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【研究成果】普段の揺れから地盤や建物の地震危険度を簡便に指標化する技術を開発しました【特許出願中】

特許出願
【本研究成果のポイント】

  • 地盤や建物の普段の揺れ(微動)(*1)を使って、地震時における地盤と建物の危険度を指標化する技術を開発しました。
  • 地盤の地震危険度は、軟弱度合いや地震時の揺れやすさの度合いを指標化したもので、本学で開発したAI技術(*2)を活用したものです。建物の地震危険度は、その建物が地震時に共振(*3)しやすいかどうかを指標化したものです。
  • 本技術により、地盤と建物の地震危険度を簡便に計測することが可能で、当該地点・建物の安全性を定量的に評価することが可能になります。

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の三浦弘之 教授、一般社団法人レトロフィットジャパンの阿部秀幸 理事長、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社の若狭弘幸氏らによる研究グループは、微動と呼ばれる微小な振動を計測する機器を用いて地盤と建物の振動を計測し、それをコンピュータ上で解析することで、地盤と建物の地震危険度を簡便に指標化する技術を開発しました(図1参照)。数10分~1時間程度の計測により、簡便に地震危険度を評価できることから、対象建物の所有者や居住者に対して、地震時の安全性を定量的に示すことが可能となります。
 本研究成果による発明を「地震危険度評価装置、地震危険度評価方法及びプログラム」として特許庁に出願(出願番号:特願2024-072242)しました。

図1 本研究による地震危険度指標の計算の流れ

背景

 地震による地盤の揺れの大きさは、地表付近の地盤の影響が大きく、軟弱な地盤が厚く堆積する地域では、地震時に非常に大きな揺れとなることがあります。対象となる地域の地盤の状態は、周囲の地形等からある程度把握できますが、詳細な特徴を知るには深層ボーリング調査や長期の地震観測が必要でした。このような調査や観測はかなりの予算、人手、時間を要するため、任意の地点の地盤状況を知ることは容易ではありません。このような背景から、三浦らは地盤での微動を計測し、 AI技術のひとつである深層学習モデルを適用することで、基盤と呼ばれる地下の硬質地盤から地表面までの地震動の増幅度を推定する技術を開発しています。この増幅度は、周期に対する揺れの増幅度合いの関係を表すもので、地震動予測等の高度な分析に利用することが可能ですが、当該地点の地震危険度がどの程度なのか、という非専門家にもわかりやすい指標にはなっていませんでした。
 また、ビルなどの中高層建物の地震時の揺れは、その構造や高さによって同じ地盤上であっても異なります。これは、建物にはそれぞれ揺れやすい周期(固有周期)があるためです。特に、建物の固有周期と地盤の固有周期が一致する場合、建物の揺れが増大するという共振状態となることがあります。共振状態となると建物の揺れの大きさは、地盤の揺れの5~10倍も大きくなることがあり、非常に危険です。しかし、建物が共振しやすいかどうかは、建物の設計時に考慮されることはほとんどなく、地盤と建物の振動を計測することではじめて知ることができます。しかし、対象建物が地震時に共振しやすいかどうかを表す指標はありませんでした。

研究成果の内容

 本研究では、地盤と建物の微動データから簡便に地盤の揺れやすさおよび建物の共振しやすさを表す指標を開発しました。具体的には、地盤の微動データからスペクトル解析および三浦らの提案するAI技術により、地盤増幅率を推定する。推定された地盤増幅率のピーク周波数およびピーク値を用いて、地盤の揺れやすさを表す指標Kg値を提案しました(図2参照)。このKg値は、地盤が軟弱でその厚さが厚いほど大きな値となる特徴を有します。
 建物の共振しやすさについては、建物の最下階と最上階、および周辺の地盤の微動データを用いて、そのスペクトル解析により建物と地盤の固有周波数を求め、それらの値から共振しやすさを表す指標R値を提案しました(図3参照)。R値は、建物の固有周波数と地盤の固有周波数が近くなるほど大きな値となり、特に共振の影響が大きくなりやすい高層の建物(固有周期の長い建物)ほど大きくなる特徴を有します。
 これらの計測時間は数10分~1時間程度で十分であり、解析に要する時間も10分程度と非常に短時間で結果を得ることができます。また、微動という普段の揺れを利用するものであり、大がかりな装置は不要で、居住者に対して影響を与えることなく、計測することが可能です。このため、短時間で簡便に地盤と建物の地震危険度を定量的に評価することが可能となります。
 これまでに10数棟の建物とその周辺地盤を対象として、微動計測を実施し、Kg値やR値を算出し、その特徴を分析しました。さらに、2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)で主に共振の影響で甚大な被害が生じた仙台市内の中層ビルおよび大阪市内の超高層ビルでの計測結果からKg値やR値を算出したところ、非常に大きな値となることが確認され、本指標の有効性が示されました(図4参照)。
 

図2 地盤の微動データによる危険度指標Kg値

図3 建物と地盤の微動データによる共振しやすさ指標R値

図4 計測したKg値とR値の分布

今後の展開

 主に中高層建物を対象として計測事例を増やし、各地域や建物のKg値やR値の特徴を調べます。また、Kg値とR値の両者の値を用いることで、対象地点における総合的な地震危険度を指標化する方法も検討予定です。

用語解説

*1 微動:地盤は、波浪や風といった自然活動および交通や工場などの人間活動の影響により、微小な振幅(髪の毛一本分80μm=0.08mm程度)で常に揺れています。この影響により、建物も同程度あるいはそれ以上の振幅で常に振動しています。この振動は直下の地盤や建物の影響を受けることから、微動を計測し分析することで、地盤や建物の状態を調べることができます。
*2 AI技術:人工知能技術のこと。多層のニューラルネットワークにより、従来の統計解析は困難だった複雑な分析が可能になります。三浦らは、地盤の微動データから地震時に地盤増幅率を自動的に推定する技術を開発しており、本研究成果はこの技術を応用しています。
参考URL:https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/70323
*3 共振:全ての建物には揺れやすい周期(固有周期)があり、地震時の地盤の揺れの周期が建物の固有周期と一致すると、建物の揺れが増大する現象を共振と呼びます。共振状態になると、建物の揺れは地盤の揺れの5~10倍にも大きくなることがあります。共振が発生しないように建物の設計を行うことが望ましいですが、建築基準法において共振に関する規定はなく、地震時に共振する恐れがある建物は多数存在しています。
 

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
 広島大学 大学院先進理工系科学研究科
 教授 三浦弘之
 Tel:082-424-7798
 E-mail:hmiura*hiroshima-u.ac.jp

 一般社団法人レトロフィットジャパン協会
 事業企画部 副部長 船越 宏海
 Tel:03-6225-2205
 E-mail:funakoshi*rji.or.jp

 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
 マーケット開発部 川名 権
 Tel:050−3460−1412
 E-mail:k-kawana*aioinissaydowa.co.jp

<報道に関すること>
 広島大学 広報室
 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 一般社団法人レトロフィットジャパン協会
 事業企画部 副部長 船越 宏海
 Tel:03-6225-2205
 E-mail:funakoshi*rji.or.jp

 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
 広報部 佐藤 有希
 Tel:050−3461−7235
 E-mail:satou.18243*aioinissaydowa.co.jp 

 (注:*は半角@に置き換えてください)

 


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