学長式辞 令和元年度学位記授与式 (2020.3.23)
広島大学を巣立っていかれる3,671人の皆さん、誠におめでとうございます。令和元年度の学位記授与式を挙行するにあたり、広島大学一同を代表して、心よりお祝いの言葉を申し上げます。
まず、皆さんにとって、生涯に一度の学位記授与式が、新型コロナウイルス感染防止を最優先にする観点から、このような形となりましたことを大変残念に思っています。
今日のよき日を迎えるに当たって、卒業生・修了生の皆さんにはこれまでの人生を支えてくださったご家族や先生、また先輩・後輩の方々に対する感謝の気持ちを新たにし、持ち続けてほしいと願っています。
皆さんが広島大学で過ごされた2010年代後半、元号でいえば平成から令和に移る時期は、後(のち)の世から見ると、グローバル化する危機に向き合わざるを得なかった時代の幕開けであったと記憶されるのではないでしょうか。
一昨年の広島を襲った豪雨災害をはじめ、地球温暖化の影響による世界各地での自然災害、また、パンデミックの局面にある新型コロナウイルス感染症など世界規模で生じている諸問題です。
人と感染症の歴史を語るときに忘れてならないのが、「疫学の父」と称されるイギリスの医師ジョン・スノウの功績です。コレラが大流行した19世紀半ばのロンドンで、スノウは患者の発生した家々を訪ねて、患者たちが共通の井戸水を使っていることを突き止めました。コレラ菌が発見される30年以上も前に、この井戸の使用をやめさせ、更なる感染の拡大を食い止めたのです。後年、スノウは次の言葉を残しています。「病気を防ぐための方策はその原因の正しい知識に基づかなければならない」。これはまさにエビデンス・ベースド・メディシンです。
さて、このような危機の21世紀に私たちはどう立ち向かっていけばいいのでしょうか。そのヒントが、大学での学びにあると思います。
大学や学術団体を意味するアカデミーは、古代ギリシャの哲学者プラトンが設立したアテネの郊外に建てた学園、アカデメイアを語源としています。アカデメイアは哲学、数学、天文学など純粋学問の探求とともに、理想的な政治家の養成という実践的な目的も併せ持っていたとされています。
大学が果たすべき役割を巡っては、ともすれば基礎か応用か、真理探究か社会貢献か、といった二項対立的なとらえ方をされがちですが、それらを一体としたアカデメイアのダイナミズムの方向性に今こそ、一体となり向かわなければならないと考えます。
アカデメイアはまた、一方的な講義形式をとらず、問い掛けと答えという対話を重ね、考えさせ続ける教育を実践したことでも知られています。私も、繰り返し強調して来ましたが、大学で学ぶことは、how(どのように)を習得するとともに、自らの頭でwhy(なぜ)を考え続けることであります。
皆さんはこれから歩んでいく人生という航海の中で、嵐に遭遇したり、進むべき方向を見失ったりする時もあるかもしれません。自ら正確な問いをたて、答えを考え続けることで、壁を乗り越えて行けると確信しています。
さて、国内有数の総合研究大学として発展してきた広島大学は、2013年に文部科学省の研究大学強化促進事業、2014年にスーパーグローバル大学創成支援事業タイプA(トップ型)、2018年に本学の「ゲノム編集先端人材育成プログラム」が中四国で唯一、卓越大学院プログラムに採択されました。また昨年度は、内閣府の地方大学・地域産業創生事業に採択され、新たな共同教育研究施設「デジタルものづくり教育研究センター」を設置しました。
さらに、昨年は日本経済新聞社と日経HRによる「企業の人事担当者が見た大学イメージ調査」で、広島大学は対人力が全国1位、行動力も全国3位という評価をいただきました。広島大学が培ってきた教育の伝統に加え、実社会で活躍されているOB・OGの方々のたゆまぬ努力の賜物であると嬉しく思っております。皆さんも広島大学の卒業生・修了生として自信と誇りを持って、未来に羽ばたいてください。
1945年8月6日、広島に原爆が投下されてから4年後、広島大学は焦土の中から「平和の大学」として開学しました。今年は被爆75周年の節目の年でもあります。平和でなければ人類の安寧はありません。皆さんには「平和を希求する国際的教養人」として「自分が平和のために何ができるか」を考え、果敢にチャレンジしてほしいと願ってやみません。
そして、折に触れてキャンパスを訪れ、後輩にアドバイスをいただければ幸いです。頼もしく成長された皆さんに、またお目に掛かれることを楽しみにしております。広島大学は教職員一丸となって大学改革に取り組んでいます。必ず、新しい広島大学をお目に掛けられると信じています。
門出に当たり、皆さんの未来に幸多からんことを心より祈念いたしまして、はなむけの言葉といたします。
令和2(2020)年3月23日
広島大学長 越智光夫