平成28年 年頭挨拶

年頭挨拶 (2016.1.4)

 あけましておめでとうございます。
 新しい年が教職員、学生の皆さんにとって、佳い年になりますよう心から願っております。

 さて、第二次世界大戦が終結して70年の節目であった昨年を振り返ってみますと、一言でいえば混沌と不安の1年であったと思います。国際情勢では、まず世界各地で頻発したイスラム過激派によるテロが挙げられると思います。フランスをはじめ数多くの市民が犠牲になりました。戦火を逃れて多数の難民がヨーロッパ各地に逃れ、テロリストの潜入とも相まって、民主主義社会の足元を揺るがしています。世界経済の行方も不透明感を増しています。

 国内に目を転じれば、安全保障関連法の成立に続いて、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉が大筋合意しました。沖縄県名護市辺野古沿岸部の埋め立て本体工事も開始されるなど、後世から見たとき、歴史の転換点を刻んだ年であったと理解されることは間違いないと思います。

 こうした中、今年4月から、第3期中期目標期間に入る国立大学もドラスティックな転換を迫られていることはご承知の通りです。財務省は財政制度等審議会で平成28年度から運営費交付金を毎年1%ずつ削減し、その減額分に見合う自己収入を毎年1.6%増やすよう提案しましたが、「平成28年度予算案」では対前年度比同額が確保されました。しかし、日本の財政状況を考えれば、大学にとって過酷な状況は大きく変わるとは思えません。

 また、文部科学省は昨年、「教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」とした通知を出しました。大学内外に大きな波紋を広げたことは記憶に新しいところであります。

 人文・社会科学系の知識は、教養(リベラル・アーツ)の基盤となるものであり、社会で活躍するためには不可欠であると、私は考えています。ただ、それは旧態依然でいいということではありません。大学卒業後も生涯にわたって教養を培っていく姿勢が不可欠であると思っています。海外でも国内でも同様でありますが、人を魅了することができるかどうかは、思いやりや教養の深さが大きく関わっています。専門しか分らないのではなく、幅広い教養を兼ね備えた専門家になっていただきたいと思います。

 今月、第3期の中期目標の原案と中期計画の案を文部科学省に提出いたします。3月には中期目標が文部科学大臣から提示され中期計画が認可されます。ミッションの再定義で認められた特色や強みを活かした機能強化、「研究大学強化促進事業」、「スーパーグローバル大学創成支援事業」タイプA(トップ型)の構想調書に記載した目標値を着実に達成するために、「広島大学改革構想」を実現しなければなりません。「主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を中核とする国立大学」の枠組みである重点支援(3)を選択した大学にふさわしい成果を上げていく必要があります。

 また、4月からは、いよいよ学術院がスタートします。全教員が限られた資源の中で最大限のパフォーマンスを発揮し、学部、研究科等といった教育研究組織の枠を越えて、学長のリーダーシップのもとで、大学の教育研究に取り組む新たな体制を構築することが強く期待されています。 教員組織と教育研究組織の分離は、大学改革の一環に他なりません。まずは走りながら少しでもより良いものにしていきたいと思っています。時流に迎合した小手先の「対策」ではなく、100年後を見据えたイノベーションに、本腰を入れて取り組みたいと思っています。

 将来に向かって広島大学がどう行動していくか。構想をまとめ、スピード感を持って実行していくためには、役員会や教育研究評議会とは別の視点が必要です。そこで、若手の先生方を中心に学長の諮問機関として「未来戦略会議」を設置しました。型破りな「とんでもない提案」が飛び出すことを期待しています。

 私は就任に当たって「100年後にも世界で光り輝く広島大学」を掲げました。講演やあいさつにお招きいただく機会を利用して「広島大学はすごい」とアピールしてまいりました。私自身、霞キャンパスで長く過ごしていたため、東広島キャンパスの研究についてはあまりよく知らなかったせいもありますが、各研究科や施設を訪ねて、皆さんからじかに話を伺った実感であります。しかし、広島大学人が築き上げてきた素晴らしい業績が、まだまだ十分に社会に伝わっていないことも確かです。広島大学のブランドイメージを高めるために、戦略的な広報に力を入れていく所存です。これは最終的に、学生・教職員の誇りや母校愛につながるばかりでなく、教育研究にも良い効果をもたらすと確信しています。大学は逆風下にあるといわれていますが、帆の向け方次第では、追い風とすることもできるはずです。

 「ええね!広大」―。教職員、学生、同窓生の皆さんがもっともっと胸を張ってそう言える大学を築くために、ともに手を携えて目標に向かって歩んでいきたいと思っています。

 最後になりますが、昨年末エジプトカイロ市を佐藤理事とともに訪れました。カイロ大学とアインシャムス大学とのMOU(大学間協定書)を締結するためであります。昨年は、戦後70年、原爆投下70年の節目の年でありましたが、原爆被災者も少なくなり、広島=原爆=平和という構図は今の世の中ではもう、少し古くなったのではないかと批判されたこともありましたが、エジプトに行って広島から広島大学からの平和へのメッセージがいかに重要であるかわかりました。テロや地域紛争の多発する現在こそ広島大学の平和学の役割の意義が深く理解されていることに感銘を受けました。

 冒頭に述べましたが、今年一年がみなさんにとって、また、広島大学にとってよい一年でありますと同時に世界が平和であることを祈念したいと思います。ただ祈る前に、広島大学構成員ひとりひとりが広島大学のために、また、世界のために何ができるか考えていただきたいと願い私の挨拶にかえさせていただきます。
 本日は誠におめでとうございます。

平成28(2016)年1月4日
広島大学長 越智光夫


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