【記事に関すること】
広島大学広報室
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【本学のカーボンニュートラルの取り組みに関すること】
東広島市・広島大学 Town & Gown Office
E-mail:tgo-admin*hiroshima-u.ac.jp(*は半角@に置き換えてください)
広島大学は、2021(令和3)年1月に「カーボンニュートラル×スマートキャンパス5.0宣言」を発しました。国が掲げる2050年のカーボンニュートラル実現よりも早い2030年を目標に、全学を挙げ出て挑戦しています。この取り組みは、当時の環境大臣である小泉進次郎氏(現・防衛大臣) からも高く評価されました。
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/63838
ただ、最近よく耳にするようになったこの「カーボンニュートラル」って「どんな意味なの?」「どうしてそんなに大切なの?」と疑問を感じている人も多いのではないでしょうか。そこで広島大学では、カーボンニュートラルの誕生から、環境問題の歴史、現在の各国や広島大学の取り組み状況をわかりやすく伝える特集「未来の地球と大学の使命-広島大学がカーボンニュートラルに挑む理由-」を新たにスタートします。
環境経済学を専門とする金子慎治理事・副学長(グローバル化担当)と、広島大学マスコットキャラクター「ひろティー」とが対話をする形で、中学生・高校生のみなさんにも“やさしく”ひもときます。
少し難しい言葉も出てきますが、ひろティーと一緒に読み進めてみてください。
持続可能な社会を支えていく研究者は、この記事を読んでいるあなたかもしれません。
広島大学の取り組みにふれ、「おもしろい!」と感じたら、ぜひ一緒に未来の地球を守る研究に挑戦してみましょう。
第1回:「カーボンニュートラル 」ってなに?
本記事では、次の内容について解説します。
1. なぜ「1年単位」で考えるのか
2. 排出と吸収のバランスを見る
3. 昔のCO₂濃度はどうだったのか
4. カーボンニュートラルの意味
5. 気温上昇と人類への影響
6. 1.5℃と2.0℃が意味するもの
7. 私たちはいま、どこまで来ているのか
…次回予告:なぜ対策は進まなかったのか?(環境問題の歴史)
◆金子理事:
ひろティー、こんにちは。
広島大学は、2021年に「カーボンニュートラル×スマートキャンパス5.0宣言」を発し、大学全体でカーボンニュートラルの実現に取り組んでいることは知っているよね。
その背景もふまえて、これから数回にわたって、カーボンニュートラルとは何か、なぜ私たちにとって重要なのか、広島大学がどのように取り組んでいるのかを、いっしょに考えていこう。
◇ひろティー:
金子先生、こんにちは!
SNSとか授業でも聞いたことはあるけど、カーボンニュートラルって、正直ちょっと難しそうです。
◆金子理事:
そう感じる人は多いよ。
言葉を分けて考えると、「カーボン」は炭素、「ニュートラル」は中立という意味だね。
カーボンニュートラルとは、大気中の二酸化炭素(CO₂)が増えも減りもしない状態を目指す考え方なんだ。
◇ひろティー:
増えも減りもしないって、どういうことですか。
◆金子理事:
人間の活動で排出されるCO₂の量と、自然や技術によって吸収されるCO₂の量が、ちょうどつり合っている状態のことだよ。
なぜ「1年単位」で考えるのか
◇ひろティー:
じゃあ、そのバランスって、どのくらいの期間で考えるんですか?
◆金子理事:
そう。実はそこが、大事なポイントなんだ。
まず、「キーリング曲線」と呼ばれるグラフを見てみよう。
出典:NOAA(米国海洋大気庁)
Global Monitoring Laboratory “Trends in Atmospheric Carbon Dioxide”
https://gml.noaa.gov/ccgg/trends/(2026年1月閲覧)
これは、アメリカの科学者チャールズ・キーリング博士が、1960年頃から大気中のCO₂濃度を長い間測定し続けたデータをもとにつくられているよ。
横軸が年、縦軸が大気中の二酸化炭素濃度(ppm)で、ppmというのは、「100万分のいくつか」を表す単位だよ。300ppmだと、CO₂の体積比が「100万分の300」、すなわち、0.03%という意味になる。
◇ひろティー:
ギザギザしてるけど、全体としてはずっと上がっていますね。
◆金子理事:
このギザギザは1年ごとの変化を表している。
夏は植物がCO₂を多く吸収して減り、冬は吸収が弱まって増える。
ただし、ギザギザになるのは植物のなかでも落葉樹が広く分布する寒帯と温帯でのことなんだ。春から夏にかけて葉をつけ秋から冬にかけて葉を落とすのが落葉樹だよ。
熱帯は一年中葉をつける広葉樹がたくさんあるのでこのギザギザはほとんどみられない。
◇ひろティー:
でも、どうして毎年ちょっとずつ増えていくのでしょう?
