平成23年度(入学式)

学長式辞(平成23年度入学式)2011.4.3

最初に、去る3月11日発生しました東日本大震災による多くの犠牲者の方々に心からお悔やみ申し上げますと共に、負傷者・被災者の皆様にお見舞いを申し上げます。また、今なお不十分な環境の中で復興に取り組まれておられる皆様に感謝と敬意を捧げます。そして我が国が一体となってこれら被災地への支援に取り組み、一日も早い復興がなされ、力強い日本が戻ってくることを祈念しています。

本日、ここに平成23年度入学式を挙行するにあたり、新入生の皆さんの広島大学への入学を心より歓迎いたします。広島大学での学生生活が、皆さんの人生にとって輝かしく、そして確かなものになるよう祈念しています。

広島大学は、明治7年に創設された白島学校を嚆矢として、幾多の変遷を重ね、昭和24年5月31日、それまであった広島文理科大学を始め8校を包括・併合して、原子爆弾で被災した広島市東千田町をメインキャンパスに、新制広島大学として設立されました。森戸辰男初代学長が唱えられた「自由で平和な一つの大学」を建学の精神として継承し、(1)平和を希求する精神、(2)新たなる知の創造、(3)豊かな人間性を培う教育、(4)地域社会・国際社会との共存、(5)絶えざる自己変革、という理念5原則の下に、我が国の基幹大学として発展してきました。

20世紀後半から学術研究の進歩は加速度を増し、急速に且つ幅広く地球規模で展開され、人類社会の有り様も変えているように思います。学術研究の進歩によって、人類社会が数多くの恩恵を受けると共に、今回の原発事故に見られるように環境汚染やエネルギー不足、テロなど新しい課題も生んでいます。これら人類社会の抱える課題解決に向けて21世紀知識基盤社会の核となる大学の果たす役割は益々大きくなっています。広島大学は総合大学として、人類社会の課題解決に向けて取り組みを進めると共に、世界をリードする教育研究拠点形成を目指しています。

21世紀人類社会は国際交流があらゆる分野で進展し、グローバル化が加速して行きます。皆さんが卒業・修了後に活躍する社会は、国際社会、グローバル社会です。グローバル社会とは多文化共生社会です。多文化共生を受け入れるためには、日本から海外を見て行動することも必要ですが、海外から日本を見た視点、特に発展著しいアジア諸国から我が国を見た視点で、日本人としてどのように振る舞うべきかを考えることも重要です。グローバル社会では少なくとも異文化を理解し、受け入れるよう努め、我が国の優れた芸術・文化を身につけた上で国際社会へ歩みを進め、「共生」をキーワードとした国際平和を基盤として、持続可能な人類社会構築に貢献しなくてはならないと思います。異なる意見を受け入れ、その上で自らの考えを相手に正確に伝えることが求められます。コミュニケーションの手段としての語学力も必要です。そして、豊かなこころ、寛容の精神を持ち、幅広いバランスのとれた人間性が求められます。そのような人材が国際社会、グローバル社会で評価され、国際平和実現に貢献できると確信しています。

本学では、留学生の受け入れに積極的に取り組む一方、日本人学生の海外留学を支援するなど、国際交流を促進するべく取り組んでいます。本学で学んだことをきっかけとして、皆さんの国際理解が深まり、国際平和について語り合う機会が増えることを願っています。

高校まではいかにして正解にたどり着くかを学んできましたが、大学は答えのない課題に挑戦するところです。「大学で学ぶ」ということは、高校までの学習と異なり、人類社会における未解決の課題、正解がない課題に取り組むことです。時間をかけて、労力を積み重ね、なおかつ解決にたどり着かないこともあると思います。それ故、自分なりの答えを見つけた時の喜びは大きいのです。

そして未来の人類社会に貢献するという高い「志」を持ってください。志を高く掲げて行動することは大切です。

また、学生生活においては、何事にも果敢に挑戦することを勧めています。失敗を恐れず果敢に挑戦することで、期待通りの結果にならなくとも、その経験から学ぶことは多くあるはずです。実際に失敗を経験し、それを乗り越えることでのみ、失敗にどのように対処するか学ぶことができるわけです。そうした経験を重ねることによって、社会人となって遭遇する様々な困難を克服する力を身につけて欲しいと思います。オーストリアの精神科医で「夜と霧」の作者であるヴィクトール・フランクルは、「人間が本当に必要としているのは不安のない状態ではなく、価値ある目標のために努力することである」と述べています。私たちは困難を克服することで幸せを見つけることができるのです。

有意義な人生とは、自分の能力を最大限に発揮して生きる人生であるといえます。自分の能力を最大限に発揮するためには、学生時代に何事にも果敢に挑戦してください。挑戦を繰り返した結果、自分たちの掲げた目標や活動が未来に繋がることを見いだした時に、私たちは人生の意義を感じることができると思います。本日、広島大学に入学された皆さんが、高い志の下に大学の学問や学生生活と真摯に向き合い、果敢に挑戦し、その結果が将来の有意義な人生に繋がることを願っています。

本日、ここに3,749名の新入生を迎え、「希望に満ちた未来社会構築」という大きな夢に向かって、学生・教職員一体となって、爽やかに力強く歩み始めたいと思います。

平成23年4月3日
広島大学長 浅原 利正


up