平成21年(年頭挨拶)

年頭挨拶 2009.1.5

平成21年1月5日

年頭挨拶

広島大学長 浅原 利正

新年明けましておめでとうございます。

2008年後半の経済危機は地球規模で、広範囲に人類社会に大きな影響を与え、2009年になっても、回復の兆しの見えてこない状況にあると思います。そのような社会環境の中で、大学運営をどのように行うかということは、私どもに与えられた新しい課題であると思います。

2008年は、世界を揺るがした深刻な経済危機に加えて、頻発するテロなどに代表される国際紛争、環境汚染、エネルギー、食料問題など、人類の存在を脅かす多くの地球規模の課題が浮き彫りにされた年でした。科学技術の急速な進歩は、人類に多くの恩恵をもたらすと同時に、多くの歪みをも生んでいるように思います。新しい年を迎え、改めて、これら人類共通の課題が、高等教育機関である広島大学に課せられた使命として受け止め、その課題解決に向けて取り組まなければならないと思います。

さらには、18歳人口が減少してゆく中での高等教育の在り様、教育の国際化など、高等教育機関に特有の課題もあります。

新しい年に臨み、改めて広島大学の最も重要な使命が「人材育成」であることを強調しておきたいと思います。人類社会における様々な課題解決に貢献でき、地域社会や国際社会でリーダーとして活躍し、持続可能な希望に満ちた次世代社会の構築に貢献できる人材の育成を最重点事項として受け止め、一層学生の視点に立った大学運営を進めなくてはならないと考えます。

2009年度は、第一期中期目標期間の最終年度に当たります。これまでの成果としては、到達目標型教育プログラムの導入、大学院講座化の完了、品質マネジメントシステムの導入などによる健全な病院経営、多様な人材の確保を可能とする契約職員・特任教員などの新しい人事制度の構築、COE(6件)やGP(26件)などの競争的資金の獲得、管理運営組織の見直し等であったかと思います。一方で、この間に明らかとなった課題としては、教育の質の保証への対応、教養教育の充実、世界的教育研究拠点の形成(G-COE)、人的・物的資源の確保、新たな社会的課題等に柔軟に対応できる教育研究組織の構築、一層効率的な管理運営などであると思います。

これらを踏まえた上で、広島大学が将来発展的に展開できるよう今後10年から15年先の大学像を示した「広島大学の長期ビジョン」を策定し、第二期中期目標期間の目標・計画を作成しなくてはならないと思います。当然のことながら、次期中期目標・中期計画の作成作業は、あくまで広島大学の将来計画に沿って実施されるものであり、その一部であることを認識しておく必要があります。

広島大学では、これまで幅広い分野において実績を積み重ね、教育、放射線障害研究、世界最初の被爆地広島に開学したが故の「平和」などで、外部から高い評価を受け、また、期待されてきました。これらのブランド力を活用しながら、加えて21世紀COEなどで評価を受けた先端機能物質研究、ナノエレクトロニクス、高等教育研究、放射線災害医療、国際環境協力、超速ハイパーヒューマンなどや、現在評価を受けて進みつつある萌芽的研究を発展的に展開してゆくことが重要です。改めて言うまでもなく、高等教育機関である大学は、時代の変化に翻弄されることなく、普遍的な役割を果たしていくことが求められています。そのため、大学での基盤研究をしっかりと確保した上で、重点研究の支援体制を整備し、斬新で独創的な発想が展開できるような仕組みを、確保していかなければならないと思います。

20世紀終盤の人類社会は、食料・エネルギー問題に直面し、環境破壊・汚染、テロなどの新しい課題を生みました。その意味するところは、「物の価値」を頂点として発展してきた20世紀の経済優先社会において、その社会基盤に大きな歪みが生じつつあることを示しているように思います。21世紀は、人類がこれらの課題解決に向けて取り組み、「心の豊かさ」が尊重され、人と人との豊かな人間関係を構築し、その結果、希望に満ちた人類社会が実現されるよう務め、そのことに私ども広島大学が貢献してゆかなくてはならないと思います。

年頭に当たり、人類社会が希望に満ちた未来に向かいますよう祈念するとともに、そのために私どもが何をなすべきかという原点を忘れずに、皆様と共に新しい年に臨みたいと思います。

本年も皆様のご理解とご支援をよろしくお願いいたします。


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