研究成果】主要アレルゲンをゲノム編集により除去した鶏卵の基本性状および加工特性を確認

本研究成果のポイント

  •  ゲノム編集により作出されたオボムコイド欠損ニワトリの卵白(ON卵白)と通常ニワトリの卵白(通常卵白)の外観、pHおよびタンパク質濃度に顕著な差異は認められませんでした。
  • ON卵白では、各主要タンパク質がわずかに増加し、オボムコイドの欠損分に相当するタンパク質が補填されました。
  • ON卵白は通常卵白とほぼ同等の十分な加工特性(加熱ゲル化性、起泡性、乳化性)を示すことが明らかになりました。
  • 今後は鶏種・個体数を増やし、引き続き卵の品質確認を進めていきます。

概要

 東京農業大学の小山 翔大助教、辻井 良政教授、半田 明弘客員教授、キユーピー株式会社 研究開発本部の児玉大介チームリーダー、広島大学大学院の堀内 浩幸教授、松崎 芽衣助教、江﨑 僚特任助教の研究チームは、ゲノム編集により作出されたオボムコイド欠損ニワトリの卵(ON卵)は、オボムコイドが欠損していることを除いて、通常卵と比較してほぼ同等の基本性状および加工特性を示すことを確認しました。
 鶏卵アレルゲンの中でも、オボムコイドは熱安定性が非常に高く、加熱等の処理を経てもそのアレルゲン性が維持されます。さらに、加工特性を維持したままオボムコイドを完全除去することも困難でした。そこで、先行研究にてゲノム編集によりオボムコイドが遺伝子をノックアウトしたニワトリが作出され、そのニワトリが生産するON卵にはオボムコイドが含まれないこと、またゲノム編集により予想される変異タンパク質の生産が無いことが確認されました。この卵を食品として利用するためには、さらなる安全性や特性についての検証が必要となります。
 本研究ではON卵の基本性状、タンパク質組成および加工特性について調べ、オボムコイドの欠損による鶏卵品質への影響について検討しました。基本性状(外観、pH、タンパク質、固形分量)はON卵と通常卵でおおむね同等であることが示されました。各卵白タンパク質の量について解析したところ、ON卵白ではオボムコイド以外の主要タンパク質が、オボムコイドの欠損による総タンパク質量の減少を補うように増加していることが明らかになりました。さらに、卵白のゲル化性についてはオボアルブミンなど主要タンパク質の増加によりゲルの硬さは増加しましたが、そのほかに顕著な差異は認められませんでした。また、卵白の起泡性や乳化性(全卵マヨネーズの性状)にも顕著な差異は認められませんでした。すなわち、ON卵のタンパク質組成の変化は限定的であり、十分な加工特性を備えていることが示されました。この研究は卵アレルギーのある人に新たな選択肢を提供し、ゲノム編集食品に関する新たな知見を提示します。

 本研究成果は2024年12月24日にElsevier社が発刊する専門誌「Food Bioscience」に電子版として公開されるとともに、2025年1月号に掲載されました。
 

論文に関する詳細情報

論文タイトル
Ovomucoid-null eggs produced via genome-editing technology: Protein composition and physicochemical properties
著者
Shota Koyamaa, Daisuke Kodamab, Riku Takizawac, Yurie Uetakea, Yoshimasa Tsujiia, Ryo Ezakid, Mei Matsuzakid, Hiroyuki Horiuchid, Akihiro Handae
(a: 東京農業大学 応用生物科学部農芸化学、b: キユーピー株式会社 研究開発本部未来創造研究所機能素材研究部、c:東京農業大学 大学院応用生物科学研究科、d: 広島大学 大学院統合生命科学研究科、e:東京電機大学 理工学部)
掲載誌
Food Bioscience 
DOI 番号
https://doi.org/10.1016/j.fbio.2024.105759
 

背景

 鶏卵は栄養価・加工特性に非常に優れた食品です。その一方で、小児の即時型食物アレルギーの主要原因食物であり、世界的な課題となっています。鶏卵アレルゲンの中でも、オボムコイドは熱安定性が非常に高く、加熱等の処理を経てもそのアレルゲン性が維持されます。さらに、加工特性を維持したままオボムコイドを完全除去することも困難でした。この課題を解決すべく、先行研究にてゲノム編集によりオボムコイドが遺伝子をノックアウトしたニワトリが作出され、そのニワトリが産生するON卵にはオボムコイドが含まれないこと、またゲノム編集により予想される変異タンパク質の生産が無いことが確認されました1)。この卵を食品として利用するためには、さらなる安全性や特性についての検証が必要となります。アレルゲン性については、現在このON卵を用いた臨床試験が進められており、現段階で加熱全卵粉末の摂取によるアレルギー反応は認められていません2)

研究成果の内容

 ON卵の基本性状、タンパク質組成および加工特性について調べ、オボムコイドの欠損による鶏卵品質への影響について検討しました。基本性状については、外観、pH、タンパク質、固形分量等の基本性状はON卵と通常卵でおおむね同等であることが示されました。卵白タンパク質の性状について、ON卵ではオボアルブミン、オボトランスフェリンおよびリゾチームなど他の主要タンパク質がオボムコイドの欠損による総タンパク質量の減少を補うように増加していることが明らかになりました(図1)。さらに、卵白のゲル化性についてはオボアルブミン等の増加によるゲルの硬さの増加は認められましたが、そのほか弾力性にかかわる評価項目やゲルの微細構造に顕著な差異は認められませんでした(図2, 3)。卵白の起泡性や全卵マヨネーズの性状にも顕著な差異は認められませんでした。すなわち、ON卵のタンパク質組成の変化は限定的であり、通常卵と比較して十分な加工特性を備えていることが示されました。この研究は、卵に対してアレルギー症状を示す人やその家族が、卵そのものや洋菓子などの加工品を利用できる可能性を提供するとともに、ゲノム編集食品に関する新たな知見を提示します。

今後の展開

 ゲノム編集により作出されたオボムコイド欠損ニワトリの卵を「アレルギー低減卵」として実用化に向けて、さらに鶏種や個体数を増やし、同様に基本特性や加工特性に問題がないか検証を進めていきます。
なお、本研究は、JST 共創の場形成支援プログラム JPMJPF2010 の支援を受けたものです。

1) 広島大学・ニュースリリース【研究成果】鶏卵の主要なアレルギー原因物質(アレルゲン)をゲノム編集(Platinum TALEN)により除去し、その安全性を確認(https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/76416)

2) キユーピー株式会社・ニュースリリース:アレルギー低減卵の臨床試験について経過報告実施した17症例全てで「アレルギー反応陰性」を確認(https://www.kewpie.com/newsrelease/2024/3512/)
 

参考資料

図1 卵白タンパク質の分析
電気泳動(A)、オボアルブミンのラベルフリー定量(B)
 

図2 卵白加熱ゲルの物性評価
破断荷重(A)・破断ひずみ率(B)
 

図3 卵白加熱ゲルの走査電子顕微鏡観察像
ON卵白ゲル(A)、通常卵白ゲル(B)
 

【お問い合わせ先】

東京農業大学 企画広報室
TEL: 03-5477-2650 / Email: info*nodai.ac.jp

広島大学大学院統合生命科学研究科
教授 堀内 浩幸
 Tel: 082-424-7970 FAX: 082-424-7970
 E-mail: hhori10*hiroshima-u.ac.jp

広島大学 広報室
 TEL: 082-424-6762 / Email: koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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