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【研究紹介】持続可能な生産活動を目指し、廃棄物から価値を引き出す

中井 智司   教授

製鋼スラグを海の藻類の肥料に

 限りある資源で生産活動を行うため、そして環境への悪影響を最小限に抑えるために、持続可能な生産活動の仕組みづくりが社会で求められています。私の専門である環境化学工学は、そうした環境課題に応えるために有用な科学技術を研究する学問です。私はその中でも「廃棄物」の活用方法について研究しています。
 例えば、研究テーマのうちの一つに、製鋼業の副産物を用いた藻場の創出があります。「製鋼スラグ」と呼ばれるこの副産物は、鉄やケイ素を豊富に含み、海藻の生育基盤としておもしろい材料です。広島県内の製鋼企業との共同研究にて、実際に製鋼スラグを海中に敷設したところ、海藻が生えてナマコやマダコ、さまざまな魚もみられるようになりました。一方、海藻は光合成により生長します。最近は温暖化対策の観点から、海藻による海中の二酸化炭素固定の評価に取り組んでいます。藻場創出が食料生産と温暖化対策に有効であれば素晴らしいですね。

食品廃棄物活用の研究の要となる微生物
「スラウストキリッド」

食品生産のロスから微生物の作用でDHA、EPAを

 さらに私が今最も注力しているのが食品廃棄物の活用に関する研究です。食品廃棄物をもとにDHAやEPAなどの有用な成分を生み出す微生物を培養して、鶏や豚などの家畜に与え、廃棄物の利用と畜産物の高価値を両立させることを目指しています。
 DHA、EPAはどちらもヒトの体内では生成できない貴重な必須脂肪酸であり、主に青魚の脂に多く含まれる成分として知られています。摂取できる食品が限られていることから、近年ではDHAを人為的に配合した商品、「機能性表示食品」が販売されています。
 しかし、実は現在市場で流通しているDHA・EPA機能性表示食品のほとんどは魚油など魚を
原料とした成分に依存しています。さらにDHAやEPAは魚類の成長に必須な栄養素でもあります。そのため海産魚養殖漁業では飼料の一部に魚油や魚粉が加えられており、「魚を育てるために魚を消費する」という構図があります。
 しかしながら、天然の魚の漁獲高は有限です。研究を進めることが廃棄物の処理問題を解決するだけではなく、こうした食料供給の課題に対するアプローチにもつながることを期待しています。

広島大学研究者ガイドブック (中井 智司 教授)

PROFILE なかい さとし

  • 大学院先進理工系科学研究科化学工学プログラム所属。
  • 排水や廃棄物の高度利用、および水環境の修復・創出に関する研究を行う。
広島大学広報誌『HU-plus』 Vol.21(2023年5月号) もったいなれっじ(p11-12)

〈その他特集ページ〉

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    佐久間 哲史 教授(大学院統合生命科学研究科 数理生命科学プログラム)
【この記事に関するお問い合わせ先】

広島大学広報室

Email: koho*office. hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に変換して送信してください)


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