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【研究成果】食道癌の治療効果を事前にAIで予測~多施設で活用可能なHybrid AIモデルの提案~

本研究成果のポイント

* 食道癌(局所進行癌)に対する治療戦略では化学放射線治療と手術を組み合わせる手法は一般的な治療選択肢の一つです。化学放射線治療後の患者で一部の患者は腫瘍が消失しており、治療前にこれ(局所制御)が予測できれば手術を省略することで臓器温存も期待できます。
* 本研究では、治療前に撮影された医用画像や治療計画データより膨大な画像特徴を抽出可能なRadiomics解析、さらに膨大な特徴を組み合わせてAIにより局所制御を予測可能なシステム開発に広島大学と神戸大学の共同研究で取り組みました。
* 従来のAI解析手法では限られた施設データで予測モデルを構築するため、他施設で検証した際に局所制御の予測精度が充分ではなく(精度78%)、本研究では一定の割合で施設データを統合したAI解析を行いことで予測精度は8%改善し(精度86%)、予測精度を大きく改善するAIモデル開発を実現しました。
 

概要

 広島大学大学院医系科学研究科 河原大輔助教、村上祐司准教授、神戸大学医学部附属病院放射線腫瘍科 佐々木良平教授らの研究グループは、人工知能の技術を活用し治療前CT, PET画像、線量分布から患者予後である局所制御を高精度に予測することに成功しました。複数の施設データを一定の割合で施設データを統合したAI解析手法を用いることで、従来のAI手法を大きく改善する治療効果予測モデルの開発に成功しました。本研究成果は、2023年8月17日に英国科学誌「European Radiology」に掲載されました。

論文情報

論文タイトル
Radiomics and dosiomics for predicting complete response to definitive chemoradiotherapy patients with oesophageal squamous cell cancer using the hybrid institution model

著書
Daisuke Kawaharaa, Yuji Murakamia, Shota Awaneb, Yuki Emotoc, Kazuma Iwashitad, Hikaru Kubotad, Ryohei Sasakid, Yasushi Nagataa

a Department of Radiation Oncology, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, 734-8551, Japan
b School of Medicine, Hiroshima University, Hiroshima, 734-8551, Japan
c Department of Radiation Oncology, Hyogo Cancer Center, 70, Kitaoji-cho 13, Akashi-shi, Hyogo, Japan
d Division of Radiation Oncology, Kobe University Graduate School of Medicine, 7-5-2 Kusunokicho, Chuouku, Kobe, Hyogo, 650-0017, Japan
Corresponding Author: Daisuke Kawahara

掲載雑誌
European Radiology

DOI番号
10.1007/s00330-023-10020-8.

背景

 局所進行食道癌(扁平上皮癌)では化学放射線療法と手術を組み合わせた方法が標準的な治療法となっています。化学放射線療法では腫瘍を可能な限り縮小する役割がありますが、手術後の検査結果より、手術の際に腫瘍が消失していた場合があります(約4割)。これまでは手術後の検査で腫瘍の消失を確認していましたが、化学放射線療法前のデータより予測できれば手術の負担を減らすことができ、臓器(食道)の切除が不要になります。

研究成果の内容

 今回、我々の研究グループは放射線治療を行った進行食道癌症例に対しRadiomics解析と呼ばれる医用画像から目に見える形状や色合いの情報に加えて、画像の質感など定量評価が難しい画像情報や目に見えない画像情報を解析する手法を用いて、食道癌患者のCT画像、PET画像、線量分布よりそれぞれ11063個の膨大な画像特徴を抽出しました。この画像特徴に対して治療効果との関連をAIで学習させることよって、局所制御の有無を予測するモデル構築に成功しました。
 また、本解析では汎用的なAIモデルとするために神戸大学との共同研究で複数施設のデータを収集しました。従来は単施設で構築した予測モデルを他施設で検証する研究開発が行われてきましたが、我々は複数施設のデータを一定の割合で混合することによって、外部検証で予測精度が8%以上改善して86%となり、汎用的かつ効率な予測精度となるモデル構築に成功しました。また、AI解析の中で予後因子となった画像特徴をCT画像上にマッピングすることに成功し(図3)、予後因子を画像上で捉えられるようなシステムを開発しました。

今後の展開

 本研究は食道癌における手術の負担を軽減する可能性を示す画期的な研究開発であり、多施設でも活用が可能なAIモデル開発に成功しました。今後は食道癌に対する他の治療法に対しても予測モデルを構築することで、食道癌患者における予後が充分かつ負担を減らした最適な治療法の提案が可能となります。これを実現するために本研究の成果を多くの方に知っていただき、さらに多施設を含めた研究を進め、アプリケーション化も目指していきます。

参考資料

図1.予測モデル構築までの流れを示す。①ではCT、PET画像、線量分布に対してRadiomics解析を行い、それぞれ11063個の膨大な画像特徴を抽出します。この膨大な特徴から②でAIにより冗長な画像特徴を減らし、これらの画像特徴を組み合わせて局所制御の有無の予測を行っている。

図2.本研究で新たに構築したHybridモデル(左)。従来は①のように単施設で構築したモデルを他施設データで検証していましたが、一定の割合でデータを混合したHybridモデル。

図3.AI解析の上で予後因子となった画像上の均一性の程度をCT画像上にマッピングすることに成功しました。左の患者では均一性が高く、予後良好であった。右の患者では病変領域に不均一性が高い領域が存在し、予後不良であった。

図4.従来より行われてきた単施設データの予測モデルを他施設で検証する①Single institutionモデルと一定の割合で複数施設データを混合する②Hybridモデルの局所制御予測精度の比較。②Hybridモデルでは従来法である①に比べ8%精度改善し86%の予測精度であった。

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科 助教 河原大輔
Tel:082-257-1545 FAX:082-257-1546
E-mail:daika99*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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