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【研究紹介】多様な生物の神秘を探究する

藤本 仰一 教授

生き物の仕組みや現象を、数学で表現

 生命現象や社会現象の数理モデリングを専門に研究しています。具体的には、データを用いて計算式などでモデル化し、現象の背後にある仕組みを予測します。例えば、「山に雲がかかると雨が降る」という通説があります。これは人間の経験から導き出されたものですが、実際に空気や水の流れを計算して、雨が降る条件を解析すれば、通説の確かさをシミュレーションによって裏付けることができます。私の研究室では、動物と植物の両方を対象として、細胞レベルから社会や生態系の現象までを研究しています。そこまで幅広い分野で成果を上げている研究室は、世界でも稀なのではないでしょうか。

 私たちは研究を通じて、生物の複雑な形や生活の在り方などの自然の理を「数学の言葉」で表したいと考えています。生き物はどのように生まれ、進化していくのか。それらを定式化することは、結果的に生物
多様性や健康に生きられる社会の実現にもつながるでしょう。

数理モデリングが新しい発見につながる

 モデルから新発見につながる予測をするためには、他分野の専門家と互いの課題感や仮説をぶつけ合うことが重要です。

 これまでに印象に残っている研究の一つは、脳の形の潜在的な役割を数学を通じて見出したことです。人間の脳全体にわたって、特定の場所や方向に神経回路が配線されていますが、どのようにして特定の場所や方向に配線されるのでしょうか。私たちは、このを解明するために胎児の脳に着目しました。脳表面の任意の地点同士を結ぶ最短経路を、網羅的に計算すると、多くの最短経路が集中する場所を発見しました。成人の脳のこの場所には長距離の神経回路が通っており、最短経路が神経回路の発生する場所や方向の目印となる可能性が判明したのです。また、細胞が分裂する方向はどう決まるのかを、私たちは植物の研究者と3Dプリンターで作った細胞の模型を見ながら議論しました。分裂する面の面積が最小になる仮説を予想し、細胞の形のデータを導入した数理モデルから仮説を証明しました。

 このように、数理モデリングは形をはじめ多様なデータから、あらゆる分野に新しい発見をもたらす可能性を秘めています。それが研究のやりがいであり、醍醐味です。皆さんが学校で習う「数学」も実は同じ。その先には数式を共通言語に、科目や分野を超えてさまざまな問題を探究できる面白さが広がっていますよ。
 

多細胞組織の模型をレゴブロックのように遊びながら、
数理モデルを構想することも

広島大学研究者ガイドブック (藤本 仰一 教授)

PROFILEふじもとこういち

  • 大学院統合生命科学研究科に所属。
  • 専門分野は動植物や微生物の発生・進化・共存の数理、複雑系科学。その研究成果は、農業や医療など幅広い分野へ応用できる。
広島大学広報誌『HU-plus』 Vol.26(2025年1月号) もったいなれっじ(p11-12)

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【この記事に関するお問い合わせ先】

広島大学広報室

Email: koho*office. hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に変換して送信してください)


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