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【研究紹介】現代医学の原点、解剖学が担う2つの使命

池上 浩司 教授

人体の仕組みを解明し、臨床研究の発展に役立てる

 解剖には、事件・事故に関わりのある遺体の死因を探る法医解剖や、死後に病変を調べるための病理解剖など、目的に応じていくつかの種類が存在します。その中でも私が専門とする解剖学は「正常解剖」に分類されます。正常解剖の目的は「正常な体の形を理解する」というシンプルなものですが、解剖学研究の意義は、病気の予防や治療方法の改善などを目指す臨床研究の基盤を作ることにあります。
 私たちの健康を支える医療技術の中には、長年蓄積されてきた解剖学研究の知見を糧に生み出されたものも多くあります。その歴史は長く、数百年間にも及ぶ研究成果から血管や神経、臓器や組織に関して数多くのことが明らかになっています。しかし、組織を形づくる細胞レベルの研究に関してはまだまだ未知のことばかり。解剖学が今後の臨床研究を発展させる可能性は、大いに残されているのです。

医学生が「医療人」になるための実習

 解剖学研究者にはもう1つ、「教育」という大切な使命があります。医学教育においても、解剖学は多くの臨床医学の土台となる重要科目です。特に学生自身がご遺体にメスを入れる「解剖学実習」では、専門家として緻密に指導します。実習は複数の班に分けて進めますが、ご遺体の個人差や班の進捗状況によって必要な指導内容はさまざまです。臨機応変に学生たちの疑問を解消し、学びを深めるためには、解剖学に対する深い知識が求められます。この実習は原則、模型やデジタル教材などで簡略化せず、ご遺体を用いて行います。自らの目と手で能動的に体内の構造を見つけていく体験が、学生の人体に対する理解度を大幅に高めるのです。これは私の教員としての体感だけではなく、VR教材を用いた実習との比較研究からも明らかになった事実です。また、ご遺体を用いることには、医療人としての倫理観を醸成するという大きな意義もあります。多くの学生にとって初めて「人の死」に触れる解剖学実習は、医学に貢献したいという献体者や遺族の思いを感じ、医療人としてのマインドを形成する大切な機会となっています。
 全ての人に健康と福祉を行き渡らせるためには、医学の発展はもちろん、医療人材の育成も必要不可欠。今後も解剖学研究を通して双方に貢献していきます。

開いている本は「グラント解剖学図譜 第7版」
下にある黒い表紙の本は「GRAY'S ANATOMY 42nd edition」

<解剖教育研究施設 解剖実習室の様子>
解剖学実習ができるのは献体者のおかげ。解剖学実習室では、実習のはじめと終わりに必ず献体された方々へ黙祷をささげ、感謝と慰霊の念を表す

広島大学研究者ガイドブック (池上 浩司 教授)

PROFILE いけがみ こうじ

  • 大学院医系科学研究科医学分野(基礎系)研究室に所属。
     
  • 解剖学研究を専門とし、日本解剖学会では若手育成委員会の委員長を務め、解剖学教育の普及・改善に寄与する。
広島大学広報誌『HU-plus』 Vol.22(2023年8月号) もったいなれっじ(p12-13)

〈その他特集ページ〉

  • 学長対談
    俳人・エッセイスト 夏井 いつき氏×広島大学学長  越智 光夫
    「俳句で磨く、他者に伝える力。言葉の風を吹かせ、実りある人生を。」
     
  • 特集
     リーガルマインドが社会を変える
     
  • AERAが書く、研究者の素顔
    久保 達彦 教授(大学院医系科学研究科)
【この記事に関するお問い合わせ先】

広島大学広報室

Email: koho*office. hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に変換して送信してください)


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