平成22年度(学位記授与式)

学長式辞(平成22年度学位記授与式)2011.3.23

最初に、去る3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の犠牲者の方々への心からのお悔やみと負傷者・被災者の方々へのお見舞いを申し上げます。そして被災地での復旧に取り組んでおられる関係者の方々に感謝と敬意を捧げます。

平成22年度学位記授与式を挙行するに当たり、広島大学を代表して、卒業生、修了生の皆様に激励の言葉を贈りたいと思います。本式典にご列席のご家族ならびに関係者の方々にも、日頃からの本学へのご支援に深く感謝申し上げます。また、ご多忙にもかかわらず、本日の学位記授与式にご臨席賜りましたご来賓の皆様方にも日頃のご指導、ご支援に対し厚くお礼を申し上げます。

広島大学は、1949年5月31日、新制広島大学として創立され、以来、「自由で平和な一つの大学」という建学の精神を継承し、国立大学としての使命を果たしつつ、わが国有数の総合大学に発展して参りました。

今、皆さんの在学中の主な出来事を振り返りますと、iPS細胞の樹立、「はやぶさ」の帰還、新生命体の発見などの学術研究の目覚ましい進歩・発展の一方で、環境破壊やエネルギー・食料不足問題、中東・北アフリカの民主化運動の高揚や口蹄疫・鳥インフルエンザの拡大などの人為的災害、自然災害が相次ぎました。そしてなんといっても3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は未曾有の被害を我が国全体にもたらしています。

20世紀後半から21世紀にかけて学術研究がめざましい進歩を遂げる一方で、新たな人類の課題も次々に生じています。国際規模での交流が常態化し、グローバル社会が進展する中で、広島大学は我が国の基幹大学として、21世紀人類社会を導く「知の拠点」として、国際社会で活躍できるグローバル人材の育成を果たして、持続可能な未来社会の構築に貢献して行かなくてはなりません。

このような環境の中で、皆さんは広島大学で学生生活を送られ、経験を重ね、広島大学の歴史に、それぞれが様々な形で大きな足跡を遺されました。その業績は永遠に記録されていきます。

私どもは皆さんに、学生時代には何事にも果敢に挑戦することを勧めました。しかし、いつも期待された成果が得られるわけではなく、むしろ期待通りにならなかったこと、あるいは挫折を経験したことの方が多かったものと思います。そして、この失敗や挫折の経験から学ぶことも多かったのではないかと思います。これからの人生においても、成功体験より、むしろそのような失敗や挫折の経験が皆さんを大きく成長させてくれるものと信じます。高く理想を求めて、失敗を恐れぬ勇気を持つことを私は期待しています。

本年1月、南太平洋でウナギの産卵場所が発見されたとの報道がありました。現在、仔魚から養殖しているウナギは仔魚が減少しているため、資源の枯渇が危惧されています。ウナギを卵から養殖できれば飛躍的にウナギの増産が可能になるそうです。1973年から産卵場所の調査を開始した我が国の研究チームが、本年1月、西マリアナ諸島西方でついに世界で最初にウナギの卵採取に成功しました。研究開始から38年、次第に仔魚を追って南下していき、途中1991年に10mmの仔魚を特定してから卵採取に至るまで数えても20年です。これについて皆さんは、世の中の大事に比べれば取るに足りない成果だと、あるいは感じられるかもしれません。しかし、私はこの成果に大変感銘を受けました。これは、長い時間を費やして一つの目的に取り組んだ結果得られた、優れた成果であると思います。人類の発展に資する優れた研究、業績に到達するにはそれを成し遂げるという信念を必要とし、困難にくじけない勇気と根気が不可欠だということを、この例は示しています。

学術研究の進歩はめざましく、環境変化は加速度を増しています。人類社会のグローバル化が進展し、国境を越えて交流が進み、私たちの活動は地球規模で展開しています。このような社会の環境変化を正面から受け止めると共に、決して近視眼的評価に惑わされて翻弄されること無く、人類社会への貢献という高い志を持って、国際社会を視野に入れて、大きな一歩を踏み出してください。

本日、卒業・修了して社会に出てゆく皆さんが、自分の中に確かな価値観を持ち、人生を長い目で大局的に捉え、目標を定めて、信念をもって着実に歩みを進め、志を果たすために、これから遭遇する様々な困難を克服できる人材に育っていくよう期待しています。

皆さんの前途が希望に満ちた未来に繋がることを祈念し、激励の言葉といたします。

平成23年3月23日
広島大学長 浅原利正


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