令和2年度 入学式

学長式辞 令和2年度入学式 (2020.4.3)

 広島大学に入学された3,847人の皆さん、おめでとうございます。
 令和の時代がスタートして初めての春の入学生をお迎えすることができますことを、学長として、また広島大学同窓生の一人として心より嬉しく思います。同時に、この記念すべき日に、これまで皆さんを支えてこられたご家族、関係者の方々に感謝の気持ちを新たにし、今後その心を持ち続けていただきたいと思います。

 新型コロナウイルス(COVID19)の感染が世界各国で急速に拡大している現状を考慮し、入学生の皆さん、そしてご家族の皆様の健康と安全を最優先し、このような形でお祝いの言葉を述べることについて、なにとぞご理解をいただきますよう、お願いを申し上げます。
 
 さて、今年は広島に原爆が投下され、歴史上初めて核兵器の使用により多くの人々の命が一瞬で奪われてから、75年の節目になります。広島大学は被爆4年後の1949年、「自由で平和な一つの大学」という建学の精神を高く掲げ、なによりも平和を希求するたゆみない意志、自由で創造的な学問と豊かな人間性をはぐくむ教育を目ざし、地域社会、そして国際社会に貢献するために開学しました。

 本学の源流の一つである白島学校の創設は明治初頭に溯ります。そして、戦前、広島文理科大学など9つの広島大学前身校が発展し、国内有数の大学教育の伝統を築きました。さらには、原爆の惨禍をも乗り越え、戦後、広島大学として、広島市の復興とともに、着実な成長を続け、今や、学生数約1万5千人を擁し、海外からの留学生も世界71の国・地域から2100人余に上っています。

 文部科学省の「研究大学強化促進事業」22機関の一角を占め、また「スーパーグローバル大学創成支援事業」(トップ型)13大学、及び2018年度「卓越大学院プログラム」13大学の1つに、中四国で唯一選ばれました。このように教育、研究の両面で公的に高く評価されているところです。

 大学は「学問の府」であるといわれます。「あこがれの広島大学に入って、目指す専門分野の知識を身に付けよう」と、皆さんもきっと意欲を燃やしているのではないかと思います。もちろん大学で高度な専門知識を学ぶことは極めて大切なことです。しかし、決してそれだけが大学という場ではありません。
    
 皆さんは、一つの課題に対する「正解」は一つしかないと思い込んでいませんか。しかし、現実の社会に目を向けると、正解が幾通りもあるケースや、そもそも正解自体がないような想定外の難題に対処しなければならないことも、決して珍しいことではないのです。

 学問の各分野でも同じことが言えます。勉学や研究の中で壁にぶつかったときも同じなのです。今回の新型コロナウイルスによるパンデミックや地球温暖化がもたらす気候変動のように、予想もできないグローバルな危機が待ち受けています。みなさんには、人生でこうした困難に遭遇した時に立ち向かう力を培うことが求められているのだと思います。言い換えれば、大学での学びの要諦は、与えられた問題の決まった答えを効率良く引き出すことよりも、挑戦し、みずから「問い」を的確に立て、創造的で自由な精神を発揮して、解決する道を探ることにあるといえます。

 くじけず挑戦する創造的精神の源泉となるのがリベラルアーツ、すなわち人類の叡知の結晶である自然科学や人文科学、芸術などの幅広い学問分野に触れ、多角的な視座を身に付けるための教養教育です。

 広島大学には文理の枠を超えた教養教育の深い伝統があります。それに加えて、新入生の皆さんには「世界に羽ばたく。教養の力」と題した特別講義を用意しています。学術はもとよりビジネス、スポーツ、芸術など各界で活躍するリーダーの方々に講師をお願いしています。人生で役立つさまざまなヒントや勇気を得ていただけるものと確信しています。
  
 化学と物理学の歴史を塗り替えたことで知られるマイケル・ファラデーは、本屋で働きながら多数の科学書を読みこなし、知的好奇心を育んだそうです。名著「ロウソクの科学」に、次のような一節があります。

「何か結果が得られたとき、とくに新しい結果が得られたときには、『何が原因なのだろう?』『なぜ起こったのだろう?』と問い続け、最後にその理由を明らかにしてほしい、と私は願っています」

 大学においても、How(どのような方法で)だけを学ぶのではなく、物事のwhy(どうしてなのか)をじっくりと考えることが大切なのです。

 パンデミックがいつまで続くのか先が見えない中、皆さんの胸の内では期待と不安が交錯していることと思います。教職員一同、皆さん一人一人が健康で安心して学べるよう修学環境を整え、「広島大学で学んでよかった」と思っていただけるよう、全力を挙げてサポートしていきます。どんな小さな悩みでも、気軽に相談してください。

 広島大学はひるむことなく、100年後にも世界で光り輝く広島大学の未来に向かって、学生の皆さんとともに歩んでいきたいと願っています。
 
 最後に、今日から始まる皆さんの学生生活が充実したものとなることを心よりお祈りして、私からのお祝いの言葉といたします。 
 

令和2(2020)年4月3日
広島大学長 越智光夫


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