第178回学位記(博士)授与式

学長式辞 第178回学位記(博士)授与式 (2016.1.19)

 本日、13名の方々に博士の学位を授与いたしました。まことにおめでとうございます。広島大学を代表して心からお祝い申し上げます。
 
 皆さんが晴れてこの日を迎えられたのは、ご自身のたゆまぬ研鑽と努力の賜物であるとともに、ご家族や友人、教員など、様々な人たちの理解と支えがあったことは言うまでもありません。このことをしっかりと心に刻んだうえで、広島大学博士として胸を張って一歩を踏み出していただきたいと思います。
 
 さて、新しい年、2016年がスタートしました。世界各地でテロが相次いだ昨年は、混迷と不安の1年でしたが、今年はどんな年になるのでしょうか。元旦付の新聞各紙が掲げた社説や論説には、次のような見出しが並んでいます。
 
「世界の安定へ重い日本の責務」(読売新聞)
「分断される世界 連帯の再生に向き合う年」(朝日新聞)
「2016年を考える 民主主義 多様なほど強くなれる」(毎日新聞)
「新たな時代の『追いつき追い越せ』へ」(日本経済新聞)
「年のはじめに 再生に向かう力の結集を」(産経新聞)
「憲法公布70年 民主主義を鍛え直そう」(中国新聞)
 
 立場は異なっていても、「世界」「再生」「民主主義」というキーワードが浮かび上がってきます。グローバルな視点から、さまざまな困難を乗り越えて再生に挑戦していく年であり、その基盤となるのが民主主義である、と私は理解しています。まさに、この考え方はアカデミズムの分野にも当てはまるのではないかと考えています。
 
 学術研究に国境はありません。昨年暮れ、理化学研究所のチームが人工的に合成した新元素が原子番号113番の元素として認定され、日本が命名権を得たというニュースが流れました。これもアメリカとロシアの研究チームと激しく競い合った末の朗報と聞いております。
 また、5年前の東日本大震災と福島原発事故を機に、科学者に対する国民の信頼が揺らいだことは記憶に新しいところですが、さらにSTAP細胞事件をはじめ研究不正が相次ぎ、研究者の質や倫理観が厳しく問われる事態になりました。こうした危機的な状況を打ち破り、学術研究をいかに再生していくか、研究者個人はもとより、大学・研究機関、学術コミュニティーの覚悟と戦略が求められていることは間違いないと思います。
 
 2013年に科学技術・学術審議会が建議した「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の在り方について」によれば、学術研究とは「個々の研究者の内在的動機に基づき、自己責任の下で進められ、真理の探究や課題解決とともに新しい課題の発見が重視される」研究であるとされています。「学問の自由」に象徴されるように、研究者が自主性・自律性に基づいて、自らの研究能力を最大限に発揮することが求められているのです。健全な民主主義の発展がなければ自由な学術研究も危うくなることは、過去の歴史が示している通りであると考えています。
 
 皆さんの行く手には、解の見つかる問題ばかりが待ち受けているとは限りません。専門的学識とともに、幅広く深い教養、すなわちリベラルアーツこそが、こうした難題に遭遇した時の羅針盤となるはずです。世界最初の被爆地に開学した広島大学で学位を取得された皆さんにはぜひとも、「平和を希求する国際的教養人」としての素養を磨き続けてほしいのです。
 
 ご承知のように、広島大学は2013年に文部科学省の「研究大学強化促進事業」の22機関に採択され、続いて2014年には文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援」タイプA(トップ型)13大学の1つに選ばれました。名実ともに「卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を中核とする国立大学」として、「10年後に世界ランキングトップ100」を目指して、全学を挙げて取り組んでいるところです。
 
 「100年後にも世界で光り輝く広島大学」を目指し、これから世界や地域に羽ばたいていかれる皆さんとスクラムを組んで、研究力と教育力を磨いていければと願っています。
 
 終わりに、皆さんの前途が夢と希望に満ちたものとなることを祈念いたしまして、はなむけの言葉といたします。

平成28(2016)年1月19日
広島大学長 越智光夫


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