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【研究紹介】物質が秘める無限の可能性を見いだす

黒田 健太 准教授

トポロジカル絶縁体・・・物質には、電気を良く通す金属などの導電体、電気をほとんど通さないゴムなどの絶縁体と、その中間の性質を持つシリコンなどの半導体、大きく分けて3つの種類があります。トポロジカル絶縁体はその3つに分類ができない、絶縁体なのに結晶の表面だけは導電体になる特殊な物質です。

熱望されていた物質、夢の性質「弱いトポロジカル絶縁体」

 光沢や透明という光学的性質、電気を通す・通さないといった電気的性質など、物質にはさまざまな特徴があります。物性物理学ではこうした性質の発現メカニズムを調べ、新しい物性の創出や制御を目指しています。物性物理学ではあらゆる物質が研究対象なのですが、その中でも、私は「トポロジカル絶縁体」を専門に扱っています。トポロジカル絶縁体とは、金属・半導体・絶縁体に加わる新たな電気的性質の区分のことで、表面にのみ電気が流れる不思議な性質を持っています。

 今回私たちの研究チームが観測に取り組んだのは、トポロジカル絶縁体の特徴が局所的に現れる「弱いトポロジカル絶縁体」と呼ばれるものです。理論的には存在が予想されていましたが、結晶のごく一部にしか性質が発現しないために観測が非常に難しく、これまで発見された例はありませんでした。しかし、ナノ顕微・角度分解光電子分光と呼ばれる実験手法を用いて、物質の電子状態を直接観測することで、我々は世界で初めてこの物質を発見したのです。

放射光を用いた観測装置。中央の機構にある超高真空環境に実験対象となる物質を入れ、その電子状態を観察する

新たな情報技術の突破口を求めて

 なぜ私たちは「弱い」トポロジカル絶縁体の観測に力を注いできたのか。理由は、あらゆる情報デバイスの性能を飛躍的に向上させる可能性を秘めているからです。トポロジカル絶縁体には、表面にスピン流と呼ばれる電子の特別な運動が現れるという特異な性質があります。スピン流は電気抵抗によるエネルギーロスがなく、電力供給が途絶えてもその性質を保ち続ける不揮発性を持っています。これを利用すれば、デバイスの電力消費を大幅に削減できるのです。しかし、これまでの「強いトポロジカル絶縁体」にはあらゆる方向にスピン流が発生してしまい、技術応用が難しいという課題がありました。これに対し「弱いトポロジカル絶縁体」は電子の動きが一方向に制限され安定しており、制御も容易です。実用化の道のりはまだまだ長いですが、新たなデバイス開発に大きく貢献できるでしょう。
 今回、弱いトポロジカル絶縁体として観測できたのはビスマスハライドという物質。実は研究対象として長年扱われていたにもかかわらず、実用性は全く無いと考えられていたものでした。トポロジーという新たな捉え方次第で物質の隠された可能性を見つけられることが物性物理学の面白さの一つ。これからも物質の可能性を模索し、引き出す研究を続けていきます。

広島大学研究者ガイドブック (黒田 健太 准教授)

PROFILE くろだけんた

  • 大学院先進理工系科学研究科物理学プログラムに所属。
     
  • 物性物理学を専門領域とし、トポロジカル物質、磁性体や超伝導など、さまざまな量子物質が示す現象に関する研究をしている。

     

広島大学広報誌『HU-plus』 Vol.23(2024年1月号) もったいなれっじ(p12-13)

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【この記事に関するお問い合わせ先】

広島大学広報室

Email: koho*office. hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に変換して送信してください)


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