平成31年度 入学式

学長式辞 平成31年度入学式 (2019.4.3)

 広島大学に入学された3,996人の皆さん、おめでとうございます。きょうの佳き日をともにお祝いできますことを、学長として、また同窓生の一人として心より嬉しく思います。同時に、これまで皆さんを支えてこられたご家族、関係者の方々に、あらためて感謝の気持ちを持っていただきたいと思います。
 さて、皇太子殿下のご即位まで1カ月足らずとなりました。平成に代わる新しい令和の時代がスタートします。この記念すべき年に晴れて広大生となった皆さんは、ひときわ感慨深いものがあるのではないでしょうか。諸君には、広島大学の学生としての誇りを持ち続けていただきたいと思います。

 広島大学も今年、創立70周年の節目を迎えます。
 原爆で廃虚と化した広島の地に、広島大学は文部大臣を経て初代学長に就任した森戸辰男先生の下、「自由で平和な一つの大学」を建学の精神として誕生しました。広島文理科大学、広島高等師範学校、広島師範学校、広島高等学校、広島工業専門学校、広島医科大学など、国立大学で最も多い9つの前身校を有し、源流の一つである白島学校の創設は明治7年(1874年)にさかのぼります。
 このような伝統を受け継ぎながら、広島大学は「平和を希求し、チャレンジする国際的教養人」を育成することを目標としています。
 広島大学に入った皆さんには、戦争や紛争、核廃絶、貧困、環境、宗教など多様な観点から、平和について考える「平和科目」を必修で学んでいただきます。平和の大切さを知り、平和のために、一人一人が何か出来ることを見つけてほしいと願っています。
 広島大学が誇る教授陣の教養教育に加えて、今月半ばからは、各界で活躍するリーダーによる「世界に羽ばたく。教養の力」と題した特別講義がスタートします。脳科学者の茂木健一郎先生、池谷裕二教授、Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎先生、また、本日ミニコンサートを行っていただくオペラ歌手の中丸三千繪様をはじめ素晴らしい講師陣のお話から、人生で未知の課題に直面した時のさまざまなヒントを得ていただけるものと確信しています。
 今や広島大学は、学生数約1万5千人を擁し、海外からの留学生も74カ国・地域の約2000人に上っています。文部科学省の「研究大学強化促進事業」22機関、及び「スーパーグローバル大学創成支援事業」(トップ型)13校の一角を占めております。昨年、「卓越大学院プログラム」13大学15件の1つに中四国で唯一選ばれた「ゲノム編集先端人材育成プログラム」をはじめ、教育面に加え、研究の質の面でも高い評価をいただいております。
 高度な科学技術の進歩は、私たちの生活を飛躍的に向上させる一方で、人間の生命・身体の安全を脅かす負の側面への懸念も強まっています。核兵器がまさにそうですし、最近では「ゲノム編集ベビー」の誕生など、先端技術への不信を高める行為が起きています。広島大学は、社会との開かれた対話を進めながら、新たな科学技術の安全性や倫理面にも全力をあげて真摯に向き合ってまいります。
 平和の時代を創造するために、ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士、朝永振一郎博士らが呼び掛けた1962年の「第1回科学者京都会議」の声明に、次のような一節があります。
 「科学は私たちの生きている世界に内在する真理の発見によって、人類に貢献してきた。しかし、科学にもとづいて技術的に実現し得ることのすべてが、人間にとって、また人類全体にとって望ましいものとはいえません。科学の発見した真理を、人類の福利と平和にのみ役立てるためには、科学者を含むすべての人が、科学の成果の誤用、悪用を防ぐことに不断の努力を続けなければならないのであります」
 半世紀以上を経てなお、その内容は全く色あせていないことに驚かされます。これから大学人となられる皆さんにも、心に留めていていただきたいと思います。

 大変革の時代にある今こそ、大学ではhow(どのような方法で)と同時に、物事のwhy(どうしてなのか)をじっくり考えてほしいと思っています。私をはじめ教職員一同が一体となって皆さんの素晴らしい教育環境を整え、支援して参ります。100年後にも世界で光り輝く広島大学の未来をともに切り開いていきましょう。
 今日から第一歩を踏み出される皆さんの学生生活が、実り豊かなものになることを心よりお祈りして、私からのお祝いの言葉といたします。 

平成31(2019)年4月3日
広島大学長 越智光夫


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