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片山 翔太 特任准教授
世界初、廃れたゲノム編集技術の高機能化
細胞中の特定のDNA配列を認識して切断する、ゲノム編集。遺伝子細胞治療などに有効な技術ですが、高額なライセンス料が研究開発を妨げている一面があります。主なゲノム編集ツールのうち、現在よく使われる2つは基本特許の有効期限が切れておらず、研究開発・産業利用には高額なライセンス料が必要です。そこで私は、期限の切れた「Zinc Finger Nuclease」というツールに目を付けました。Zinc Finger Nucleaseは特定のDNAを認識して結合するZinc FingerとDNAを切断する酵素を組み合わせて使う技術ですが、標的のDNA配列に合ったZinc Fingerを作製するのに時間がかかり、成功率も低いことから現在では廃れてしまっていました。
今回私が開発したのは、Zinc Fingerの作製期間を2カ月から3日に短縮する技術です。さらにAIを用いてZinc FingerとDNAの結合をモデリングし、狙ったDNAの切断効率を約5%上げることにも成功。世界で初めZinc Finger Nucleaseを高機能化した例となりました。
ゲノム編集細胞を観察している様子
安価なライセンス料はアカデミアならでは
Zinc Finger NucleaseはZinc FingerとDNAの切断酵素を組み合わせて使う技術。実はその切断酵素を使用するにもライセンス料がかかるのですが、広島大学では以前ND1という切断酵素を開発して特許を取得しています。そのため、完全にライセンスフリーかつ純国産のゲノム編集ツール「Zinc Finger-ND1」を作製することができるのです。
ゲノム編集は遺伝子細胞治療のための強力なツールです。疾患の原因となるDNA配列を取り除いたり壊れた遺伝子を修復したりすることで、遺伝性疾患の治療が可能となります。現在私たちは、高機能化したZinc Finger-ND1を用いた遺伝子細胞治療の実現を目指して研究を進めています。ライセンスフリーのZinc Finger-ND1によって自分たちで研究開発が進められるようになったことはもちろん重要なのですが、特許取得後は現在使われているほかのゲノム編集ツールより格段にライセンス料を抑えて使用できるようにすることも考えています。これは利益第一ではない、大学という機関だからこそできること。ライセンス料が下がれば遺伝子治療用製剤の開発コストや薬価を抑えることができ、研究も活発になります。ひいては、より多くの人の治療に貢献し、健康寿命を延ばすことにつながるでしょう。
細胞を培養する様子。
種類によって培養液(培地)を使い分ける
PROFILE かたやま しょうた
- ゲノム編集イノベーションセンターに所属。
- 合成生物学を専門領域とし、純国産ゲノム編集ツールの開発および産業利用に向けた研究をしている。
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