平成19年度(学位記授与式)

学長告辞(平成19年度学位記授与式)2008.3.23

本日、ここに平成19年度学位記授与式を挙行するに当たり、晴れて学位記を授与される卒業生、修了生の皆さん、誠におめでとうございます。広島大学を代表して、心からお祝い申し上げます。また、本式典にご列席のご家族ならびに関係者の方々に対しても心よりお慶び申し上げますとともに、日頃からの本学へのご支援に深く感謝申し上げます。また、ご多忙にも関わらず、本日の学位記授与式にご臨席いただきましたご来賓の皆様方にも厚くお礼を申し上げます。

広島大学は、昭和24年5月31日、それまであった広島文理科大学を始め8校を包括、併合して、広島市東千田町をメインキャンパスとする新制広島大学として設立されました。その後、「自由で平和な一つの大学」という建学の精神を継承し、平成七年にはこの東広島の地に統合移転を完了いたしました。そして、1.平和を希求する精神、2.新たなる知の創造、3.豊かな人間性を培う教育、4.地域社会・国際社会との共存、5.絶えざる自己変革、という理念5原則の下に、国立大学である広島大学に課せられた使命を果たしつつ、わが国有数の総合大学に発展して参りました。そして、来年、本学は創立60周年を迎えることになります。
皆さんは、広島大学の歴史に、それぞれが様々な形で大きな足跡を遺されることになります。
今、改めてこの間を振り返りますと、ノーベル物理学賞、化学賞に小柴昌俊氏、田中耕一氏がダブル受賞、iPS細胞の樹立、イラク戦争開始、SARSや鳥インフルエンザの流行、ジャカルタ、ロンドン、バリ島の爆弾テロ、アテネオリンピック、中越および中越沖地震、パキスタン地震、ジャワ島地震、食品偽装、サブプライム問題に端を発した金融不安など、科学の進歩、自然災害、人為的災害が相次ぎ、世界は大きく揺れ動いています。20世紀終わりから21世紀にかけての社会の変化は、人類史上、かつて経験したことのない急激な変化であり、それは情報化技術など科学技術の進歩に代表される人類の発展につながる変化と同時に、環境、食料、エネルギー、テロなど、新たな人類の課題をも生んでいるように思います。このような環境の中で、皆さんは広島大学で学生生活を送られました。
国立大学は、大学の教育研究に対する国民の要請に応えるとともに、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図ることを目的として、平成16年に法人化されるという大きな出来事がありました。広島大学においても、この間、大学院のすべての講座化が完了し、国際コミュニケーション英語能力テストTOEICの導入、学生による授業評価の実施、北京研究センター、総合博物館、宇宙科学センター附属東広島天文台の設置、到達目標型教育プログラムの開始、日本の大学で初のアクセシビリティーリーダー育成プログラムの開始、マーメイドカフェ広島大学店のオープン、歯科診療所の設置、第一回広島大学校友会ホームカミングデーの開催、広島大学基金の創設などが進められてきました。研究面でも、新規リチウム系水素貯蔵材料の開発、ケンタウルス座巨大ブラックホール観測の成功、非接触剛性イメージャによる肺腫瘍の検出、HiSIM半導体LDMOSの国際標準選定などの世界トップレベルの研究が達成されてきました。
広島大学は、我が国の基幹大学であると同時に、地域の大学として人材育成を通じて社会貢献を果たさなくてはなりません。また、21世紀人類共通の課題である環境、エネルギー、食料などの問題を解決するべく、これらの領域の科学研究を進めることも、広島大学に与えられた使命であると思います。加えて、これまでに積み重ねてきた業績、その中には間違いなく皆さんの業績も含まれています、それを活かして広島大学の特徴的な教育、研究を高いレベルに維持・発展させ、世界をリードする教育研究拠点を形成する責任も負っていると思います。
広島大学で学ばれた皆さんは、これから社会の構成員の一人として様々な形で社会貢献を果たしていくことになります。現代社会では情報化技術の進歩により、グローバル化が進み、科学技術は広く、急速に展開しています。このように多様化が進む社会で活躍する人材は、豊かな人間性を備え、幅広い知識を持つ必要があります。広島大学では、教養教育、専門教育を通じてその様な人材育成に取り組み、一般社会や国際社会に貢献できる、品位ある優れた社会人の育成に努めています。留学や観光旅行などで海外を旅した人は経験したと思いますが、世界中で「HIROSHIMA」という名はよく知られています。広島という名の持つ意味は大きいものがあり、その地にある広島大学で学んだということの事実を大切にしていただきたいと思います。
さて、入学から卒業、修了までの学生生活は、すべてが計画通りに進んできたことばかりではなかったと思います。混沌や挫折を経験して、それを乗り越えて、今日に至ったのです。今後、社会人になってからも多分このようなことの繰り返しです。しかし、この混沌や挫折から学ぶことは多かったのではないかと思いますし、これからも皆さんが成長するためには、むしろこのような困難の体験を貴重な経験として受け止めていただきたいと思います。
学生生活は、皆さんの人生の一部ですがとても重要な一部です。ここで学んだことがすぐに社会に出て役立つものではないかもしれませんが、皆さんの学生時代は様々な困難、課題を自分で考え、解決し、克服していく能力、「人間力」の様なものを身に付けることに重点を置いている時期なのです。皆さんが学生時代に身に付けた豊かな人間性を社会に出て一層育み、社会での様々な困難に遭遇しても、それを克服できるような人材に育っていくよう期待しています。
平成20年3月23日は、皆さんにとって大変意味のある一日です。広島大学の歴史に確実にこの日が刻まれます。そして、本日をもってこの地を離れる方々も、緑溢れる広大なキャンパスを脳裏に焼き付け、毎年11月第一土曜日に開催される予定のホームカミングデーには、この地を再び訪ねて頂きたく思います。
新しい門出を心からお祝いするとともに、皆さんの前途が希望に満ちあふれた未来になることを祈念し、お祝いの言葉といたします。

平成20年3月23日
広島大学長 浅原 利正


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