【ポイント】
● DNAおよびRNA塩基配列特異的結合タンパク質を利用した、生細胞内における特定遺伝子の転写活性および核内配置の同時可視化技術(ROLEXシステム)の開発
● マウス胚性幹(ES)細胞において、多能性維持に重要な因子Nanog遺伝子の転写が不活性状態にある場合、核内ゲノムDNAが部分的に動きやすくなる現象を発見
図 ROLEXシステムの模式図。特定遺伝子の核内配置は緑色蛍光スポットから、転写活性はマゼンタ蛍光スポットから判断できる。
【概要】
広島大学大学院理学研究科 落合 博 特任講師(広島大学クロマチン動態数理研究拠点メンバー)は、同研究科の菅原 武志 特任助教(広島大学クロマチン動態数理研究拠点メンバー)および山本 卓 教授(広島大学ゲノム編集研究拠点リーダー)との共同研究により、特定DNAおよびRNA塩基配列に特異的に結合するタンパク質を利用した、生細胞内における特定遺伝子の転写活性および核内配置の同時可視化技術の開発に成功しました。
また本技術を利用して、マウス胚性幹(ES)細胞において、多能性維持に重要な因子Nanog遺伝子の転写が不活性状態にある場合、核内ゲノムDNAが部分的に動きやすくなる現象を発見しました。本技術は他の細胞種への応用も可能であり、高次なゲノムDNA構造が関与する複雑な遺伝子発現制御機構の理解などの基礎生命科学研究だけでなく、再生医療などの応用研究への発展に貢献することが期待されています。
本研究成果は、英国の科学雑誌『Nucleic Acids Research』6月18日付けオンライン版に掲載されます。
【期待される波及効果と今後の展開】
ゲノムDNA構造は細胞ごとに異なっていることが知られていますが、それがどの程度細胞の性質差に関与しているかは明らかになっていません。本技術によって、高次に折り畳まれたゲノムDNA構造の動的変化に伴う遺伝子発現変化の解明とともに、個々の細胞ごとのゲノムDNA構造の違いがどのように細胞ごとの性質差の出現に関与しているかを明らかにできることが期待できます。
細胞ごとの性質差はがん細胞の抗がん剤への耐性や、多能性幹細胞から特定細胞種への均質な分化誘導の阻害などに関与していると考えられています。そのため本研究成果は、細胞ごとの性質差の出現原因の解明に繋がることが期待され、基礎生命科学研究だけでなく、再生医療やがん治療などの応用研究への発展に貢献することが期待されます。
本研究は、文部科学省生命動態システム科学推進事業「核内クロマチン・ライブダイナミクスの数理研究拠点」およびJSPS科研費 25830138, 15K18467の助成を受けたものです。
【論文】
論文タイトル:"Smultaneous live imaging of the transcription and nuclear position of specific genes."
著者:落合 博1, 菅原 武志1, 山本 卓1,2
1 広島大学 クロマチン動態数理研究拠点
2 広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻
ニュースリリース(438KB)
【お問い合わせ先】
広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻
落合 博
電話:082-424-5529
Eメール:ochiai*hiroshima-u.ac.jp(*は@に置き換えて送信してください。)