平成20年(年頭挨拶)

年頭挨拶 2008.1.4

平成20年1月4日

年頭挨拶

広島大学長 浅原 利正

新年あけましておめでとうございます。
本年は、国立大学法人化5年目を迎えます。中期目標の達成状況の評価を受ける年でもあります。各大学等の自主・自律性の大幅な拡大と弾力的な運営を目的に法人化を受け入れ、法人化後4年間の業務実績について、国立大学の基本的使命を果たしつつ、法人化を契機として各法人の改革が図られたかという視点で評価を受けることになります。

ご存じのとおり、次期中期目標期間における国立大学法人の運営費交付金の新たな配分方針は、この評価を踏まえたものとなるため、かねてより申し上げているように予算の効果的な執行を含め、皆さんの努力に期待しております。

昨年、この第一期中期目標等を見据え、さらに広島大学の将来像を視野に入れて「広島大学アクションプラン2007」を公表いたしました。科学研究のめざましい進歩、急速に進む大学間の国際競争、少子高齢化社会の進展、地球規模の課題である環境汚染の進行など、大学を取り巻く状況の急激な変化のなかで、可能な限り将来を予測して作成したものです。このアクションプランの最大の目的は、広島大学の向かうべき方向性を構成員全員が理解するとともに、このプランがいわば触媒となり活発な議論をすることにあります。

このアクションプランの各項目毎に、今年重点的に取り組みたい点を具体的に述べたいと思います。

まず、喫緊の最重要課題は、6項目目の「管理運営」であると認識しています。法人化に伴い導入された管理運営体制を、法人化した国立大学の趣旨に添うよう名実ともに改めることです。具体的には大学運営に学外の意見を取り入れる仕組みの下で、スリムで分かり易い管理運営体制の構築、学生や教職員が本務に専念できるソフト、ハード両面での環境整備、優秀な人材の育成・活用、多様な財源確保方策の実現、外部資金獲得のための支援体制の確立、施設設備の有効活用と整備、学内外の広報活動の充実、そして校友会の充実を果たさなくてはなりません。これらをできるだけ早期に実現することにより、広島大学における教育・研究・社会貢献などのレベルを向上させ、さらに発展させることが可能になると思います。

教育面では、教育の質の保証が求められていることから、専門教育や大学院教育の基盤となる学士課程における教養教育の充実に取り組みます。そのため具体的には学生の視点に立った入学者選抜制度の見直しも必要になると思いますし、4月から副専攻プログラムが開始される到達目標型教育プログラムについても評価と改善を継続して行わなければなりません。また、大学院教育については社会の変化に対応して学際領域や複合領域の学問が興り、それに対応できる仕組みや国際展開が求められていることから、本年早々に大学院再編の議論を始めます。学生宿舎の整備や海外留学への支援、新たな奨学金制度を開始して、優れた学生が広島大学に集まる仕組みを充実させたいと考えています。

研究面では、何といっても来週、平成20年度分の公募説明会が開催されるグローバルCOEへの対応が喫緊の課題で、是非とも採択に結びつけたいと考えています。加えて今後21年度から23年度まで毎年公募される学際・複合・新領域への応募計画も本年から検討を開始し、準備する必要があります。もちろん、広島大学で行われているその他の優れた研究を本学の特徴的な研究として位置付けて、将来の教育研究拠点を目指して育成、支援し、且つその仕組み作りを開始します。

社会貢献については、これまでのリエゾン活動を中心にして、広島大学の研究が一層社会から見えるように広報活動を充実させ、産学官連携に繋げるよう努めたいと思います。
国際交流については、新たに国際センター(仮称)を設置して、国際交流の充実・強化を図ります。そして、優れた外国人留学生や研究者を受け入れ、本学における教育研究の一層の充実を図り、さらにはアジアオフィスの新設についても検討したいと思います。

病院がある霞キャンパスは東広島キャンパスに比べ、建物の老朽化をはじめとする施設整備の遅れが目立ち、教育・研究・診療環境は劣悪になっています。原爆放射線医科学研究所の改築、研究棟の耐震補強に加えて新しい医療への対応、質の高い医療サービスの提供のためにも病院の新外来・診療棟の建築計画を進めなくてはなりません。医療を取り巻く環境が厳しさを増す中で、多くの大学病院では経営が厳しく、18年度決算では18国立大学病院が赤字を計上しています。しかし、大学病院の使命である良質な医療人の育成、先端的医療の展開・開発などを果たすためには、それなりの工夫をしなければならないと考えています。

附属学校の今後のあり方については、地元の意見を聞きながら将来構想に沿って検討を加速させる計画です。

また、昨年末、平成20年度予算の政府案が閣議決定され、本学に関係する事項については、既に部局長にお知らせしました。「骨太の方針2007」には「基盤的経費の確実な措置」が明記されたところではありますが、今回の予算案は、「骨太の方針2006」が色濃く反映され、国立大学法人にとっては、非常に厳しいものとなりました。

この要因の一つには、経済財政諮問会議等の委員の中に、それぞれの領域では優れた業績を上げられた方が、そのことで認められた影響力でもって、教育現場を知らない、いわば素人の分野について発言されていることの影響も多分にあると思います。

教育を効率中心の経済界の市場原理に委ねることには、問題があると思うのは、大学人の一致した考えだと思います。一方で、このたびの薬害肝炎訴訟などでも分かるように、世論を盛り上げるだけの力が我々に不足していることは、否定できません。今後は、我々一人一人が、繰り返し法人化後の国立大学のことを幅広く多くの人に理解していただく地道な努力をしなければならないと、改めて感じた次第です。

IT技術の進歩は、文化・芸術、教育、研究、医療、政治、経済など様々な領域に大きな変化をもたらし、社会の動きを急速に変えつつある様に思えます。急速な経済発展は新たに環境汚染という地球規模の課題を生み、且つまた、ヒトの価値観も変えているようです。改めて未来社会の有り様や国際平和について考えなくてはならない時であると思います。そのために広島大学が何をなすべきかという原点を忘れずに、皆さんと共に新たな年に臨みましょう。

本年も皆様のご理解、ご支援をよろしくお願いいたします。


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