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[研究成果]月表層の岩石試料(アポロ試料)から高圧相を世界で初めて発見



【ポイント】

● アポロ計画で回収された月表層の岩石試料から、世界で初めてシリカ(SiO2)の高圧相(※1)であるスティショバイトを発見

● スティショバイトの存在は超高圧力状態の発生、すなわち天体衝突現象の明確な証拠

● アポロ試料中のスティショバイトを用いて、より直接的な証拠からのクレーターの形成年代や衝突規模の推定が可能



図1.アポロ15号の宇宙飛行士が地球に持ち帰った月表層の岩石試料(試料番号: Apollo 15299)。

この試料は様々な岩石の破片である角レキ岩と火山岩である玄武岩を含む。スティショバイトが発見されたのは角レキ岩の部分。



図2.Apollo 15299で発見されたスティショバイトの電子顕微鏡写真。

Spring-8のX線構造解析によりスティショバイトであることが判明した。

【概要】

広島大学大学院理学研究科の宮原正明准教授、東北大学大学院理学研究科の大谷栄治教授、千葉工業大学の荒井朋子上席研究員らを中心とした研究チームは、アポロ15号計画で回収された月表層の岩石試料(アポロ試料)からシリカ(SiO2)の高圧相であるスティショバイトを発見しました(図1)。

スティショバイトが生成するには少なくとも8万気圧以上の超高圧力条件が必要であることが分かっています。このような超高圧力状態が地表で発生するのは巨大な物体が高速で激突した際、すなわち小天体が月に衝突した場合以外には考えられません。実際、地球上での小天体の衝突跡とされるクレーターの周辺の岩石からもスティショバイトが発見されています。月にも小天体の衝突跡と考えられるクレーターが多数存在しますが、アポロ計画で回収された月表層の岩石試料からはこれまではスティショバイトは見つかっていませんでした。そこで、研究チームがアポロ15号の宇宙飛行士が持ち帰った月表層の試料をナノ分析装置で調べたところ、スティショバイトの存在を世界で初めて突き止めることに成功しました。研究チームはこの岩石試料に含まれる物質(鉱物)の種類や化学組成から、このスティショバイトは月の巨大な海の1つである「嵐の大洋(プロセラルム盆地)」の形成に関与した無数の天体衝突の内の1つに伴い生成したと推定しています。

この研究成果は、米国鉱物学会が発行する“米国鉱物学雑誌”にハイライト論文として掲載されました。また、今後アメリカ科学振興協会(AAAS)が発行する“Science”にも紹介される予定です。

【波及効果と今後の展望】

地表でのスティショバイトの存在は天体衝突現象を決定づける証拠の1つです。スティショバイトが生成するために必要な圧力条件やその圧力が持続した時間を用いて衝突した天体の速度や大きさを推定することも可能です。また、放射性同位体の測定と組み合わせることで、衝突が起きた年代を明らかにすることも出来ます。現在、クレーターの形成年代や衝突規模の推定は数値シミュレーションやクレーター年代学(※2)を用いて間接的に行われていますが、アポロ試料中のスティショバイトを用いてより直接的な証拠からの推定が可能となります。

スティショバイトを含めた高圧相は地球に落下した地球外物質である隕石の中からは数多く発見されています。これらの隕石中の高圧相は宇宙空間で天体同士の衝突に伴って発生した超高圧力状態で生成したと考えられています。これまで高圧相は隕石の中からのみ発見されていましたが、今回の我々のアポロ試料の研究から地球外の天体の地表にも存在していることが初めて証明されました。今後、地球へのサンプルリターンが期待される火星や小天体等の地表の岩石中にも高圧相が存在している可能性があり、高圧相にも注目していく必要があります。

【論文】

著者:Shohei Kaneko、 Masaaki Miyahara*、 Eiji Ohtani、 Tomoko Arai、 Naohisa Hirao and Kazuhisa Sato

*Corresponding author(責任著者)

論文題目:Discovery of stishovite in Apollo 15299 sample

掲載雑誌:American Mineralogist(米国鉱物学雑誌)、 Vol. 100、 1308–1311、 2015.

DOI番号:10.2138/am-2015-5290

※用語解説



(※1)高圧相

天然に産する固体物質でほぼ均一の化学組成と結晶構造を持つものが鉱物です。鉱物は周りの環境(圧力や温度)に応じてその結晶構造を変化させます。私達が暮らしている地表の圧力(1気圧)よりも高い圧力で安定に存在する鉱物を“高圧相”と呼んでいます。



(※2)クレーター年代学

天体上のクレーターの数密度を基に天体表層の形成年代を求める手法。

【お問い合わせ先】

広島大学大学院理学研究科 

宮原 正明

TEL:082-424-7461、7459

E-mail:
miyahara*hiroshima-u.ac.jp(*は@に置き換えて送信してください。)


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