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【研究成果】足関節捻挫癖を発症した患者の歩行時の骨の動きを解明 ~足関節捻挫予防や新たな治療法開発への一助に~

本研究成果のポイント

  • 本研究は、歩行立脚期の距骨-外果間距離(足関節外側靭帯の付着部である距骨と外果の距離)を超音波画像装置と三次元動作解析装置の同期解析システムを用いて、慢性足関節不安定症(足関節捻挫を反復している対象の患者)と健常者で比較した初めての研究です。
  • 治療効果の判定やけがの予防、新たな治療法の開発に貢献できる可能性があります。

概要

  • 歩行立脚期を初期、中期、終期に分類し、慢性足関節不安定症患者と健常者でそれぞれ距骨-外果間距離と足関節角度(底背屈、内がえし、外がえし)を測定しました。
  • 慢性足関節不安定症の距骨-外果間距離は、健常者と比較して立脚初期で2.9mm、中期3.0mm、終期4.6mm開大していました。
  • 足関節角度を健常者と比較すると、慢性足関節不安定症患者では立脚中期と終期の背屈角度が小さく、内がえし角度は立脚期全体を通して、大きい結果でした。
  • 本研究成果は2024年11月7日に「Scientific Reports」に掲載されました。
  • 本研究は広島大学から論文掲載料の助成を受けました。

論文に関する詳細情報

論文名:Comparison of the distance between the talus and lateral malleolus during the stance phase with and without chronic ankle instability
著者:尾上 仁志1、前田 慶明1、生田 祥也2,3、田城 翼1*、有馬 知志1、石原 萌香1、石田 礼乃1、アンドレアス ブランド4,5、中佐 智幸6、安達 伸生2,3、堤 省吾7、小宮 諒8、浦辺 幸夫1*
1.    広島大学大学院 医系科学研究科 総合健康科学
2.    広島大学大学院 医系科学研究科 整形外科学
3.    広島大学病院 スポーツ医科学センター
4.    BG Unfallklinik Murnau バイオメカニクス研究室
5.    Paracelsus Medical Private University Salzburg バイオメカニクス研究室
6.    広島大学大学院 医系科学研究科 人工関節・生体材料学
7.    鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 整形外科学分野
8.    新潟医療福祉大学 運動機能医科学研究所

* 責任著者
掲載雑誌:Scientific Reports(Q1)
DOI:https://doi.org/ 10.1038/s41598-024-78682-y

背景

 足関節捻挫(特に足関節回外捻挫)はスポーツ中によく起こるけがひとつであり、このけがを何度も繰り返すことで、40〜70%が慢性足関節不安定症(Chronic Ankle Instability:CAI)に移行し足関節の不安定感や痛み、慢性的な腫れなど様ざまな症状が出現します。CAIは足関節外側靭帯の起始である外果と付着部である距骨の距離(距骨-外果間の距離)が増加することが報告されており、足関節外側靭帯への負荷の増加と関連しています。この足関節外側靱帯への負荷が増加することで、再受傷や足関節不安定性が増大する可能性が考えられます。しかし、これまでの研究は主に座っていたり寝ていたりしている状態(静的条件)での評価に限られており、歩行時(動的条件)での動態は明らかではありませんでした。本研究は、CAIと健常者における歩行立脚期の距骨-外果間距離と足関節角度の変化を比較し、CAIの動的評価の有効性を示すことを目的としています(図1)。

研究成果の内容

 歩行時の骨の動き(距骨-外果間の距離)を超音波画像装置で計測し、足関節角度は三次元動作解析装置を使用しました。CAI群12人(16足)と健常者群10人(20足)を対象としました。
 CAI群の距骨-外果間距離は健常群と比べて、立脚初期で平均2.9 mm、立脚中期で3.0 mm、立脚終期で4.6 mm増加していました(図2)。また、CAI群は健常群に比べ、立脚中期と終期の足関節背屈角が小さく、立脚期全体を通して足関節内がえしが大きいことがわかりました。
 立脚初期における距骨-外果間距離の増加は、CAIの足関節内がえし角度の増加と関連があると考えられ、これは足関節外側靭帯(特に前距腓靭帯)に加わる負荷の増加を示唆しています。また、立脚中期では距骨の前方移動が背屈角度の低下と関連していると考察しました。
 本研究では、超音波画像装置と三次元動作解析装置の同期解析により、これまで静的条件下でのみ評価されていた距骨-外果間距離を動的条件で捉えることが可能になりました。この手法により、通常の歩行条件に近い形での足関節動態評価が可能となり、従来の静的な解析では得られない詳細な情報を獲得できることが示されました。
 

今後の展開

 本同期解析は、運動療法の前後における距骨-外果間距離と足関節角度を比較することで、CAIの治療効果判定や新たな治療法の開発に寄与できる可能性があります。筆者らは、今後も足関節捻挫の予防や新たな治療法の開発を目指した調査、研究に取り組み、スポーツ傷害予防の分野の発展に貢献していきたいと考えています。

参考資料

図1 本研究の位置付け

図2 歩行周期別の距骨-外果間距離 
 

【お問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 大学院生 尾上仁志
Tel:082-257-5413
E-mail:satoshi-onoue19@hiroshima-u.ac.jp

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 准教授 前田慶明
Tel:082-257-5410
E-mail:norimmi@hiroshima-u.ac.jp

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 教授 浦邉幸夫
Tel:082-257-5405
E-mail:yurabe@hiroshima-u.ac.jp


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