平成30年度 秋季学位記授与式

学長式辞 平成30年度秋季学位記授与式 (2018.9.20)

 本日、学位記を受けられる324人の卒業生、修了生の皆さん、誠におめでとうございます。

 平成30年度秋季学位記授与式を挙行するにあたり、広島大学を代表して心からお祝い申し上げます。
 とりわけ海外からの留学生の皆さんは、学業のみならず、並々ならぬ努力をされて言葉や文化、生活習慣の違いという壁を乗り越えてこられたことと思います。この場であらためて敬意とねぎらいの言葉を贈ります。同時に、皆さんの今日の慶びは、ご家族や友人、先輩、後輩など周りの人々の理解と協力があって成し遂げられたことを機会あるごとに思い起こしていただきたいと思います。

 さて、広島県をはじめ西日本各地に甚大な被害と爪痕を残した今年7月の豪雨災害から2か月半が過ぎました。土砂災害や河川の氾濫によって多くの方々が犠牲になりました。ご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族並びに今なお避難生活を余儀なくされている被災者の方々に、心よりお見舞いを申し上げます。

 広島大学も施設の浸水や法面が崩壊するなどの被害がありました。ムスリムやベジタリアンの方々への食事の提供、大学までの交通手段の確保といった次々に出てくる課題に対し、さまざまな取り組みを行いました。この間、一斉休講や補講、期末試験期間の変更と目まぐるしい動きもあり、学生の皆さんにはご不便をお掛けしたことと思います。それにもめげることなく、多くの皆さんが前向きに行動してくださったことに感謝いたします。

 この豪雨災害に対し、広島大学は地域をまた日本を代表する総合研究大学として、私を団長とする豪雨災害調査団を組織し、ただちに活動を開始しました。工学や砂防学、心理学、医学など防災に関わる分野の研究者がスクラムを組みながら、専門的見地から広範囲にわたる調査・研究を行い、復興・まちづくりの提言を目指すものです。

 さらに発展させる形で、世界レベルの研究拠点となる「広島大学防災・減災研究センター」を構築することといたしました。土砂災害と洪水、内水氾濫が複合的に発生し、広範囲にわたって被害をもたらす「相乗型豪雨災害」を中心テーマに据えた、災害科学に関する最先端の学際研究を展開してまいります。

 近年の地球温暖化も相まって、数十年に一度起こるレベルの自然災害が、地球規模で頻発しています。こうした事態に遭遇した時、ともすれば私たちは「今までなかったのだから大丈夫」と都合よく解釈してしまいがちです。今回の災害は、たかだか数十年程度の経験値を頼りに、判断したり行動したりすることの難しさと危うさを、如実に示していると思います。

 これから先、自然災害だけではなく、地球環境の悪化や地域紛争・テロ、貧富の差の拡大など、容易に解決できない課題を私たちは避けて通ることはできません。このような難題に、私たちはどのように向き合っていけばいいのでしょうか。

 そのような時に思い浮かぶのが、英国の批評家チェスタトンが残した、次の言葉です。「未来を豊かに偉大にするには、過去を考えていなければならない」。中国の古典『論語』にある孔子の有名な言葉「温故知新(古きをたずねて新しきを知る)」とも、相通じるところがあります。先人たちの足跡に目を凝らし、そこから歩むべき道を切り拓く志を持っていただきたいと思います。

 ビッグデータや人工知能(AI)に象徴される高度情報化、またグローバル化の進展によって世界が大きく変容する中で、広島大学は今年4月、12番目の学部となる情報科学部と総合科学部に国際共創学科を開設いたしました。また、来年4月には大学院再編が始まります。教職員一同、心を一つにして広島大学の未来を創造していくことを約束します。

 終わりに、皆さんの前途が夢と希望に満ちたものとなることを祈念いたしまして、私からのはなむけの言葉といたします。

平成30(2018)年9月20日
広島大学長 越智光夫


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