学長就任のご挨拶

学長就任のご挨拶 2015.4.2

 4月1日付けで浅原利正前学長の後任として、第12代広島大学長の重責を担うこととなりました。皆さんのご理解とご支援をいただきますようお願い申し上げます。

 現在、世界は科学技術が目覚ましく進歩する一方で、進歩に関連するサーズやエボラ出血熱などの生命を脅かす感染症や世界規模の気候変動に基づく自然災害の多発、あるいは頻発する地域紛争や宗教紛争あるいはテロなど解のない幾多の困難に直面しています。このような状況の中でこれからの広島大学が目指すべき方向を考える視点として、「平和を希求する国際的教養人」の育成を掲げました。それを実現していく上での重要な要素は「3つのLと1つのR」であると考えています。

 最初のLは、Legacy(遺産)です。広島大学は広島文理科大学をはじめ9つの前身校を源流としています。もっとも古い前身校である広島師範学校の創設から数えますと140年余の歴史を刻んできました。伝統も専門性も異なる多様な前身校を持つ国立大学は他にありません。また、明治時代から今日に 至るまで、中等・高等教育機関の教員や研究者を全国に輩出してきたことも本学の誇るべき特色の一つであり、文部科学省のミッション再定義でも求められました。
 文部大臣を経て広島大学の初代学長に就任された森戸辰男先生は、昭和25年11月に行われました開学式で「自由で平和な『一つの大学』を実現」することを目指すと述べられました。広島大学の歩みは、幾多の苦難を乗り越えながら、この建学の精神を具現化していく過程であったとも言えるのではないでしょうか。

 第2のLは、Liberal arts(教養教育)です。2010年に発表された「21世紀の教養と教養教育」と題する日本学術会議の提言は示唆に富んでいます。メディアの地殻変動と 知の地殻変動に対応し得る「教養の再構築」が求められており、「現代社会が直面する諸問題を見極め、解決方法を構想し実行していくためには、基礎となる知 識と教養の向上が不可欠」としています。
SNS(Social Networking Service)の爆発的な普及や「反知性主義」の動きなど、複雑化する現状を鑑みると、きわめて的を射た指摘であると思います。このような「既知の解」がない時代こそ、教養に裏打ちされた想像力と行動力を持つ人材が必要だと、私は確信しています。もとより大学教育のもう一つの柱である「世界に通用する専 門教育の強化」は極めて重要ですが、教養教育は豊かな人間関係を育む幅広い学識を有する人間形成の根幹です。広島大学には、全国に誇るべき教養教育の伝統 と実績があります。この業績を十分に活かして教養教育のさらなる充実に向けて、地域の公立、私立大学との連携も視野に取り組んでいきたいと思っています。

 第3のLは、Locality(地域性)です。1945年8月6日の広島への原爆投下は、広島大学にとっても決して忘れることのできない出来事です。市内に点在していた前身校の多くが壊滅的な被害を受け、学生・生徒や教職員も数多く犠牲になりました。1977年刊行の「原爆と広島大学『生死の火』 学術編」に記された当時の竹山晴夫学長の言葉を借りれば、原爆被災は「わが大学の学問的営みの内的原点」です。
 世界最初の被爆地の大学として、広島大学は人類史的なミッションを担っているのです。4年前に起きた東日本大震災と福島第1原発事故への緊急被ばく医療チームの継続的な派遣など、被災地支援の取組みはその証であります。広島大学のLocalityは、 直接的にGlobalに繋がるものです。
 広島大学の原点ともいえるこの3つのL Legacy、 Liberal arts、 Locality を重要な精神的支柱として教育、研究に取り組めば、世界的に知名度が高い国際平和都市ヒロシマの大学として広島大学は「平和を希求する国際的教養人」の輩出ができるものと信じております。
 少し具体的な話をいたします。教育の質保証、国際化が問われていますが、まず留学生受け入れに加え、広島大学から海外留学を促進することも欠かせません。海外の大学とのジョイント・ディグリーや単位互換の推進と同時に、サバティカルを活用した外国人教員の短期雇用なども含め教育制度の改革を大胆に推し 進めていきたいと考えております。また、今回、国際化戦略の第一弾として、経営協議会の学外委員の一人に、インドネシア共和国の大臣を歴任され、現在イン ドネシア共和国赤十字社会長代理 ギナンジャール氏を起用しました。世界の視点から忌憚のない意見を述べていただけるものと期待しています。

