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【研究紹介】生命倫理学の視点から科学技術のあり方を考える

澤井 努 准教授

最先端科学技術に伴う期待と懸念を分かりやすく整理し、
生命倫理学の視点から科学技術の未来を描いた、自身の代表著作

人の生命はいつから始まるのか

 近年、急速に進展する生命科学において、人類は生命の領域にどこまで踏み込んで良いのか。私は、最先端科学技術が提起する多様な倫理的課題を明らかにし、望ましい研究開発のあり方について模索しています。
 生命倫理学の成立背景は複数ありますが、1978年、世界で初めての体外受精児がイギリスで誕生したことは、科学や医学が生命倫理に向き合う一つのきっかけになりました。体外で精子・卵子を受精させた胚(受的で利用してよいのかに関して、イギリス国内で賛否が割れたのです。この事態を受け、哲学、倫理学、医学、法律などの専門家が胚の扱いに関して議論を行いました。そして、受精後14日までの胚は双子になる可能性があるため、アイデンティティの確立した特定の個人に危害を加えることにはならないこと、また苦痛を感じる感覚器官を持たないことを根拠に、受精後14日までの胚の研究利用を認めるルールを提案。「14日ルール」と呼ばれるこの規則は、その後、日本を含め世界の多くの国が採用するなど、今日の胚研究における倫理基盤となりました。
 

「対応」から「創造」へ。生命倫理学の役割の進化

 「14日ルール」を含め、生命倫理学ではこれまで、新たに誕生した科学技術にその都度対応する形で議論が行われてきました。しかし、研究開発に倫理や規制の議論が追いつかなかったり、各国の規制が異なるために規制の厳しい国から規制の緩い国に研究者が移動してしまったりと、研究のあり方に対して数々の問題が指摘されています。そこで今、注目されているのがRRI(Responsible Research and Innovation)という研究開発の理念。目指すべき社会像をふまえ、研究が始まる段階から「研究開発をどのように進めるべきか」を議論する試みです。そこでは、社会のあり方や価値観を考えることが重要視されます。そのため、これからの生命倫理学には、アカデミアと社会をつなぎ、対話し、未来を創造する役割が求められます。
 また、時に生命の根源に深く切り込む生命科学においては、不適切な情報発信が世間の不安をあおり、研究活動を阻害してしまうこともあります。生命倫理学は、科学技術の未来を展望する際、社会の意見を取り入れるだけでなく、社会に対する説明責任を果たすことで、研究開発の持続的な発展にも寄与するのです。私自身、科学コミュニケーションなどを通じて、社会全体で科学技術のあり方を考える仕組みを作っていきます。
 

広島大学研究者ガイドブック (澤井 努 准教授)

PROFILE さわい つとむ

  • 大学院人間社会科学研究科人間総合科学プログラムに所属。
     
  • 倫理学を専門とし、近年は最先端の科学技術が提起する生命倫理問題に関して文理の垣根を越えた学際的な研究を行っている。
広島大学広報誌『HU-plus』 Vol.22(2023年8月号) もったいなれっじ(p12-13)

〈その他特集ページ〉

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    「俳句で磨く、他者に伝える力。言葉の風を吹かせ、実りある人生を。」
     
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    久保 達彦 教授(大学院医系科学研究科)
【この記事に関するお問い合わせ先】

広島大学広報室

Email: koho*office. hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に変換して送信してください)


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