平成29年度 入学式

学長式辞 平成29年度入学式 (2017.4.3)

 広島大学に入学された皆さん、おめでとうございます。晴れの日をともにお祝いできますことを、心より嬉しく思っております。これまで陰になり日なたになって皆さんを支えられてきたご家族、関係者の方々に、あらためて感謝の気持ちを持っていただきたいと思います。

 さて、広島大学での新たな一歩を踏み出されるにあたり、広島大学長として、また卒業生の一人として、皆さんに知ってほしいことがあります。それは、広島大学の歩んできた道、すなわち歴史であります。

 広島大学は68年前の昭和24年、新制国立大学として広島の地に開学しました。広島文理科大学、広島高等師範学校、広島師範学校、広島高等学校、広島工業専門学校、広島医科大学など、国立大学で最も多い9つの前身校を持っています。教育学部の源流の1つである広島師範学校は明治7年開設の白島学校に遡(さかのぼ)り、143年の歴史を刻んで今日に至っております。この多様性こそ広島大学を形作ってきた大きな特徴であると言えます。

 それとともに、皆さんの心にしっかり留めていただきたいのは、「広島大学は平和の大学である」ということです。

 前身となった学校の多くは原爆が投下された爆心地から1~4kmの位置にあり、多くの生徒、学生、教職員が被爆し、犠牲になりました。文部大臣を経て広島大学の初代学長に就任した森戸辰男先生が提唱した「自由で平和な一つの大学」という建学の精神は、今も脈々と受け継がれています。新入生の皆さんには全員、戦争・原爆・貧困・飢餓・人口問題・環境などをテーマにした「平和科目」を履修していただきます。広島大学から「平和を希求し、チャレンジする国際的教養人」として育ってほしいと願っています。

 今や広島大学は、11の学部と11の大学院研究科を有するわが国有数の総合研究大学となりました。約1万5千人の学生が在籍し、海外からの留学生も72か国・地域の1,450人余に上っています。平成26年度にはスーパーグローバル大学創成支援事業タイプA(トップ型)13大学に中四国で唯一選ばれました。10年後の世界トップ100入りを目指し、全学を挙げて取り組んでいます。

 昨年3月に山中伸弥博士とジョン・ガードン博士、11月には梶田隆章(かじた・たかあき)博士と、3人のノーベル賞受賞者を本学にお迎えし、公開講演会を開催しました。今年度もあさって4月5日、本学サタケメモリアルホールに英国フランシス・クリック研究所長のポール・ナース博士をお招きし、第3弾となる講演会を開きます。ポール・ナース博士は細胞周期を制御する因子を発見した業績で、2001年ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。ポール・ナース博士に続き、4月から5月にかけて、柔道の井上康生(いのうえ・こうせい)監督やスポーツジャーナリストの二宮清純氏、本日もコンサートをしていただくオペラ歌手の中丸三千繪氏をはじめ、各界の著名人に「世界に羽ばたくための教養教育」を行っていただく予定です。国際的に著名なトップ研究者と交流のある素晴らしい先生方が広島大学には数多くいます。皆さんはそのような先生方のもとで学べることを是非、大いに誇りにして頂きたいと思います。

 昨年夏、PHP研究所から「広島大学は世界トップ100に入れるのか」というタイトルの新書が出版されました。本日の入学式にご出席いただいている保護者の方にお配りすることとしております。その本にも書かれていますように、世界トップ100に入るという目標は、現在のそして未来の学生のために素晴らしい教育研究環境を用意するという約束であり、それを目指して努力することは現在ここにいる私たち構成員の使命でもあります。この新書を通じて、広島大学の持つ真の実力を広く知ってもらえることを願っています。

 AIやビッグデータが社会の急激な変容をもたらす中、本学は来年4月、12番目の学部となる情報科学部を新たに設置するとともに、総合科学部に国際共創学科を新設する準備を進めています。また、工学部の改組も予定しております。時代の要請にも応えることができるよう、大学改革を進めてまいります。

 先にも述べましたが、広島大学は「平和を希求し、チャレンジする国際的教養人」の育成を掲げています。ただ、英語を話せることがイコール国際的教養人である、というわけではありません。大学で専門的な分野の学識を深めるのと同時に、幅広い教養、すなわちリベラル・アーツを生涯にわたって培っていくことが何より大切ではないかと、私は思います。それには芸術や文化、哲学などにも親しむ、間口の広さが不可欠であります。

 20世紀ドイツを代表する作家ヘルマン・ヘッセの小説「デミアン」に、次のような一節があります。

 鳥は卵の中から抜け出ようと戦う。卵は世界だ。

 生まれようと欲するものは、

 一つの世界を破壊しなければならない。

 また、禅の教えに「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉があります。啐(そつ)は口へんに卒業の卒と書き、雛が卵の外へ出ようと殻を内からつつくこと、啄(たく)は石川啄木の啄という字で、母鳥がそれに応えて殻を外からつつくことをいいます。この両者が同時にそろって殻が破れ、雛は外の世界に飛び立っていくことができるわけです。

 皆さんは、一人一人素晴らしい能力と個性を持っています。これからの4年間または6年間に自らの力を蓄え、殻を破って飛び立ってください。教職員一同も皆さんが事故なくすごせるよう、また「広島大学で学べて良かった」と満足していただけるように母鳥となって応援します。

 今日(こんにち)、戦争やテロが日常化した世界に、ポピュリズムと反グローバリズムの嵐が吹き荒れています。事実を捻じ曲げ、科学に罵声を浴びせかけるような風潮が強まっていることに、危惧の念を抱かざるを得ません。

 学問の自由のもと、知を育んできた最高学府である大学には、今までにも増してグローバルで開かれた精神が求められていると確信しています。それはまさに、先に述べた教養の考え方とも軌を一にするものです。「100年後にも世界で光り輝く広島大学」を目指して、一緒に広島大学の未来を切り開いていきましよう。

 きょうから始まる皆さんの学生生活が、実り豊かなものになることを心よりお祈りして、私からのお祝いの言葉といたします。

 

平成29(2017)年4月3日 

広島大学長 越智光夫 


up