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河合 賢太郎 助教
産卵生態を明らかにし、水産資源を守る
クロダイをはじめとする魚類の産卵生態について研究しています。クロダイは“チヌ”とも呼ばれる身近な魚ですが、産卵時期や産卵場所は詳しく分かっていませんでした。海中の卵を採取したり、発信機を付けた個体の行動を調べたりとさまざまな方法で研究した結果、4月中旬〜7月上旬にかけて産卵することや、広島湾のカキ養殖場を産卵場としていることが分かりました。カキが小さく食べられやすい時期と、クロダイが産卵で体力を消耗する時期が重なっているため、クロダイがカキの稚貝を食べてしまい、食害が大きくなっていると考えられます。さらに詳しい産卵生態を調べることで、海の豊かさを維持し、クロダイとカキ養殖業者が共存できる方法を探していきます。
また、私は魚食を普及させるための社会活動も行っています。旬の時期のクロダイはとてもおいしいのですが、古くから言われている臭いイメージを払拭できず、なかなか利用が進みません。そこで、フードフェスティバルなどでクロダイの唐揚げ“ちぬ唐”を出店。多くの方からおいしいと好評をいただいています。より多くの人々にクロダイを食べてもらい、魅力を広めたいですね。
環境DNAを分析する様子。
検出感度が高いため、他のDNAが混ざらないよう細心の注意を払う。
南極で起こる変化が、気候変動の指標
蓄積されたクロダイの産卵情報を活用して、新たな研究ツールも導入しています。例えば、クロダイをモデル生物とすることで、環境中の生物由来のDNAである「環境DNA」が、海水魚の産卵を検出できるだけの情報を持つことが分かりました。つまり、魚を殺さずとも海水をすくって解析するだけで、いつ、どこで魚が産卵しているか調べられるのです。これにより、近年国際的に求められる環境負荷の小さい研究法の確立に貢献できるでしょう。
昨年は南極での観測活動にも参加しました。南極の魚類の行動や生態などを幅広く調査し、得られたデータの分析を進めているところです。南極は気候変動の影響を受けやすいため、その環境や生態系を知ることでこれからの世界各地の気候変動による影響を予測することができます。南極の魚類は氷点下の水温下で独特な進化を遂げた魚たちであり、海氷に依存した魚がいるなど気候変動の影響を強く受けます。魚類はペンギンやアザラシの重要な餌でもあるため、いち早く南極の魚類を取り巻く生態系を明らかにする必要があります。
私たちにできるのは、まず海の生き物や生態系について知識を深め、環境への負荷を小さくするために必要なアクションを起こすことです。小さな行動の変化が、海の生態系を守り、気候変動を抑えることにつながります。
生殖腺の発達を観察するための組織切片を
作成している様子。
魚の年齢を調べるには、
耳石という骨組織を薄く削り、
刻まれている年輪を数える。
PROFILE かわいけんたろう
- 大学院統合生命科学研究科に所属。
- クロダイをはじめとする沿岸性魚類から南極の魚類までを対象に、繁
殖・行動・遺伝に関わる生態研究を行っている。
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