平成27年度 学位記授与式

学長式辞 平成27年度学位記授与式 (2016.3.23)

 本日、広島大学を卒業される3,684人のみなさん、おめでとうございます。
 平成27年度学位記授与式を挙行するにあたり、広島大学を代表して心からお祝い申し上げます。ご家族ならびに関係者の方々のお慶びもひとしおのことでしょう。また、お忙しい中、本日の学位記授与式にご臨席賜りましたご来賓の皆様方にも厚くお礼申し上げます。

 ちょうど5年前の平成23年3月11日に発生した東日本大震災と福島原発事故では、翌日から支援活動に取り組み、現地に派遣した緊急被ばく医療チームは延べ1300人を超えます。当時、病院長だった私も直ちに福島を訪れ、広島大学が継続的に支援していくことを福島県知事に約束しました。住民の皆さんの熱いまなざしに、被爆地ヒロシマの大学としての使命を痛感したものです。

 今や、広島大学は国内有数規模を誇る総合研究大学となりました。平成26年度にはスーパーグローバル大学創成支援事業タイプA(トップ型)13大学に、中四国で唯一選ばれました。英国のタイムズ・ハイヤー・エデュケーションとQSの世界大学ランキング最新版によると、広島大学はともに全国公私立大学で12位にランクされています。また、サイテーション(論文1本当たりの被引用数)はいわゆる旧帝国大学と肩を並べる実績を挙げています。

 ただ残念なことに、国内的には「地味でおとなしい広島大学」といったイメージが根強く、必ずしも実力通りの評価がされているとは言えません。 私自身も昨年から今年にかけて中東、東南アジア諸国を訪問し、広島大学への期待の大きさを肌で感じてまいりました。世界ランキングトップ100を目指す力のある大学として、全学を挙げて目標達成に取り組んでまいりたいと考えております。

 さて、皆さんは洋々と広がる未来に胸を膨らませていることでしょう。その一方で、一抹の不安も感じておられるかもしれません。1年前、私は学長就任に当たって「平和を希求する国際的教養人になってほしい」と呼び掛けました。英語を始めとする外国語でコミュニケーション能力を磨くとともに、また高度な専門知識や技術を伸ばしていくことの大切さは、言うまでもありません。しかしながら、「解答」のない未知の難題に直面したとき求められるのは、自らの頭で考え、切り開いていく教養の力なのです。魅力あふれる人になるためにも、専門知識のみならず、幅広い教養が欠かせません。それは、生涯にわたって涵養されていくものだと思います。

 平和を希求する国際的教養人を代表する一人に評論家の加藤周一がいます。評価の分かれる部分はありますが、戦後、日本だけでなくヨーロッパやアメリカでも活躍し、「知の巨人」と称されました。血液内科医でもあり、原爆投下直後の広島を日米合同の医学調査団の一員として訪れています。加藤周一が雑誌『文藝春秋』の1956年2月号に寄せた文章に、こんな一節があります。
 「未来については、たとえどれほど不安な未来であろうと、見とおしがなければならない。しかし未来の見とおしは、忘れられた過去の分析からひきだされないとしたら、一体どこからひきだされるのか」

 未来の見とおしを持つとはどういうことなのか、加藤周一は次のように述べています。
 「先の見とおしをもつということは、すでにあった事実のなかからある一つの方向をもった流れをみつけだすということである。その操作は事実の収拾だけでは完結しない、事実の集積に対する精神の側からの積極的な働きかけを必要とする」

 敗戦という未曽有のパラダイム転換を経た70年前と、単純に比べることはできないとしても、「混沌と不安」の中で既存の価値観が大きく揺らいでいる状況は、現代も変わっていないのではないでしょうか。

 古代中国の書『易経』に、「彰往察来」という言葉があります。往をあきらかにして来を察す、すなわち往時の事柄を明らかにし、未来を洞察するという意味です。加藤周一の言葉に相通じると考えています。時流に流されることなく、先人たちが残した事実に目を凝らし、そこから歩むべき道を自ら見いだす志を持っていただきたいと思います。

 この一年を振り返ってみますと、さまざまな出来事がありました。学長に就任してすぐの昨年4月17日には、学生と留学の重要性やグローバル人材をテーマにディスカッションしたいと、キャロライン・ケネディ駐日米国大使が広島大学を選び、広島市の霞キャンパスを訪れました。
 この3月7日、ノーベル生理学・医学賞を共同受賞されたケンブリッジ大学のジョン・ガードン博士と、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥博士を広島大学にお招きしました。講演会に参加された方も多いと思います。

 皆さんには、国際的に高い知名度を持ち、世界のトップ研究者も訪れる広島大学で学んだことを誇りにしていただきたいのです。そして、堂々と胸を張って「ええね!広大」と社会にアピールしてくださればと願っております。諸君の中から日本をそして世界をリードする人々が必ずや出てきます。自分に自信を持って未来に向かって歩んでください。

 きょう巣立っていかれる皆さんの前途が、夢と希望に満ちたものとなることを祈念して、はなむけの言葉といたします。

平成28(2016)年3月23日
広島大学長 越智 光夫

 


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