◆金子理事:
人間が石炭や石油を燃やして出すCO₂が、1年の間に自然が吸収できる量を超えているからなんだ。
排出と吸収のバランスを見る
◇ひろティー:
南米アマゾンの熱帯雨林が減っているという話を聞いたことあるけど、それもCO₂の吸収と関係ありますか?
◆金子理事:
とても良いところに気づいたね。
下に示しているのは、世界中の気候・炭素循環の専門家が集まって、CO₂排出量や吸収量を科学的にまとめている国際チーム「Global Carbon Project」が公表しているグラフだよ。
横軸が年、縦軸がCO₂の排出量・吸収量(ギガトン)で、1800年代からのCO₂の排出量と吸収量を推計しているよ。上半分が排出量、下半分が吸収量と大気中に残った量を表している。
出典:Global Carbon Project「Global Carbon Budget 2025」P.53
https://globalcarbonbudget.org/download/2406/ (2026年1月閲覧)
◆金子理事:
上の灰色(Fossil carbon)は石炭や石油を燃やして出たCO₂、黄色(Land-use change)は森林伐採など土地利用変化の結果、排出されたCO₂だ。森林伐採は重要な課題だけど、1990年代をピークに減少傾向にあるんだ。
下の濃い青(Ocean sink)は海に吸収されたCO₂、緑(Land sink)は森林など陸上に吸収されたCO₂を示しているよ。
◇ひろティー:
排出のほうが、吸収よりずっと多いですね。
◆金子理事:
その差が、水色(Atmosphere)で示されている、毎年大気中に残るCO₂なんだ。
少しでも水色があれば、大気中のCO₂は増えることになる。
この部分が、毎年少しずつ増えていることが分かるね。
◇ひろティー:
でも、海や森が吸収する量も増えていますよね?
◆金子理事:
その通り。
大気中のCO₂濃度が高くなると、海に溶けたり、植物に吸収されたりする量も増える。
ただし、これは排出量が増えた結果だということが大切なんだ。
昔のCO₂濃度はどうだったのか
◆ひろティー:
キーリング曲線って1958年くらいからですが、それより以前のデータはあるのですか?
◇金子理事:
キーリング博士は1958年から観測を始めたけれど、それ以前については、南極やグリーンランドの氷床コアと呼ばれる氷の柱を調べると分かるよ。
雪は降るたびに少しずつ積もって氷になっていくけれど、そのときの空気が小さな気泡として閉じ込められるからね。
右に行くほどより昔のデータになっていることに注意して、下の図を見てごらん。
出典:Lüthi ほか「過去65万〜80万年間の高解像度の二酸化炭素濃度記録」『Nature』誌(2008年)/ Lüthi et al., “High-resolution carbon dioxide concentration record 650,000–800,000 years before present”, Nature (2008)
https://www.nature.com/articles/nature06949
◇ひろティー:
えっ、80万年前のことまで分かるんですか?すごい!
◆金子理事:
そうなんだ。このグラフは、約80万年前から18世紀半ばまでのCO₂濃度と気温を復元したもので、上の黒い線が気温の変化、下のカラフルな点線が大気中のCO₂濃度の変化を表しているよ。
◇ひろティー:
波のように、上がったり下がったりを繰り返していますね。
◆金子理事:
地球は、寒い時代と暖かい時代を繰り返しながら、CO₂濃度は180ppm(※)から300ppmの間で変動しており、その長い期間では、長期的に右肩上がりではなかった。
このグラフには含まれていないけれど、現代の観測データを見ると、長い間300ppmを超えなかったCO₂濃度が、ここ数十年で急激に増えて、400ppmを超えるようになった。
その増加の主な原因は、人間が石炭や石油などの化石燃料を燃やしてきたことなんだ。
※ppm…「100万分のいくつか」を表す単位。300ppmだと、CO₂の体積比が「100万分の300」、すなわち、0.03%という意味。
◇ひろティー:
あまりにも長い時間の話で、実感がわきません。
それに、石油も石炭も、もともと自然がつくったものですよね?
