令和2年 年頭挨拶

年頭挨拶 (2020.1.6)

 あけましておめでとうございます。今年は、令和に元号が改まってから初めて迎える新しい年であり、いつもの年頭にも増して清々(すがすが)しさを感じます。皆さん一人一人にとって良き年となりますよう、心より祈念いたしております。
 昨年は、角筆研究の第一人者として知られる本学名誉教授の小林芳規先生が、栄えある文化功労者の顕彰を受けられるなど、嬉しいことも数多くありました。

 一方、地球を俯瞰してみれば、地球温暖化のもたらす深刻なリスクがまさしく現実のものになったといえます。
 10月中旬、台風19号が、東日本各地に記録的な豪雨をもたらしました。洪水や河川のはんらん、土砂崩れによって、多くの人命が奪われました。一昨年の2018年にも、日本列島は西日本豪雨や猛暑に見舞われました。「世界で最も気象災害がひどかった国は日本である」―。ドイツの環境シンクタンクが昨年末に公表した報告書は、私たちが肌で感じている通りであります。

 地球温暖化によって、海や陸の生態系にも深刻な影響が表れている折、昨年12月にスペインのマドリードで「国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議」(COP25)が開かれました。各国政府に具体的な行動が求められるのはもちろんですが、スウェーデンの若いグレタ・トゥーンベリさんが「希望は人々から生み出されるのです」と訴えたように、私たちも自分自身ができるSDGsの目標を定め、歩んでいく覚悟が必要です。

 平和に関しては昨年11月、ローマ教皇として38年ぶりに来日したフランシスコ教皇が長崎と広島を訪れました。「原子力の戦争目的の使用は倫理に反します。核兵器を保有することもまた倫理に反します」と、世界に向かってアピールを発したのは記憶に新しいところです。
 平和に関してもう一言申し述べれば、本学の平和センターが広島市立大学平和研究所とともに東千田の大学本部跡地に残る被爆建物の旧理学部一号館に移転することが決定しました。新たな平和教育研究拠点として、オール広島で世界に発信してまいりたいと思います。
 また、「平和の大学」として、被爆75周年にあたる今年、8月6日に海外からできるだけ多くの学生を広島に招くためのクラウドファンディングも計画中です。将来、彼らがリーダーとなって、広島の地で学んだ平和のメッセージを世界に広げてもらいたいと思います。東広島キャンパスで今年着工する国際交流施設についても、平和を希求しチャレンジする精神を育む場となってほしいと願っております。

 さて、昨年も、教職員や学生の皆さんから、さまざまなご意見やご提案を寄せていただきました。その中でも私が心からうれしく思ったのが、ある法務研究科修了生の方から届いたメールでした。
 この方は、家庭の事情で大学に進学するか否か悩んでいたそうです。その時、入学料および在学中の授業料を全額免除し、毎月10万円の奨学金を給付する広島大学フェニックス奨学制度を知って本学を受験、優秀な成績でフェニックス奨学生に採用されました。そして法学部を経て法務研究科に進み、昨年5月、司法試験に見事合格しました。 
 いま司法修習生として頑張っているというこの方は「フェニックス奨学制度のおかげで切り拓くことのできた進路です。良い実務家になれるよう一層精進してまいります。」と記し、今後は支える側になり、少しでも広島大学の力になれるよう努めたい、と結んでいました。

 大学はまさに変革期の真っただ中にあります。広島大学も大学院改革やそれに伴う運営体制の改革等に主体的に取り組んでまいりましたが、今年4月の人間社会科学研究科と先進理工系科学研究科の設置をもって、ほぼ一段落いたします。皆さん方にはこの間、大きなエネルギーを振り向けていただきましたことに感謝いたします。これからは、落ち着いた環境で一層教育研究に励んでいただけることと確信しております。

 もとより、大学改革は執行部だけで進められるはずもありません。皆さんのアイデアや提案こそが、新たなイノベーションを生み出す力となります。広島大学の未来のために、皆さんとともに歩んでまいりたいと思います。そして将来振り返った時、歩んだ道が光り輝き、正しかったと言えることを切に願っています。
 最後に、教職員、学生の皆さんそしてご家族の方々にとって実り豊かで、何より平和な年となりますことを祈念いたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。

令和2(2020)年1月6日
広島大学長 越智光夫


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