平成24年(年頭挨拶)

年頭挨拶 2012.1.4

平成24年1月4日

年頭挨拶

広島大学長 浅原 利正

新年あけましておめでとうございます。2012年が人類社会にとり、良い年になりますことを心から願っています。

我が国は昨年、東日本大震災という国難に遭遇しました。被災地には、災害支援のための物資や義援金を送り、学生ボランティア、医療チームを派遣し、放射線災害対策チームも広島大学として継続して派遣・支援しています。しかし、被災地の復興や原発事故の収束には、長い年月を要すると考えられます。欧米ではこの間、金融不安が続き、ギリシャ、スペイン、イタリアなどでは首相が交代し、その影響は全世界に及んでいます。北アフリカ、中東での民主化運動は、むしろ社会の不安定要因になっています。さらに2012年には、米国、ロシア、中国など大国のリーダーの交代や選挙が予定されています。人類社会は大きく揺れ、まさに激動の時代を迎え、この様な環境変化の中で私たちがどう生きていくかが問われていると思います。

昨年末、質量の基になるヒッグス粒子存在の可能性が拡大したと、大々的に報じられました。昨年12月号の中央公論に、DNAの二重らせん構造を発見したジェームズ・ワトソンが、人類の課題であったがんの撲滅はまもなく可能となり、生物科学分野の将来の課題は、脳の発達と機能の解明、老化と肥満であると述べています。高知大学のグループは動物実験での成果を発展させ、臍帯血の幹細胞を利用して、正常分娩でもごく少数に発生すると言われている脳性麻痺を治療する臨床試験を、今年から開始すると公表しました。

学術研究の進歩を示すように、次々と新しい発見、解明がなされ、人類社会への貢献に繋がる成果を期待したいと思います。

本学では、2011年度の博士課程教育リーディングプログラムに「放射線災害復興を推進するフェニックスリーダー育成プログラム」が採択されました。このプログラムは、63大学、101件の中から、13大学、21件が採択されたもので、大変厳しい競争でした。東日本大震災を受けて本学の優れた実績が高く評価されて採択された本提案は、放射線災害を中心とする災害復興に必要な人文社会科学分野も含む、幅広い分野の人材を育成する学位プログラムです。本学に課せられた責任を果たすために、全学を挙げて取り組みたいと思います。

人類社会のグローバル化は加速度を増し、それにつれて環境汚染、エネルギー、食料・水不足問題、紛争やテロなど、複雑な要因が絡まった人類共通の課題も生んでいます。人類社会が一体となって、これらの課題解決に向けて、取り組みを進めなくてはなりません。人類社会で「共生」が強く求められていると思います。しかし、これらの課題を一気に解決する妙案は無く、正面から受け止めて、一つ一つを確実に解決していかなくてはなりません。

本学に課せられた課題は「希望に満ちた未来社会の構築に資する人材育成」です。人類の抱える課題解決に向けた世界トップレベルの研究を通じて、国際社会で活躍できる高度人材を育成することだと思います。

今、社会からは、将来の人類社会を担う若者の社会人基礎力が求められています。大学では、専門教育とともに、社会人基礎力に繋がる教養教育の充実はきわめて重要です。幅広い視野を持ち、異文化を理解しようとする態度を身に付け、困難を克服する力を持つ、志の高い「強い人材」を育成する教育内容でなくてはならないと思います。この様な資質が大学ですべて身に付き、授業だけで完結するとも思えません。しかし在学中に、そのような考え方を理解し、受け入れ、何事にも積極的に取り組む姿勢を身に付け、経験することは大切です。

さらに本学では、国際交流が進展する中で、国際社会で活躍できるグローバル人材の育成に努めています。留学生の受け入れを促進し、グローバルキャンパスの構築を進めるとともに、海外への語学研修、短期留学研修、INUネットワーク等を活用した長期留学制度を整備し、支援体制を充実します。また、大学院生の国際会議での発表を支援する取り組みも始めました。グローバル人材育成を目指す取り組みは、同時に、社会人基礎力の涵養にも繋がると思います。

国立大学法人化から、まもなく8年が経過しようとしています。この間に、病院運営や柔軟な人事制度の導入など改善できた部分もありますが、競争的環境は年々激化し、評価作業なども加わり、教育・研究に割く時間が減少するなど、課題も明確になったと思います。これらの課題解決に向けて、改めて取り組みを進めるとともに、国立大学の果たす役割を国民に説明する責任が問われています。

我が国の高等教育に求められている課題は、数多く指摘されています。「日本の大学は世界に通用するのか」「日本の大学は多すぎるのか」「大学は人材を育てることができるのか」など、大学の存在意義そのものが問われるとともに、教員・医療系人材の育成のあり方、法科大学院の将来像など、大学改革を求める厳しい意見が突きつけられています。東日本大震災対応への財政出動と国の財政逼迫を受けた財政規律という、相反する厳しい環境の下、我が国が一体となってこれらの課題解決に向けて取り組む中で、大学の役割が問われていると思います。国立大学が高等教育機関としての役割を果たし、「人間の絆が尊重される、希望に満ちた未来社会」が実現するよう努め、そのことに広島大学が貢献していかなくてはならないと思います。そのためには、現在検討中の教育・研究レベルの更なる向上を目指した大学改革を進めなければなりません。

2012年が、広島大学、人類社会にとり、より充実した年になりますよう祈念するとともに、常に未来社会のために私どもが何をなすべきかという原点を忘れずに、皆さんとともに新しい年に臨みたいと思います。


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