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【研究紹介】インターネットの口コミから見える、新しい「平和観光」の形

宮島(厳島神社)、原爆ドーム・・広島を訪れる観光客数は、国内外ともに年々増え続けています。1945年の被爆後、広島が平和都市ヒロシマとして復興・発展してきたなかで、「観光」は大きな役割を果たしてきました。
 
一方で、「平和」を観光の対象とすることに対しては「平和をエンターテインメント化しているのでは」という声も上がっており、問題視されています。「平和」と「観光」は両立できるのでしょうか?「被爆体験の継承」に、観光はどのような形で貢献できるのでしょうか?
この問題に取り組む、広島大学平和センターのファン・デル・ドゥース・瑠璃准教授にインタビューしました。

広島大学平和センターのファン・デル・ドゥース・瑠璃准教授

「原爆ドーム」を巡る2枚の写真から

私の専門は、社会の思考・動向の変遷についての研究です。その中でも「平和観光」の問題に取り組むきっかけとなったのは、「原爆ドーム」を巡る2枚の写真でした。

1枚は、被爆直後の原爆ドーム前で呆然とたたずむ兵士の写真。もう1枚は、現代の原爆ドームを前に、笑顔でおどける観光客の写真。同じ原爆ドームの写真なのに、あまりにも異なることに驚き、「観光客」の「観光地としての広島」の捉え方に興味を持ちました。

観光客がサイトに書き込んだ口コミを分析

私たちは、広島を訪れた観光客が、どのような感想を持ち帰っているのかを調べることにしました。そこで、着目したのが、インターネット上の旅行情報サイト「トリップアドバイザー」。観光地を訪れた人が、自分の体験を口コミとして投稿し、情報交換できる無料サイトです。トリップアドバイザーに投稿された『平和記念資料館』に関係する口コミの約7,800件(日本語・英語7年分)に使われている表現を分析し、観光者の思考を考察しました。

トリップアドバイザーサイト

トリップアドバイザー

実体験が、人の「感情」を動かす

口コミで多く見られたのは、「原爆の悲惨さ、平和の大切さについて『考え』させられた」や「自分の子供の世代のことを『考え』るようになった」など、『考える』『思う』『感じる』といった認知と思考系のキーワードでした。なぜ、平和記念資料館を訪れた人は「考える」「思う」など感情が動く傾向にあるのでしょうか。実際に自分の目でパネルや遺品を見るなど、現地で「自分で体験する」ことで、視点が動き、被爆者の方の実体験に歩み寄ることができるからではないか、と私は思います。

学びを取り入れた、新しい「平和観光」

広島に来る観光客は、当初は観光目的で来ていて、『被爆体験を継承しよう』と思って来ているのではない方がほとんどでしょう。でも、実際には、平和記念資料館の展示やパネルを見て被爆体験を学び、考え、その思いを自主的にインターネット上で発信しています。インターネットやSNSは高い情報拡散力を持っており、その影響力は計り知れないですね。

私は、この「実体験から学び、自ら発信する」という自主参加こそが、平和と観光が偶然生み出した、新しい被爆体験継承の形だと考えています。それを広島の観光に取り入れたいと考えました。広島市が推進する『ピースツーリズム(Peace Tourism)』に、資料館での「感性に響く学び」を取り入れ、その後、市内の各地でテーマ別の体験をする。その動線で、広島大学東千田キャンパスを訪れ、「主体的な学びと発見」に出会えるような観光を構想中です。被爆建造物を自分の目で見たり、被爆者の方の体験談を聞いたり。原爆の「記憶」に実際に触れてみる、新しい平和のための観光の形です。

広島大学原爆死没者慰霊之碑にて

広島大学原爆死没者慰霊之碑にて(東千田キャンパス)

ヒロシマの記憶を、自分に関わるものとして

急速にデジタル化が進む現代社会において、戦争の記憶は時とともに簡約化され、人の痛みや悲しみなどが取り除かれた状態で、インターネット上にあふれかえっています。その中で今、研究者たちが向き合う課題は、「どんな記憶を社会で共有するべきか」。集団の記憶か、個々人の記憶か。どんな記憶を、どう表現して継承すべきか。私は、「当事者感」の継承が重要だと考えます。

広島大学のキャンパス内にある、この石の山(写真参照)。ここで毎年8月6日、原爆死没者追悼式が行われます。参列者が水をすくって石にかけると、炎天下、ジュッと音がして蒸発するのです。「熱い!」それを見て、私も一瞬、原爆の記憶を体感しました。あの日、キノコ雲の下で焼けた街を思い浮かべて。もちろん、実際の被爆の体験とは比べものにもなりませんが、このような体験をすると、心が被爆者の方々の体験にひきつけられ、当事者感が生まれ、ヒロシマの記憶を自分に関わるものとして受け止めるようになります。

「平和観光」が広がることで、広島を訪れる方に1人でも多く、このような「原爆の記憶」に触れてもらえることを願っています。

広島大学原爆死没者慰霊之碑にて
【この記事に関するお問い合わせ先】
広島大学広報グループ

Email: koho*office. hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に変換して送信してください)


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