再任にあたっての所信表明

再任にあたっての所信表明 2019.4.2

 昨日、新元号令和が決定され、新しい輝く日本の未来を予感させる中での再スタートを切ることを大変嬉しく思っています。

 私が第12代広島大学長に就任して以来、任期4年の節目を迎えました。この間、皆様と共に、広島大学のためにできることに全力で取り組んでまいりました。運営費交付金の削減に象徴されるように、大学を取り巻く環境が一段と厳しさを増す中にあって、本学では教員の補充が出来ないような事態には立ち至っておりません。これも、構成員の皆様方のご理解により、学術院の設置をはじめ、国の流れに対応できる仕組みをいち早く構築できたからであると考えております。この場を借りて感謝申し上げますとともに、これまでの4年間に取り組んだこと、また課題を振り返り、2期目に向けた所信を述べたいと思います。

 学長就任に当たり、私は広島大学が進むべき方向性を考える視点として、3つのLと1つのRを掲げました。Legacy(遺産)、Locality(地域性)、Liberal arts(教養教育)、そしてResearch Universityであります。まずLegacyとLocality、続いてLiberal arts、Research Universityの順に説明します。

 LegacyとLocalityは、被爆地広島に開学し「平和を希求する精神」を理念に掲げる、広島大学の変わらぬ立脚点です。私は就任以来、「平和を希求し、チャレンジする国際的教養人の育成」をスローガンとして掲げてまいりました。
 平成が幕を開けた1989年にベルリンの壁が崩壊して冷戦が終結したのも束の間、2001年の「アメリカ同時多発テロ」に代表されるように、中東をはじめ、世界各地で戦乱やテロが相次ぎました。さらには「自国第一主義」や核軍拡の動きが表面化するなど、世界を取り巻く情勢はいっそう複雑かつ困難になっていることはご承知の通りであります。
 しかしながら、広島大学の一貫した理念が揺らぐことはありません。むしろ、ますますその重要性は高まっているように思います。世界の平和と持続的な発展に貢献するため、平和科目の全学必修化の取組に加え、昨年から新たに、各国の首脳や在日大使に平和について語っていただく「ピース・レクチャー・マラソン」をスタートしました。さらに、ハンディキャップがある海外の学生も積極的に受け入れております。平和の大学として広島大学は何をするのか、今後も皆さんと共に具体的な形で示していきたいと思っております。
 また、広島大学の新しい長期ビジョンとして策定したSPLENDOR PLAN 2017は、新しい平和科学の理念を「持続可能な発展を導く科学」とし、「多様性をはぐくむ自由で平和な国際社会の実現」をミッションに掲げております。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の理念とも軌を一にするものであり、着実に推進してまいる所存です。

 もう一つのLであるLiberal artsにつきましては、本学の伝統と実績を活かした教養教育を基盤としつつ、各界で活躍されているトップの方々が登壇する教養特別講義「世界に羽ばたく。教養の力」を2年前に開講しました。またノーベル賞受賞者をお招きする「知のフォーラム」等の講演会は、東京を含めて7回開催いたしました。新入生をはじめ多くの学生諸君がhowのみならず、whyを考え続けるきっかけとなり、そのような姿勢を、人生を通じて持ち続けてほしいと願っています。

 Research Universityに関しましては、文部科学省の研究大学強化促進事業、及びスーパーグローバル大学創成支援事業タイプAに相次いで選ばれました。URAによる支援体制も充実してきており、世界トップ100に入る約束に向けて歩みを進めていかなければなりません。各国からの留学生数はスーパーグローバル大学の目標3,600人に対し、現在約2,000人と採択時の1.5倍に増え、大学間の国際交流協定締結数は就任時から2倍以上の343協定となり、海外拠点も世界15カ国・地域に18拠点を有するまでになりました。
 さらに、昨年は卓越大学院プログラムに採択されました。霞キャンパスの感性COI拠点とともに、世界をリードするイノベーション拠点として発展するよう支援してまいります。それ以外にも広島大学が誇れる拠点は積極的に資源の投入をしていく必要があると考えています。

