平成23年度(学位記授与式)

学長式辞(平成23年度学位記授与式)2012.3.23

卒業生、修了生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。平成23年度学位記授与式を挙行するに当たり、広島大学を代表して心よりお祝い申し上げます。ご家族ならびに関係者の方々にも心よりお慶び申し上げますとともに、日頃からの本学へのご支援に深く感謝申し上げます。また、ご多忙にもかかわらず、本日の学位記授与式にご臨席いただきましたご来賓の皆様方にも、日頃のご指導、ご支援に対し厚くお礼を申し上げます。

本日、卒業、修了の皆さんが在学中の、最近の主な出来事を振り返ってみますと、「はやぶさ」の帰還、新生命体の発見、質量の基となるヒッグス粒子発見の可能性など、学術研究の目覚ましい進歩・発展の一方で、環境汚染やエネルギー問題、欧州で続く金融不安、中東・北アフリカの民主化運動、毎年のように報告される寒波、地震や洪水など、人為的災害、自然災害が相次いでいたことが思い出されます。そしてなんといっても昨年3月11日に発生した東日本大震災は、被災地域だけでなく我が国社会全体に大きな影響を及ぼしました。私たちはこのことを決して忘れてはなりません。一人一人が力を合わせ、我が国が一体となって被災地の復旧・復興に取り組まなければなりませんが、それには長い年月を要すると考えられます。

人類社会は激しく変化し、益々多様性、複雑性を増し、新しい価値観の下での未来社会の構築が必要になっているように見えます。

このような現在にあって、未来社会を担う若者に対して、いわゆる社会人基礎力が求められています。社会人基礎力とは簡単に言えば「人類社会の中で自らが判断して生きぬく力」であると思います。そのためには知力、体力、精神力に加えて柔軟な判断力が必要ですし、他者を受け入れる寛容さも求められています。

私たちは皆さんに、何事にも果敢に挑戦することを勧めました。それは、結果としての成功体験より、積極的に挑戦した結果の失敗や挫折の経験がむしろ皆さんを大きく成長させてくれると信じているからです。これからも高く理想を求めて、失敗を恐れぬ勇気を持つことを期待しています。

昨年本学で講演していただいた、2008年ノーベル化学賞受賞者の下村脩先生の発見されたオワンクラゲの発光物質イクオリンは、その後GFP蛋白として生物学分野で様々な解析に応用され、偉大な発展研究に繋がりましたが、それまでにはおおよそ30年を要しています。基礎的な優れた発見がなされ、応用研究として確立し、人類社会の貢献に繋がるには地道な取り組みと長い年月が必要です。そして、人類の発展に資する優れた研究、業績に到達するには、それを成し遂げるまで「あきらめない」信念と困難にくじけない勇気が不可欠です。

人類社会は国境を越えて交流が進み、私たちの活動は地球規模で展開しています。国際間競争が激しくなる中で日本人の存在感が薄れつつあるように見えます。これから社会に出て行く皆さんが、その中で先人から継承されてきた日本の優れた芸術・文化を理解し、優れた資質を身につけ、日本人としての誇りを忘れずに活動してくれるよう願っています。1877年に来日した、大森貝塚の発見者エドワード・モースは、日本人の優れた資質を次のように述べています。「自分の国では道徳的教訓の重荷になっている善徳や品性を、日本人は生まれながらに持っているらしいことである。衣服の簡素、家庭の整理、周囲の清潔、自然及びすべての自然物に対する愛、あっさりして魅力に富む芸術、挙動の礼儀正しさ、他人の感情に就いての思いやり------これ等は恵まれた階級の人々ばかりでなく、最も貧しい人々も持っている特質である。」と。また、2011年に英国BBCが実施した世論調査でも、国際社会に影響を及ぼす17カ国、国際機関についての評価で「世界に良い影響を与えている国」として、我が国はドイツに次いで第2位でした。これらの高い評価を日本人として誇りとし、日本人の優れた資質や行動を継承し、グローバル化が進む社会でその期待に応えるよう活動して欲しいと願っています。

本日、卒業・修了して社会に出てゆく皆さんが、日本人としての誇りを忘れず、視点を未来に向けて、「人類社会への貢献」という高い志を持って、大きな一歩を踏み出してください。そして、これから遭遇する様々な困難を克服できる人材に育っていくよう願っています。

皆さんの前途が希望に満ちた未来に繋がることを祈念し、お祝いの言葉といたします。

平成24年3月23日
広島大学長 浅原利正


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