それが、どうしてそんなに大きな問題になるんでしょうか。
◆金子理事:
石炭や石油に含まれる炭素は、太古の植物やプランクトンが数千万年から数億年かけて地下に閉じ込められてできたものなんだ。
地球の歴史を「1年間のカレンダー」に例えると、私たちが氷床コアで把握できている約80万年のCO₂濃度の変化は、12月の年末の最後の数日間にあたる。
その中でも、産業革命と呼ばれる時代(18世紀後半以降、人類が石炭や石油を大量に使い始めた時代)、CO₂濃度が280ppmから400ppmを超えるまでにかかった約250年は、12月31日の「たった1分」ほどの出来事なんだ。
◇ひろティー:
そんな短い間に、地球の環境を大きく変えてしまったんですね……。
カーボンニュートラルの意味
◇ひろティー:
ところで、カーボンニュートラルが実現すると、さきほど見た大気中CO₂濃度のグラフ(キーリング曲線)はだんだん横ばいになって、最後は水平になるという理解であっていますか?
◇金子理事:
直感的な理解としては、それで大丈夫。
問題は、「いつ、その状態にできるか」なんだ。それまでの間に人類が耐えられるか。
少しでも排出量が吸収量を上回れば、CO₂濃度は増え続けるからね。
気温上昇と人類への影響
◇ひろティー:
「人類が耐えられるか」って、どういう意味でしょう?
◆金子理事:
CO₂濃度が増えると地球が温暖化し、平均気温が上がる。
すると、熱波や豪雨、干ばつ、海面上昇といった現象が増え、生態系や農業、水資源を通じて、私たちの生活や経済、健康に大きな影響が出る。
さらに重要なのは、気温が一定の水準を超えると、簡単には元に戻らない変化が始まる可能性があることだ。
南極などの氷河やシベリアなどの永久凍土が溶けること、森林が失われること、生き物が減ること、海が酸性に傾くことなどがその例だよ。
1.5℃と2.0℃が意味するもの
◇ひろティー:
どのくらい気温が上がると、そんなことが起こるのですか?
◆金子理事:
世界中の科学者が集まって、地球温暖化についての研究結果をまとめ、国や社会に伝えている国際的な組織IPCC( Intergovernmental Panel on Climate Change/気候変動に関する政府間パネル)が、2018年に公表した報告書では、産業革命前の気温を基準として平均気温が1.5℃上昇すると、極端な気象が増え、社会や経済、健康などに対して、正の影響よりも負の影響の方が突出してくる臨界温度と言われているよ。
さらに2.0℃上昇すると、先ほども例に挙げた氷河や永久凍土の融解、森林崩壊、生態系の消失、海洋酸性化など、不可逆的な変化が同時に進むリスクが大きく高まる。
その結果、将来、人類の努力だけでは元に戻すことが極めて困難になる可能性が高いとされている。
私たちはいま、どこまで来ているのか
◇ひろティー:
最近の夏、とても暑いけど、今はどのくらいまで進んでいるのですか?
◆金子理事:
短い期間だけで判断をするのは注意が必要だけれど、2024年の世界平均気温は、産業革命前と比べて約1.5℃前後まで上昇した可能性が高いと報告されているよ。
日本も、世界平均と同程度か、やや高い水準にある。
日本周辺では、気温だけでなく海水温も上昇しているよ。
◇ひろティー:
えっ……それって、もうかなり限界に近いということですか?
◆金子理事:
その通りだよ。
人間社会や健康への影響を避けるためには、一刻も早く行動する必要がある。
◇ひろティー:
では、どうすればいいのでしょう?
◆金子理事:
今の状況は、スピードを出しすぎた車が、崖に向かって走っているようなものだね。
• ゆっくりブレーキを踏めば、止まれない
• 今すぐ強くブレーキを踏めば、止まれる可能性がある
◇ひろティー:
つまり、カーボンニュートラルって……
◆金子理事:
そう。排出量に急ブレーキをかけることなんだ。
化石燃料の使い方を変え、エネルギーや社会の仕組みそのものを見直す必要がある。
◇ひろティー:
そんなに急いで取り組まなければならないのですね。
どうしてこれまでうまく対策が進まなかったのですか?
◆金子理事:
何もしてこなかったわけではないよ。世界の国々が努力はしてきたけれど、十分ではなかったんだ。
その理由については、次回、環境問題の歴史も踏まえてくわしく話すよ。
今回はここまでにしよう。
広島大学カーボンニュートラル×スマートキャンパス5.0の実現に向けたアクションプランや概要を紹介しています。

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