 今年度からは統合生命科学研究科と医系科学研究科の設置を皮切りに、大学院再編がいよいよ本格化いたします。世界中からトップクラスの研究者や優れた留学生を招き入れるためにも、教育研究環境の充実は待ったなしで進めなければなりません。
 東広島キャンパスにおいては、宿泊施設や交流の場を備えた国際交流拠点を整備し、理系の世界的な研究拠点として拡充・強化を図ります。現在、広島大学図書館の24時間開館を試行しているところですが、今年度から、国の資金援助も得ながら学長裁量経費を積極的に投入して、広島大学図書館での学習環境を可能な限り強化したいと思っています。東広島市と連携して大学周辺にバス乗り継ぎの結節点を設置するなど、交通ネットワークの整備にも取り組みます。
 東千田キャンパスには、新たな人文・社会科学系の教育研究拠点として都市型キャンパスを整備し、平和に関する教育研究や情報発信をはじめ、社会人教育、企業との協働など地域活性化にも貢献していきたいと考えています。
霞キャンパスは、世界レベルの最先端医療と医系科学の研究拠点と位置付け、トランスレーショナル・リサーチセンターを活用するなど、メディカル・サイエンス・リサーチパークの形成を進めます。

 運営費交付金の削減と競争的資金の比率の増大によって、今や国立大学は危機に立たされているといっても過言ではありません。好むと好まざるとに関わらず、こうした動きに対応する体制を整えることが求められています。競争的資金の獲得に加え、昨年創設した「広島大学が躍動し広島の地を活性化する基金」や企業との共同研究講座、寄附講座を軸に、外部資金の獲得にも鋭意努めてまいります。

 本学が目指している指定国立大学法人の指定に向けては、全構成員が一体となって取り組んでいかなければ実現できません。まさに、今が正念場であると考えております。もとより大学改革は、執行部の旗振りだけでできるものではなく、構成員との緊密な意思疎通によって実現できるものであると考えています。その意味でも、執行部と構成員の間に位置する部局長の役割は、今後一層重要になります。私自身も毎年、全学部を訪問し、大学の置かれている現状の説明とともに意見交換を行っています。また、学長特任補佐をお願いした先生方とも定期的に会合を持ち、忌憚のないご意見を伺っています。学内全ての声を伺うことは難しいとしても、オフィスアワーを設ける、あるいは食堂に出掛けて学生の声を直に聴くなど、構成員の皆さんの思いをできる限り採り入れながら速やかで全体最適な決断をして参りたいと考えております。

 グローバル競争と人口減少が進行する中、国立大学に対してはイノベーション創出への期待と同時に、経営機能強化に向けた取り組みを求める声が社会から高まっています。また閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018」および「未来投資戦略2018」等も、教育研究機能と経営基盤を強化する観点から、法人統合の必要性に言及しています。
 これらを受けて本年1月、文部科学省の「国立大学の一法人複数大学制度等に関する調査検討会議」から最終まとめが出されました。この中では「法人を統合することにより、社会に対する存在感・発信力の強化が期待できるとともに経営刷新や大学改革の取組を大きく進めることが期待される」としています。
 既に名古屋大学と岐阜大学のように、複数大学を一体的に経営する新機構の設立を目指すなど大学再編に向けた動きが活発になっています。広島大学も、あらゆる状況に対処できるようにしっかりと準備と検討を進めていくつもりです。

 中国・六朝時代の書家、王羲之は「後(のち)の今を視るも、亦(また)由(な)ほ今の昔を視るがごとくならん」という言葉を残しています。「後世の人々が現在の我々を見るのは、あたかも今の我々が昔の人々を見るようなものであろう」との意味でしょうが、未来から今なすべきことを考える「バックキャスト」の視点も忘れてはならないと思います。
 100年後にも世界で光り輝く広島大学を目指して、私は諸先輩が築き上げた歴史に学びつつ、学長としての職責を全身全霊で全うしていく覚悟であります。そのためにも教職員の皆さんが「広島大学で働いて良かった」、学生諸君が「広島大学で学んで良かった」と、心から思っていただけるような環境づくりに、引き続き取り組んでまいります。

 あらためまして、皆さんのご理解とご支援を頂きますよう、心よりお願い申し上げます。一緒に力を合わせて、広島大学の未来を切り開いていきましょう。

平成31年4月2日
広島大学長 越智 光夫


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