 もう一つの柱となるRは、Research UniversityのRです。研究大学として国際的な研究人材の育成が必須です。高度な研究活動は、国際的研究人材の育成に必要であるのみならず、既存の価値基準に捕らわれず自由に発想することができる国際的教養人の育成にも不可欠です。研究に関しては、浅原前学長をはじめ執行部のリーダーシップによっ て、本学は2013年、「研究大学強化促進事業」支援対象機関に選定されたことにより、国内外で「研究大学」として認知され、新たな研究拠点形成や研究力 の向上に向けた環境整備が進むものと思います。また、2014年には「スーパーグローバル大学創成支援事業」において「タイプA(トップ型)」の13大学 の一つに、採択されました。これは広島大学構成員として大変な名誉であると同時に、国と国民から大きな役割と責務を託されたということでもあり、「知を創 造する世界トップレベルの総合研究大学」に向け、着実に歩を進めて行かなければません。
 国立大学の法人化後、運営費交付金は毎年確実に減額されてきましたが、残念ながら今後いっそう減額される状況になっています。科学研究費補助金をはじめ とした競争的資金の獲得が大学運営の基盤に不可欠となります。大学経営企画室やURAなどによる支援体制の整備を一層積極的に進めます。
 私自身、産学官連携に基づく研究や資金の獲得に多少経験を持っております。経験を活かし、この分野の開拓も行いたいと思います。さらに、大学の基金に関 しては、教職員の方々からも継続的な御寄付をいただいていますが、同窓生や地域企業からの募金活動に加え、海外からの大型寄附の誘導に積極的に取り組んで いきたいと思っています。

 一方、社会は大学教育を含め、大きな改革の真っただ中にあります。産業競争力会議で議論されている「イノベーションの観点からの大学改革の基本的 な考え方」で示されている「特定大学院」や「卓越大学院」、「卓越研究員」の制度の創設や、これに連動して文部科学省の検討会では、「第3期中期目標期間 における国立大学法人運営費交付金の在り方」が議論されています。さらに教育再生実行会議からは「『学び続ける』社会、全員参加型社会、地方創生を実現す る教育のあり方について(第6次提言)」が出され、政府においては「第5期科学技術基本計画」の策定に向けた議論がなされるなど、様々な改革議論がなされ ており、これらに的確に対応していく必要があります。
 ご存知のように平成28年度から第3期中期目標期間を迎え、本年6月には中期目標・中期計画の素案を文部科学省へ提出する予定となっています。現在、第三期中期目標・中期計画検討WGで検討されていますが、大学の根幹である「教育」は国家100年の大計であり、構成員の皆さんの英知を結集し、「100年後にも世界で光輝く大学」の礎となるものを作成したいと考えています。
具体的には、文部科学省のミッション再定義で認められた特色や強みを活かした機能強化や、文部科学省の「研究大学強化促進事業」、「スーパーグローバル大 学創成支援事業」(トップ型)の構想調書に記載した目標値などを達成するために作成された「広島大学改革構想」を実現するものとしたいと考えています。
 さらに、社会変化のスピードが増していることも勘案すると、「100年後にも世界で光輝く大学」であるためには、平成21年6月に10年から15年後の広島大学像として策定された「広島大学の長期ビジョン」の改訂にも取り掛かりたいと考えています。

 以上、私の考えを述べてみましたが、みなさんの広島大学に寄せる思いと知恵そして情熱が改革には不可欠です。学生、教職員の皆さんとの日々のコ ミュニケーションを十分取るように心がけながらも、決定は迅速に行いたいと思っています。情報発信も地域・全国・世界に向け重層的に行い、広島大学のプレ ゼンスを高めたいと思っています。「広島大学で学べてよかった」「広島大学で働けてよかった」と言えるような環境づくりを誠心誠意行います。100年後に も世界で光輝く大学の一つであるように学生、教職員の皆さんと力を合わせていければと願っております。
改めまして皆さんのご理解とご支援をいただきますようお願い申し上げます。

 

広島大学長 越智 光夫


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