ちょっとわかり難い医療用語 パート2

  医療従事者と話をしている言葉の中でどんな意味かよくわからなかった経験はありませんか。医療従事者と患者さんの理解が違っていることも少なくありません。
  ちょっとわかり難い医療用語を、遺伝子診療部の医療従事者が解きほぐすシリーズを数回に分けてご紹介します。

パートII 超音波検査にも同意書が必要

  最近は妊婦健診の超音波検査にも説明同意書が必要とされるようになっています。広島大学病院でも胎児超音波検査の説明文書を読んでいただき、検査のご希望をうかがっていく予定です。なぜ同意が要るのでしょう?
  超音波機器の進歩、および検査技術の発展により、超音波検査で早い時期から様々な出生前診断が可能となってきています。といっても、まだ一般的な妊婦健診では取り入れられてはいません。一昔前には妊娠の早い時期には、羊水検査や絨毛検査など特殊な検査でしか診断できなかった赤ちゃんの病気が、最近では超音波検査でも様々な精度で診断できるようになり、超音波検査を「出生前診断」として慎重に扱う必要性がでてきました。なお血液検査による「新型出生前診断」が話題となっていますが、これはまた次回コラムで!!
  2011年6月に日本産科婦人科学会は、妊婦の超音波検査について、「出生前診断」になり得ると位置付ける見解をまとめました。そこで「出生前診断」には、十分な専門知識を持った医師等による実施のほか適正な遺伝カウンセリング体制が必要とされています。当院の遺伝カウンセリング(遺伝相談)は、正しく分かりやすい情報を提供し、時間をかけて一緒に考え、安心して一番いい医療を受けていただけるよう、専門スタッフが取り組んでいます。
  学会が見解を出した理由は、通常の健診の超音波検査で、検査項目の説明もなく行われた「出生前診断」の結果、妊婦の不安をあおったり、不要な人工妊娠中絶が増加するなどの諸問題が生じたことにあります。つまり確定診断ではない検査項目で、正確に診断されていないまま、中絶の選択がされていたのです。このような赤ちゃんの病気(先天異常)の診断や見通しの判断には限定された知識や経験、診断技術、その後の診療にはカウンセリング能力が必要とされます。このような「出生前診断」はこれまでは、羊水検査や絨毛採取など従来の「出生前診断」を専門とする医師が慎重に行なっていました。
  ところが超音波検査はすべての産婦人科で行われているため、「出生前診断」としての検査を行っているかどうか、どの程度まで行っているのか、精度はどうか、統一されていない状況です。要するに、超音波機器があればどこでもみな同じように検査されていると思われがちですが、そうではなく、医師がどの検査項目をどういう精度でチェックしているかによって全く異なるのです。
  通常の妊婦健診の超音波検査の必須項目は、赤ちゃんの成長、羊水量や胎盤の位置、へその緒の状態、赤ちゃんへの血流の検査などです。これ以外の赤ちゃんの病気(先天異常)について調べる検査項目は、狭義での「出生前診断」といわれる特別な検査に位置付けられ、施設や検査する医師によって項目の種類や精度は様々です。最近では「胎児ドック・胎児健診」といった妊娠中の胎児スクリーニング検査が行われています。通常の妊婦健診でもNT(Nucal translucency)などごく一部の項目が実施されることもありますが、精度は未だ統一されていません。検査を希望する場合には、ご夫婦の意思や希望により、どのような病気をどの時期にどの程度検査したいのかを確認し、適切な検査を実施してもらえるようにしたいですね。このように検査の内容や精度の確認をすることが、一つ目の同意書の必要な理由です。
  二つ目の理由として、このような出生前診断の可否をめぐってはいろいろな意見があり、様々な倫理的問題を含むために、よく理解し夫婦で考えられた上での同意が必要なのです。知りたくなかったのに、偶然見つかった異常を知らされたらどうでしょうか。中には妊娠中の赤ちゃんの命にかかわるような病気もありますが、産まれてから分かってもゆっくりと治療を行っていける病気もあります。病気によっては早く見つけることで、赤ちゃんに一番良い分娩の方法や時期を選択し前もって準備したり、出生後の治療について心構えをしたりできるメリットは計り知れません。多くの場合は出生前診断で赤ちゃんに病気の可能性が少ないという結果が得られると、安心して過ごすことができます。
  以上のようなことを理解して、「出生前診断」をよく考えた上で、受けていただきたいのです。
  赤ちゃんは、いろいろな個性を持って生まれてきます。お父さんやお母さんから受け継いだ個性、新たに備わった個性、その個性が世界に一つだけだからこそ愛おしいものです。たとえその個性の一つが、「病気を持っていること」だとしても。


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