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【研究紹介】海の小さな粒子から、地球環境の大きな問題に挑む

夏と言えば・・海!海水浴場やビーチで遊んだり、磯釣りを楽しんだり、夏のお出かけに「海」を選ぶ方も多いのでは。
広島大学の岩本洋子准教授(大学院統合生命科学研究科)にとっても、「海」はとても身近な存在。岩本准教授の出身は造船の街として知られる広島県呉市で、幼少期から海と船を間近に見て育ちました。現在は、大気中から海に沈んだ塵や埃などの微粒子「エアロゾル」の研究のため、大型船に乗って世界の海で海洋調査を行っています。

海の季節にちなんで、岩本准教授の研究や、海洋調査の醍醐味などについてインタビューしました。

PM2.5も花粉も、エアロゾル

エアロゾルとは、大気中に浮遊している塵や埃などに含まれる、非常に小さい粒子(微粒子)のこと。
エアロゾルという言葉を日常生活で聞くことはなかなかないかと思いますが、ニュースで「PM2.5」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。PM2.5は、大気中に存在する直径2.5マイクロメートル以下のエアロゾルのことで、PM2.5の濃度が高くなると、大気汚染や、ぜんそく・気管支炎などの健康被害へのリスクが高まってきます。
黄砂も、インフルエンザのウイルスも、花粉も、エアロゾルの仲間です。

世界の海で、エアロゾルを分析 

私が現在興味を持っているのは、その中でも、アジアの砂漠から飛来して大気中から海へと沈んでいくエアロゾル(塵や埃)です。大気や海水をフィルターにかけ、その中にあるエアロゾルの分析を行うため、国内外の海へ調査に出かけています。船旅は短いものでは数日間ですが、長いものでは約40日間に及ぶことも。これまでに、北極海やインド洋にも船に乗って調査に行きました。

船上では、30〜40人の科学者と数週間の共同生活を送ります。そこにはテレビも、インターネットもありません。そのため、科学者たちと一緒に食事をしたり話したり、交流できる時間が何よりの楽しみです。お互いの誕生日や赤道横断記念を祝ってパーティーをすることもありますよ。広島大学の研究調査船・豊潮丸(生物生産学部附属練習船)には、女性用の浴槽も付いているので快適です。

広島大学の豊潮丸。「偶然にも私が見て育った呉の港に基地があります」と岩本准教授

二酸化炭素の削減にも貢献している

大気中から海に沈んだエアロゾルは、地球温暖化の原因の1つである二酸化炭素を削減するために重要な役割を果たしていることが分かってきました。

海の中にいる、植物プランクトンなどの海洋生物は、大気中の二酸化炭素(CO2)を取り込んで光合成を行い、二酸化炭素と水から酸素を作り出しています。また、植物プランクトンが死ぬと、その体は取り込んだ二酸化炭素を抱えたまま深海へ沈みます。海洋循環には長い月日がかかるので、この二酸化炭素が大気中に戻るのに約1000年もかかると言われています。

植物プランクトンが育つためには、鉄といった栄養素が必要ですが、海に存在する栄養素には限りがあります。一方で、塵や埃など(エアロゾル)は鉄の成分を豊富に含んでおり、これらが海に落ちることで、植物プランクトンたちは生き延びることができるのです。

海と大気の相互関係を明らかに

地球温暖化は今、非常に深刻な地球環境問題です。将来の気候を予測するため、多くの科学者が今後の二酸化炭素濃度を予測しようとしていますが、予測にあたって考慮すべき大きな要素として挙げられるのが、地球の表面の70%を占める海なのです。

海中の植物プランクトンが、大気中から二酸化炭素を取り込むことからも分かるように、海と大気には密接な関係があります。地球温暖化対策を考える上でも、海と大気の相互作用を考えていく必要があります。

エアロゾルは肉眼では見えないほど小さな粒子ですが、大気中の二酸化炭素を削減する植物プランクトンの生態を支えている他、太陽光を吸収して地上に届く光量を減少させることができる特性も持っています。

地球環境問題を考える上で、大気中のエアロゾルの役割は大きな関心を集めています。私のエアロゾルの研究を通して、よりたくさんの人がこの問題に興味を持ってくれると嬉しいです。

研究棟の屋上に備えた、大気中のエアロゾルを採取する機器

【この記事に関するお問い合わせ先】

広島大学広報グループ

Email: koho*office. hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に変換して送信してください)


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