令和3年度 学位記授与式

学長式辞 令和3年度学位記授与式 (2022.3.23)

 本日、広島大学を巣立っていかれる3,629人の皆さん、誠におめでとうございます。令和3年度の学位記授与式に当たり、広島大学を代表してお祝い申し上げますとともに、皆さんの人生の大切な一時期を、共に広島大学で過ごせたことを本当にうれしく思います。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、2年余に及んでいます。厳しい学生生活を余儀なくされ、心が折れそうになることもあったのでないかと思います。その中でくじけることなく勉学や課外活動に取り組み、きょうのよき日を迎えられた皆さんに、学長として心より敬意を表します。
この間、ご家族の方々には、陰になり日向になり皆さんを支えてくださいました。ご家族の皆さまに感謝の意を伝えてください。きょうの学位記授与式にはぜひご参加いただきたかったのですが、感染拡大防止の観点から、見合わさざるを得ませんでした。どうかご理解を賜りますようお願い申し上げます。

まず、皆さんに申し上げたいのは、今、世界がまさに危機的な状況にあることです。ウクライナで起きている現実を目の当たりにして、怒りと悔しさを覚えざるを得ません。多くの市民や子どもたちが犠牲になり、ポーランドやモルドバなど隣国への避難を余儀なくされた人たちも約350万人に上ると伝えられています。あまつさえ、核兵器の使用をほのめかす発言も繰り返されているのです。
「平和を希求する大学」である広島大学は、ロシアによるウクライナ侵攻への抗議と平和的解決を求める学長メッセージを、全国の大学に先駆けて発出し、人道支援のための学内募金を開始しました。本学が初めて開催した「平和とSDGsに関する広島国際会議2022」でも、アカデミアの立場から、即時停戦と政府間対話による解決を求める共同声明を38カ国の参加者の賛同の下に発表したところです。
そしてちょうど今、避難民と周辺国支援のため、本学大学院医系科学研究科の久保達彦教授を団長とするJICAの調査団がモルドバに派遣され、緊急人道支援などのニーズ調査に当たっています。
今、国際社会に求められているのは、武力ではなく、英知をもって打開の道を探し続けていくことではないでしょうか。皆さんも戦火に巻き込まれた人たちの心に寄り添い、平和のために自分は何ができるかを考えて行動していただきたいと、切に願っています。

さて、皆さんの前には洋々たる未来が広がっています。就職する人、また大学院に進学する人、新たに起業を目指す人もおられるかもしれません。どのような道に進むにせよ、まず大切なことは、常識と教養を持った市民としての役割を自覚し、それぞれの場所で社会に貢献することではないかと、私は考えています。
その上で、現状に甘んじることなく、高みに向かってチャレンジしてください。皆さんの中から、世界や日本のリーダーとして活躍する人が出てくれることを期待しています。もちろん、職業や仕事だけがチャレンジではありません。ボランティア活動をはじめ、市民の立場で地域や社会のために汗を流すことも大切です。強く、気高い心を持っていれば、どんな苦難に直面しても、必ず乗り越えていくことができると確信します。

インドで貧困や病気に苦しむ人々の救済に生涯をささげ、ノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサは、次のような言葉を残しています。
「世の中の常識に矛盾することを、決して恐れてはいけません」
「私たちは、大きいことはできません。小さなことを大きな愛をもって行うだけです」

私たちができるのは、ほんの些細なことかもしれませんが、未来を信じて歩んでいきたいと思います。

 広島大学の今とこれからについて少しお話しします。
東広島キャンパスでは昨年10月、新しい国際交流拠点施設「ミライ クリエ」がオープンし、米国アリゾナ州立大学サンダーバードグローバル経営大学院の広島大学グローバル校も設置されました。広島大学発祥の地、東千田キャンパスには来年4月に法学部と大学院法学・政治学プログラムが移転します。霞キャンパスは医療人養成の拠点としての高度化を一層進めます。
世界の大学の社会貢献力を示すTHE大学インパクトランキングで、広島大学はSDGs17項目のうち5項目で世界トップ100に入りました。新制大学開学から75周年、前史を加えると150周年の節目の年となる2024年に向け、名実ともに中四国を代表する拠点大学として、広島大学は大きく羽ばたいていきます。
この先も広島大学が「100年後にも世界で光り輝く大学」であるために、私は学長としての役割を全力で果たしてまいります。皆さんも、素晴らしい大学で学んだことに自信と誇りを持ってください。

広島大学はいつも皆さんと共にあるホーム・グラウンドです。頼もしく成長された皆さんに、またお目に掛かれることを楽しみにしております。終わりに、はなむけの言葉を贈ります。
皆さんの未来に幸多からんことを。
そして、自由で平和な世界を紡ぐ人たらんことを。

令和4(2022)年3月23日
広島大学長 越智光夫


up