令和5年 年頭挨拶

年頭挨拶 (2023.1.4)

 あけましておめでとうございます。2023年、令和5年の年頭に当たって、一言ご挨拶を申し上げます。まずもって、3年に及んでいるコロナ禍が収束するとともに、ウクライナの人々に一日も早く平和が訪れることを願ってやみません。
 
 さて、いま人類は、次々に変異株が出現する新型コロナウイルスのパンデミック、そしてロシアのウクライナ侵攻に象徴される不条理な戦争という今世紀最大の危機に瀕しています。いまだ停戦の見通しも立たない中、未曽有のエネルギー危機と食料価格の高騰が世界中に波及し、経済や暮らしに深刻な影響を与えています。一方、東アジアにおいても、北朝鮮の度重なる弾道ミサイル発射、海洋進出を活発化させる中国の動きなど、予断を許さない情勢が続いていることはご承知の通りであります。

 その中にあって日本は、そして広島大学の立ち位置はどうあるべきでしょうか。広島大学は人類史上初の原爆投下から4年後、被爆地に開学しました。新しい年は、「平和を希求する大学」として、自由で平和な国際社会を実現し、人類の幸福に貢献するという使命を果たす覚悟が、問われる一年になるのではないかと思います。

 今年5月、主要国首脳会議(G7広島サミット)が広島市で開催されます。被爆地では初のサミット開催となるだけに、世界の首脳が原爆資料館を見て核兵器の怖さを肌で感じ、自国に帰って発信してほしいと願っています。また学生の皆さんには、平和や地球環境について考えたり、アクションを起こしたりする機会としてとらえていただきたいと思います。大学といたしましても、関連イベント等での学生ボランティアや国際学生シンポジウム、留学生の日本語スピーチコンテストなどにチャレンジしていただけるよう、準備を整えてまいります。
 
 そして来年は、広島大学創立75周年、白島学校開設から150周年の節目の年になります。さまざまな周年事業を展開すべく準備を進めております。広島のみならず東京や関西でも大きなイベントを催し、広島大学のレガシーと実力を積極的に発信してまいりたいと思っています。それとともに、各キャンパスの特色を生かした整備についても、周年に合わせて着実に進めてまいる所存です。

 東千田キャンパスは、「法曹養成を核とした人文社会科学系の新たな拠点」として整備します。いよいよ4月に、東広島キャンパスから法学部、大学院の法学・政治学プログラムを移転し、授業が始まります。学部生と大学院生合わせて約660人が東広島から移ります。法学部と法科大学院の連携を強化するとともに、法曹関係をはじめ多様な人々と直接触れ合う機会をつくることにより、教育環境の充実等にも取り組みます。それ以外にも広く活用していく予定です。

 霞キャンパスは「医療人養成の拠点」として整備します。医系と法学部の教養教育を行う「凌雲棟」では、昨年末から授業がスタートしました。m3.com Doctors LIFESTYLEによると、2021年に臨床医学領域でベスト25%以内にランクされるジャーナルへの掲載論文数は、広島大学が医学部のある国内82大学中10位、中国・四国地区でトップでした。いい論文が書けるということはいい医療提供環境にあると言えると思います。最先端医療を受けられるよりハイレベルでかつ、優秀な若手医師をひきつける魅力的な病院を目指し、人生100年時代を見据えた医療の高度化・活性化を進めます。放射線影響研究所の霞キャンパス移転に向けた事業費が、政府の新年度予算案に盛り込まれました。移転が実現すれば、放射線の人体リスク解明に向けた共同研究や教育へのメリットは大きいと考えています。

 メインキャンパスである東広島キャンパスは、国内外からの学生・留学生や研究者との交流促進の拠点として整備します。2021年秋、国際交流拠点施設「ミライクリエ」が完成したのに続き、国立大学初の海外大学誘致となるアリゾナ州立大学広島大学グローバル校が昨年8月、キャンパス内に開校しました。広島大学の学生にとっても大きな刺激になるものと思います。世界トップレベル研究拠点(WPI)に採択された「持続可能性に寄与するキラルノット超物質拠点」をモデルとして、理工系のトップレベルの世界的な研究者を国内外から招聘できる環境づくりを行います。持続可能な社会を先導する科学と技術を創成する人材育成を広島大学で行い、その成果を世界に向けて発信していくと同時に、広島県内の研究レベルを向上させて起業や投資の増加による地域の活性化に貢献いたします。

 第12代学長として2015年4月からほぼ8年間、「100年後にも世界で光り輝く広島大学」を目指し、そのための土台を築くことに微力を尽くしてまいりました。学長選考・監察会議より次期学長候補者として選出いただきましたことは、「責務を全うせよ」との決意を示されたものと厳粛に受け止めております。

 「たとえ明日世界が滅ぶとしても、今日私はリンゴの木を植える」。ドイツの宗教家マルチン・ルターの有名な言葉です。私は「学んでよかった」「働いてよかった」広島大学となるよう、構成員の皆さんとともに意見を十分交換しながら、一歩一歩前進していきたいと思っております。地域に愛され、世界から選ばれる大学を目指して、全身全霊で取り組んでまいることをお誓い申し上げるとともに皆さんとご家族にとりまして良き年となりますように、心より祈念し、年頭のご挨拶にいたします。

 

 

令和5(2023)年1月4日
広島大学長 越智光夫


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