平成26年度(学位記授与式)

学長式辞(平成26年度学位記授与式)2015.3.23

 卒業生、修了生の皆さん、おめでとうございます。平成26 年度学位記授与式を挙行するにあたり、広島大学を代表して心よりお祝い申し上げます。ご家族ならびに関係者の方々にも心からお慶び申し上げますとともに、日頃からの本学へのご支援に深く感謝申し上げます。また、ご多忙の中、本日の学位記授与式にご臨席いただきましたご来賓の皆様方にも厚くお礼申し上げます。

 学術研究の目覚ましい進歩は、人類社会に大きな変化を与えています。iPS 細胞の開発はいよいよ再生医療の臨床応用へと繋がりつつあり、進化する人工知能、ビッグデータの展開などは社会の仕組みを根底から変えようとしているように思えます。フランスの経済学者トマ・ピケティ氏の「21 世紀の資本」は21 世紀の資本主義社会の課題を示唆して、議論が行き交っています。一方では、イスラム国の残酷なテロ行為、迷走する民主化運動、頻発する地域紛争、経済不安、貧富の格差拡大など、人類社会全体で対応が迫られている重要課題にも直面しています。国内に目を転じると昨年8 月、広島市北部で発生した土砂災害や発災から4 年を経過した東日本大震災、それに続く福島原発事故からの復興は未だ遠く、依然我が国社会全体の重要な課題であることに変わりありません。私達は今後も被災地に思いを馳せ、目を向け続けなければなりません。さらには増加する自然災害や高齢化社会、少子化社会の進展など、我が国固有の、解決に時間を要する困難な課題にも直面しています。

 人類社会は激しく変化し、益々多様性、複雑性を増しています。挑戦を繰り返し、発展してきた20 世紀社会を経て、日本をはじめとして社会的成熟度を増してきた先進諸国では、今発展を重ねてきたが故に失われたものに目を向ける必要があると思います。発展の過程で構築された20 世紀社会の価値観がそのまま維持されている経済優先社会では、功利主義や金銭への過度な信仰が蔓延して、高貴な精神へのあこがれが希薄になっています。人間一人ひとりの高い志、内なる誇りを失うようなことがあってはなりません。21 世紀社会の価値観について改めて深く考え、お金で測ることのできない価値、時間と手間をかけることの大切さに気づくことも肝要であると思われます。私たちが目指す安心して暮らせる持続可能な社会構築のためには、効率的で機能的なものを求めるだけではなく、時間的、空間的ゆとりの必要性に関心を寄せ、一人ひとりの存在を大切にした上で、「心豊かでしなやかな21 世紀社会」を目指すべきであると思います。

 未来社会を担う若者に「自らが判断して生きぬく力」、社会人基礎力が求められています。その期待に応えるためには知力、体力、精神力を鍛えることに加えて、他者を受け入れる寛容さも求められます。人類社会は国境を越えて交流が進み、私たちの活動は地球規模で展開しています。そのためこれから社会に出て行く皆さんは、生涯にわたって自らを鍛え、学び続ける習慣を身に付けなくてはなりません。先人から継承されてきた知識・知恵を身に付けるとともに、優れた芸術・文化に触れることで感性を磨き、視点を未来に向けて、「人類社会への貢献」という高い志を持って、大きな一歩を踏み出してください。そして、これから遭遇する様々な社会の中で大きく成長するよう願っています。

 皆さんの前途が希望に満ちた未来に繋がることを心から願い、お祝いの言葉といたします。

平成27年3月23日
広島大学長 浅原 利正


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