広島大学図書館 図書学術情報普及グループ
森 敬洋
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この度、広島大学中央図書館(広島県東広島市)では、本学名誉教授・小林芳規(こばやし よしのり)氏の足跡をたどる特別企画展「角筆(かくひつ)のみちびく世界展」を開催いたします。本学名誉教授で文化功労者でもある氏の積み上げた数々の研究成果をご覧いただける、本館でも稀に見る規模の企画展です。
氏は「角筆」という先端を尖らせた古筆記具により書かれた角筆文字を初めて発見し、これまでの言語・文化研究を大きく発展させました。和紙に刻まれた僅かな凹凸から構成される角筆文字は、墨書きの文字と比べ視認しにくく、それゆえ言語・文化研究のなかでも一切目を向けられなかった文字たちです。1952 年に東京文理科大学(現筑波大学)を卒業し、漢籍訓読の研究に勤しんでいた氏は、1961 年の東京でこれらを発見します。その出会いを起点に、これまで見落とされてきた角筆文字の筆跡を探りながら、墨書き文字の裏に隠された数多くの言語と文化に新たな光が差し込まれていきました。
本展は2020 年に図書館内に設置いたしました「小林角筆資料室」の所蔵資料をもとに、氏の最初期における貴重な角筆文字調査資料はもちろんのこと、「角筆スコープ」と称される角筆を確認するための専用機具も展示します。また、角筆文献目録をはじめ、一部資料は実際に手に取ってもいただけます。角筆がみちびく新たな言語・文化研究の世界を、この機会にぜひご堪能下さい。
記
【展覧会名】 角筆のみちびく世界展
【開催期間】 2024 年10 月7日(月)~28 日(月)
【開催時間】 平日:8 時30分~22 時 土日祝:10 時~20 時
【場 所】 広島大学中央図書館1F 地域・国際交流プラザ (東広島キャンパス)
【入 場 料】無料
【主 催】 広島大学中央図書館 (東広島キャンパス)
以上
【展示内容一例】

■角筆(漢書周勃伝)調査資料
昭和36年9月5日から17日までの間で東京上野の松坂屋で開催された「高野山秘宝特別展」に展示された「漢書周渤勃伝」をガラスケース越しに全文模写をしていたところ、角筆によるくぼみのような訓点が発見された。この時点では「角筆」という表現ではなく、「爪跡様点押訓点」という表現がなされている。

■角筆(木製、組紐付)
昭和63年1月、備後国(広島県)御調八幡宮の名誉宮司、桑原季彦(くわばら すえひこ)により、古経巻の若干とともに木製の遺物が初めて発見された。小筆のように持ちやすい感触のある遺物の先端には繊維のようなものが付着し、これらの遺物が筆記用具として使用されていたことを証明している。角筆は今日に至るまでに全国でおよそ40本が発見されており、本展ではそのうちの一部を展示する。

■角筆スコープ(木製、第一号機)
広島大学名誉教授(理学部教授)の吉沢康和氏の協力も借りつつ、角筆研究のために開発されたスコープ。第一号機は木製であったが、のちに様々な形が作成されている。古代紙を傷めないよう光源に工夫がなされており、東京国立博物館や奈良国立博物館でも使用される。

■致道館版 毛誌 上
江戸時代後期、致道館版。山形県の庄内地方の方言を反映している文献として、言語研究上でも意義がある。
角筆は江戸時代に全国の諸侯が藩校を設置し、漢籍の文献読解に際して角筆を用いたことから、当時の角筆文献が数多く残存している。

角筆文献を専用の角筆スコープで照らしたもの。角筆はそれ単体では視認することが困難であり、専用のライトで斜め方向から光を充てることでかすかに確認することができる。画像中央には角筆で「ヨぐ」との記載がある。

■全国角筆文献目録
角筆文献第一号の発見から20年間、近畿の寺社に所蔵された古文献調査により、約3万点以上の角筆文献が発見された。氏は平成4年の広島大学定年退職以後、10年計画のもとに日本全国の角筆文献を発掘調査し、多数の協力者の手も借りながら、角筆が全国的に利用されていたことを明らかにした。発見された角筆文献点数は3,600点を超えており、今後も増加が見込まれる。

■チベット経典 金剛般若経 断簡三葉
角筆文献は国内のみならず、海外でも数多く発見された。中国では約2000年前の漢代に書かれた木簡に角筆文字が発見できるだけでなく、チベット経典やコーランなど、多数の言語で角筆文字は発見されている。本展では小林角質資料室所蔵の角筆文献のうち、海外で発見されたものの一部を展示する。

左図を拡大したもの。氏の研究は日本を超え、広く東アジアの言語文化研究に新たな可能性を提供した。しかしながら、未だ世界には発見されていない角筆文字が多くあることは、容易に想定される。角筆研究は現在進行形で、様々な方面に研究の可能性を伸ばしている。