令和5年度 入学式

学長式辞 令和5年度入学式 (2023.4.3)

 今日の佳(よ)き日、広島大学に入学された3,919人の皆さん、おめでとうございます。
 
 3年余りに及んだ新型コロナウイルス感染症対策が緩和され、学部と大学院の新入生の皆さんが一堂に会して入学式を開催できますことを、たいへん嬉しく思っています。
コロナ禍によるさまざまな制約の下で、高校などでつらい日々を過ごされた方もおられることでしょう。苦難を乗り越えて見事、志を貫かれました皆さんに、学長として、また広島大学卒業生の一人として、心から敬意を表します。
同時に、皆さんを支えてこられたご家族をはじめ、先生や周囲の方々への感謝の気持ちを忘れないでいただきたいと思います。

 きょうから広島大学生となられた皆さんに、まず広島大学の歴史と今を知っていただきたいと思います。
 広島大学は原爆投下から4年を経た1949年、現在の東千田キャンパスに開学しました。以来、「平和を希求する精神」は、広島大学の変わらぬアイデンティティーとして脈々と受け継がれています。
ロシアによるウクライナ侵攻から1年余り、広島大学は学内募金や避難学生の受け入れなどの支援を行ってきました。被爆地広島にある大学として果たすべき使命は何なのか、私たちは絶えず問い直し、行動することが必要です。たとえ形として結実しなくとも考え続けることを止めてはならないと考えます。
新入生の皆さんには、これから選択必修の「平和科目」で戦争、紛争、核問題、飢餓、地球環境などを学んで、平和について考えてほしいと願っています。
 
 今や、広島大学は東広島、霞、東千田の3キャンパスに12学部、大学院4研究科、1研究院を有する国内有数の総合研究大学に発展してまいりました。
 研究面では、2018年度に「ゲノム編集先端人材育成プログラム」が文部科学省の卓越大学院プログラムに、また2022年秋には「持続可能性に寄与するキラルノット超物質拠点」が、文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)にそれぞれ中四国地域では唯一採択されました。
 キラルというのは、右手と左手の関係のように鏡に映した像が元の像と重なり合わない性質があることですが、例えば右手だけの構造体を創ることで地球上には存在しなかった性質を持つ物質が作成可能になります。超断熱性を持つ全く新しい素材の開発で、地球規模の課題を解決する道を開くこともできるのです。
 また、このたびのコロナ禍を踏まえて、全国の大学で唯一、経済産業省の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」にも選ばれ、製造施設を霞キャンパスに整備します。また放射線影響研究所が霞キャンパスに移転することが決定しており、基礎研究の一層の充実が期待されます。大学病院が高度先端医療を担っていますが、臨床医学領域のトップレベル論文数で中四国の中で第1位、国内82大学中のトップ10にランクインするなど、着々と成果を挙げています。

 緑豊かな東広島キャンパスでは、地元の東広島市や住友商事など有力企業と連携して、国よりも20年早い2030年のカーボン・ニュートラル実現を目指す取り組みが進んでいます。さらに、国立大学で初の外国大学日本校となる米国アリゾナ州立大学サンダーバードグローバル経営学部の広島大学グローバル校が昨年夏、キャンパス内に開校しました。
広島市中心部にある大学発祥の地、東千田キャンパスでは法科大学院に加えて今月から、法学部と大学院法学・政治学プログラムが東広島から移転し、660人の学びが新たにスタートします。
 このように、広島大学はダイナミックに前進しており、諸先輩が紡いできた素晴らしい歴史と恵まれた環境の下、皆さん一人一人が健やかに安心して勉学に励めるよう、教職員一同、全力で支援してまいります。広大生としての誇りと自信そして責任感を持って学んでいただきたいと思います。
 
 近年、Z世代を中心に、「コスパ」ならぬ「タイパ」が流行しているそうです。タイム・パフォーマンスの略で時間をできる限り有効に使う流儀だと聞きます。忙しい現代を生き抜いていくには、動画を早送りで視聴したり、まとめサイトを利用したりしながら手早く知識を得ることは、至極当たり前のことなのかもしれません。
 しかし、世界は今、感染症や戦争のみならず気候変動、自然災害、貧困、差別など、まだ「解」のない難題に直面しています。こうした未知の事態に遭遇した時、「タイパ」で得た知識で十分でしょうか。 
 20世紀を代表する物理学者アインシュタイン博士が遺した数々の名言の中に、次のような言葉があります。
 「昨日から学び、今日のために生き、明日に希望を持とう。重要なことは、問うのをやめないことだ」

 大学で学ぶ意義も、まさにこの点にあるのです。単に正解を導くためのHow to(方法)を教わるのでなく、物事のwhy(どうしてなのか)をじっくり問い続けることこそが、大切なのではないかと私は思っています。長い歴史を通じて人類が培ってきた経験や英知に学びながら、自分の頭で考え続けることである、と言い換えてもいいかもしれません。そして果敢にチャレンジしてください。チャレンジすることによって、例えていえば車が走った後の轍、船が航行した後にできるsailing waveが、皆さんの生きた証となります。

 広島大学は来年、開学75周年また、最も古い前身校である白島学校の創立から150周年の節目を迎えます。私も皆さんとともに、100年後にも世界で光り輝く広島大学に向かって進んでまいりたいと願っています。
 
 終わりに、今日から始まる大学生活が、皆さん一人一人にとって充実した日々となり、幸多からんことを心よりお祈りして、私からのお祝いの言葉といたします。

 

令和5年4月3日
広島大学長 越智光夫


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