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[研究成果]モット絶縁体の金属化に乾電池1個に満たない電圧で成功



 広島大学大学院先端物資科学研究科低温物理学研究室 中村文彦助教、鈴木孝至教授らの研究グループおよび京都大学大学院理学研究科 前野悦輝教授らの研究グループは、絶縁体のムテニウム酸化物に、室温でわずか0.8ボルトという乾電池1個分に満たない電圧を加えるだけで、金属化し同時に結晶が大きく歪むことを発見しました。8月28日、本学東京オフィスでこれについての記者説明会を開催しました。

また、この研究成果は、英国の科学雑誌Nature Publishing Groupの『Scientific Reports』電子版に8月29日付けで掲載されました。



記者説明会の様子



 今回の発見は、電気抵抗測定の実験過程で、ルテニウム酸化物の単結晶に電極を形成するため高電場を当てたところ、結晶が次々に粉砕してしまったことから生まれました。

 本研究成果を生んだ物質は、カルシウムとルテニウムの酸化物(Ca2RuO4)で、1997年に前野教授のグループが初めて合成に成功したオリジナル物質です。

今回明らかになった研究成果は次の2点です。

 1.ルテニウム酸化物は、室温で0.8ボルト程度の電圧を加えると、絶縁体状態から金属状態への切り替え(スイッチング)現象、すなわち電

   場誘起絶縁体-金属転移現象が起こる。

     ルテニウム酸化物が、絶縁体状態から金属状態へスイッチする時、結晶構造の変化を伴います。金属状態に変わる時、結晶構造が

    垂直方向に約3%伸び、水平方向に約2%収縮します。数ミリ程度の長さの結晶の場合、50倍程度の顕微鏡下でもスイッチングに伴う

    結晶の伸縮を確認できます。

     しかし、このような大きな構造変化を伴う絶縁体-金属転移が生じる過程・メカニズムは今のところ特定できていません。



 2.カルシウム・ルテニウム酸化物の結晶を電場により金属状態にスイッチした後、電流を流しながら冷却すると低温まで金属状態が安定化

   する。

     今回の成果では、室温でスイッチ後わずかに電流を流すことで、約-270℃の低温まで金属状態を持続させることに成功しました。

   電子に流れを加えた金属状態(非平衡定常状態)では電子が凍った絶縁体状態に戻りにくいという新現象の発見といえます。このよう

   に、非平衡定常状態に置かれたモット絶縁体が平衡状態と異なる電子状態を示すことは、これまで実証例がほとんどありません。理

   論研究も始まったばかりで、本発見は、今後の強相関電子系における創発現象の研究に大きなインパクトを与えるものと期待できます。

 

<今後の展望>

  本成果では、これまでにない小さな電場で金属化し同時に大きな構造歪みを生じる絶縁体を見いだしました。しかも、その金属状態がわずかな電流で安定的に維持されることも明らかにしました。

  強相関電子系物質を用いて、新しい電子機能を引き出すうえで、基礎と応用の両面で重要な意義を持つといえます。また、低電力でスイッチングできる素子応用に道が拓けるとともに、振動を利用した音波発振器やスピーカーなどへの応用も可能になります。


【お問い合わせ先】

(研究内容に関すること)

  大学院先端物質科学研究科 助教 中村文彦

  Tel&Fax: 082-424-7042

  E-mail: fumikiko*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)

  大学院先端物質科学研究科 教授 鈴木孝至

  Tel: 082-424-7040, Fax: 082-424-7044

  E-mail: tsuzuki*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)



(記事に関すること)

  学術・社会産学連携室広報グループ

  TEL:082-424-4657

  E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)



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