令和2年度学位記授与式

学長式辞 令和2年度学位記授与式 (2021.3.23)

 本日、広島大学を巣立っていかれる3,750人の皆さん、卒業おめでとうございます。令和2年度の学位記授与式を挙行するにあたり、広島大学を代表してお祝いの言葉を申し上げます。新型コロナウイルスのパンデミックという逆境を乗り越え、門出の日を迎えられた皆さんのご努力に、心から敬意を表します。

 今、皆さんの胸には、広島大学で過ごした日々の思い出がよみがえっていることでしょう。しかし、もう一つ忘れないでいただきたいことがあります。今日を迎えることができたのは、自分一人の力ではなく、ご家族をはじめ先生、周りの方々が支えてくださったおかげである、ということです。一生の思い出となる学位記授与式の会場に、ぜひご家族の方々もお迎えしたかったのですが、感染拡大防止を最優先とさせていただきました。何とぞご理解をいただきますようお願い申し上げます。

 新型コロナウイルス感染症の第一例が2019年12月に報告されてから1年余りが経過しました。いわゆるコロナ禍は世界中に広がり、本学においてはキャンパスへの立ち入りや課外活動の制限が長期間続くなど、学生の皆さんには大変なご不便をお掛けすることになりました。ただ、皆さん一人一人の意識と行動によって、学内での感染の広がりを最小限に食い止めることができましたことを感謝します。

 授業については緊急事態宣言の発出を受けて第1タームの当初から、全授業をオンラインでスタートしました。第2ターム以降は順次、対面授業を拡大しながら、オンラインと対面の長所を生かしたハイブリッド授業を展開いたしております。

 新型コロナ感染拡大の影響で、アルバイトができなくなったり仕送りが減ったりして、日々の暮らしに困窮した学生の皆さんも少なくなかったと思います。広島大学は、全国に先駆けて応急学生支援金の給付を開始しました。給付件数は延べ880件に上り、4分の1を留学生が占めています。この取り組みには、卒業生をはじめ保護者、市民、教職員の皆さんから多大なご支援をいただきました。この場を借りましてあらためて御礼申し上げます。

 20世紀を代表するイギリスの歴史家であるアーノルド・トインビー博士は、著書「歴史の研究」で次のように述べております。

「人間が文明を実現するのは、すぐれた生物学的な素質や地理的環境の結果としてではなくて、人間を奮起させ、それまでに例のなかった努力をさせるような、特別に困難な事情の挑戦に対する応戦としてではないか」(サマヴェル縮冊版、長谷川松治訳による)

 トインビー博士は、自然環境や人間環境からの「挑戦」(チャレンジ)に対する人々の「応戦」(レスポンス)がうまくいった時に新たな文明が興っていると結論付けました。すなわち、逆境こそが文明を生む原動力であるというのです。

 今まさに私たちの社会は、新型コロナウイルス感染症の「挑戦」に対峙しています。ライフスタイルや国のありようを柔軟に変えていく「応戦力」が問われているように思います。

 こうした観点も踏まえながら、広島大学は改革の取り組みを前へ進めてまいりました。

 大学院については従来の11研究科から4研究科への統合が昨年で完了し、人間社会科学・先進理工系科学・統合生命科学・医系科学の4研究科体制が整い、専門分野の枠を超えた教育研究が進んでいます。
 
 国際化に関しても、米国アリゾナ州立大学のサンダーバードグローバル経営大学院広島大学グローバル校を昨年10月、東広島キャンパス内に設置しました。さらに12月には、中国・首都師範大学構内に本学森戸国際高等教育学院の北京校を設置することが決まりました。いずれも国立大学として初めての試みであり、今年は学生の募集、受入などが本格的に始まります。留学生や外国人研究者を受け入れる国際交流拠点施設もこの秋オープンする予定です。
 
 私自身、コロナ禍での日々を顧みますと、これまで疑いもしなかった日常を、あらためて考え直す機会になったようにも思います。皆さんはこれから歩んでいく人生という航海の中で、嵐に遭遇したり、進むべき方向を見失ったりすることもあるかもしれません。中国古典に「彰往察来」~往を彰(あきら)かにして来を察す、すなわち過去を知り、未来に備えよ、という言葉があります。歴史を鑑(かがみ)としながら自らの頭で考え続ければ、必ずや道は開けてくると確信しています。

 皆さんは広島大学の卒業生であることに誇りを持ってください。自信を持ち、全力を尽くしていれば、必ずや諸君の中から日本また世界の未来を牽引する方々が生まれると信じています。新たな旅立ちに当たり、皆さんの前途が幸多からんことを心より祈念いたしまして、私からのはなむけといたします。

令和3(2021)年3月23日
広島大学長 越智光夫


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