血管再生療法について

我が国における末梢動脈閉塞性疾患の患者数は600万人以上と推定されています。末梢動脈閉塞性疾患の約2%の患者が切断を必要とする重症虚血肢へと進行することが報告されています。重症虚血肢に対し、内服療法、運動療法、血管内治療や外科的血行再建術が行われていますが、毎年約1万人の患者がこれらの治療に反応せず四肢の切断を余儀なくされています。1997年に成人の末梢血中に血管内皮前駆細胞(EPC)が発見され、血管は血管増殖因子などの刺激により枝分かれしていくだけでなく、EPCから全く新しい血管が発生することが確認されました。この概念よりEPCや血管増殖因子が豊富な骨髄を採取し、骨髄単核球を分離し、虚血患肢へ投与し脈管発生を促す治療法が開発されました。現在、一般的に行われている治療方法では改善が困難な最重症例を対象に自家骨髄単核球細胞を用いた治療が行われており、その有効性が確認されています。これまで広島大学では、2002年より骨髄移植による血管新生療法を計70例行ってきました。
当診療科はこの血管再生療法を、2018年9月より先進医療Bとして多施設共同臨床試験「バージャー病に対する自家骨髄単核球細胞を用いた下肢血管再生療法」を行っています。また、「重症虚血肢に対し、筋組織酸素飽和度(StO2)をモニタリングする近赤外線分光装置(NIRS)を使用した至適運動療法を確立する研究」として国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「平成30年度再生医療実用化研究事業」に採択されています。

この治療の対象となる患者さん

  1. 20歳以上、80歳未満の患者さん
  2. 閉塞性動脈硬化症、バージャー病のいずれかを有する患者さん
  3. 従来の治療法を行ったが効果が不十分な虚血肢を有している患者さん

適応除外項目

  1. 5年以内に悪性腫瘍の既往がある、または悪性腫瘍を有する患者さん
  2. 過去3か月以内に心筋梗塞、脳血管障害を発症したことのある患者さん
  3. 重症糖尿病性網膜症を有する患者さん
  4. 妊婦中もしくは妊娠を希望する女性
  5. その他主治医が不適当と判断した患者さん

治療成績

自家骨骨髄細胞を用いた血管再生療法の有効性、安全性が確認されています。かなりの移植症例で虚血指標や自覚症状が改善することは明らかです。同療法の特徴として、術後数日といった早期より疼痛の軽減、消失が見られます。われわれは、自家骨骨髄細胞移植による重症末梢血管疾患患者の長期予後を報告しました(文献1)。4年間の救肢率は、慢性閉塞性動脈硬化症患者で48%、ビュルガー病患者で95%でした。糖尿病と透析が独立した下肢大切断の危険因子でした。特に、糖尿病の透析例では、11例中10例が半年以内に大切断でした。これらの成績は、糖尿病透析例には、細胞移植による血管再生療法が適応にならない可能性を示唆しています。重症慢性閉塞性動脈硬化症患者の生命予後が非常に不良であることが知られおり、細胞移植により生命予後を改善することも期待されましたが、細胞移植の有無で有意差はありませんでした。また、ビュルガー病患者においては、細胞移植後1ヶ月頃より虚血指標や自覚症状の改善が認められ、3年間のフォローアップ期間中、維持されました。慢性閉塞性動脈硬化症患者でも、細胞移植後1ヶ月より虚血指標や自覚症状の改善が認められましたが、3年間のフォローアップ期間中に徐々に全ての指標が悪化し、移植前の状態に戻っていました。現段階では、骨髄細胞移植による血管再生療法は、ビュルガー病患者において、有効な治療と考えられます。

肢大切断率

死亡率

1. Idei N, Chowdhury M, Soga J, Hata T, Fujii Y, Fujimura N, Mikami S, Maruhashi T, Nishioka K, Hidaka T, Kihara Y, Noma K, Taguchi A, Chayama K, Sueda T, Higashi Y. Autologous bone-marrow mononuclear cell implantation reduces long-term major amputation risk in patients with critical limb ischemia: a comparison of atherosclerotic peripheral arterial disease and Buerger disease. Circulation: Cardiovascular Intervention. 2011; 4: 15-25.

さらに、骨髄移植による血管新生療法を行った重症下肢虚血を有する患者さんの長期的な予後について紹介します。閉塞性動脈硬化症患者(細胞治療群)、対照群として標準療法を行ったASO患者(コントロール群)の救肢率は細胞治療群がコントロール群より良好でした(図A)。バージャー病患者(細胞治療群)、対照群として標準療法を行ったバージャー患者(コントロール群)の救肢率も細胞治療群がコントロール群より良好でした(図B)。長期間の観察においても、特定の悪性疾患が多くみられるなどの細胞治療が関係していると考えられる合併症はありませんでした(文献2、3)。

A 閉塞性動脈硬化症の下肢大切断率

B バージャー病の下肢大切断率

2. Yusoff FM, Kajikawa M, Matsui S, Hashimoto H, Kishimoto S, Takaeko Y, Maruhashi T, Chowdhury M, Noma K, Nakashima A, Kihara Y, Sueda T, Higashi Y. Review of the long-term effects of autologous bone-marrow mononuclear cell implantation on clinical outcomes in patients with critical limb ischemia. Sci Rep. 2019; 9: 7711.

3. Yusoff FM, Kajikawa M, Takaeko Y, Kishimoto S, Hashimoto H, Maruhashi T, Kihara Y, Nakashima A, Higashi Y. Long-term clinical outcomes of autologous bone-marrow mononuclear cells implantation on patients with severe thromboangiitis obliterans. Circ J. 2020; 84: 650-655. 


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