平成22年(年頭挨拶)

年頭挨拶 2010.1.4

平成22年1月4日

年頭挨拶

広島大学長 浅原 利正

新年明けましておめでとうございます。

昨年も、社会は国内外で大きく揺れ動きました。海外では依然、経済の不安定な状況が続き、それは開発途上国にまで及び、ドバイショックも引き起こしました。地球温暖化対応のための会議「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」で、先進国と途上国の対立が顕著であったのは、経済不安も影響していたと思われます。一方で、テロや核拡散防止への願いと国際平和への期待もこめて、オバマ大統領へノーベル平和賞が授与されました。国内では、司法制度改革の一環である裁判員制度も開始され、新型インフルエンザが猛威をふるいましたが、何よりも50年以上続いた自民党から民主党へ、政権が交代するという大きな変化がありました。しかし、わが国の経済状況は依然として厳しい環境にあり、財政規律と不況克服のための財政出動という、相反する課題を背負った政権運営も困難を極めています。このような状況下で、足元では、卒業を迎えるものの未だ就職が決まらず苦しい思いをした学生や、経済不況で家庭環境が一変した学生もいます。困難な時だからこそ、私たち大学人の力が問われています。

新しい年を迎えるに当たり、これら社会変動の中にある人類共通の課題を高等教育機関である本学に課せられた使命として受け止め、構成員は勿論のこと同窓生などと一丸となって、課題解決に取り組まなくてはなりません。

その一つとして、創立60周年に当たる昨年、同窓生との連携をより一層深める契機となるよう、第3回ホームカミングデーと併せて記念事業を実施しました。今後、大学を核としたコミュニティーの構築へと発展させていきたいと思います。一方、学生支援の充実の視点で、学生が自由に集える交流の場として、学生プラザの建設が始まりました。また、留学生を含む学生に、一時的に経済支援を行いました。

国立大学法人化から6年が経過し、第一期中期目標期間を終えようとしています。法人化は、大学運営における業務効率化に、一定の成果をもたらしましたが、一方で、教育・研究領域に競争原理が導入され、それが一定の枠を超えて進展することにより、これまで営々と積み重ね、わが国の発展を支えてきた人材育成や科学研究の優れた仕組みが壊されようとしています。特に教育分野では、仕分け作業でその成果の検証を求める指摘がなされましたが、教育成果の検証は、慎重に行われなければならないと思います。

新しい年に臨み、本学の最も重要な使命が「人材育成」であることを再確認しておきたいと思います。グローバル化社会の中で、人類共通の様々な課題解決に取り組み、持続可能な希望に満ちた次世代社会構築に貢献できる人材の育成を最重点事項として認識し、学生の視点に立った大学運営を進めなくてはならないと考えます。これを実現するためには、入学者選抜を含む高大接続問題の見直しも重要ですが、何よりも教員のみならず全ての職員が学生教育に積極的に関わることで、受け入れた学生に対する責任を果たすということを再認識しなくてはなりません。

一昨年来、第一期中期目標期間の成果と評価結果を報告していますが、これらを踏まえて、「広島大学の長期ビジョン」を策定し、第二期中期目標期間の目標・計画原案を作成しました。本学はこれまで、幅広い分野で実績を積み重ね、外部から高い評価を受け、期待されてきました。改めて言うまでもなく、高等教育機関である大学は、時代の変化に翻弄されることなく、普遍的な役割を果たしていくことが求められています。そのため、大学での基盤研究が維持・継続できる環境を確保した上で、重点研究の支援体制を整備・拡充し、これらの研究を通じて、優れた人材育成に取り組まなければならないと思います。2010年は、学生プラザが完成し、そこから学生交流が活発になることを期待します。グローバル化社会における高等教育の新しい課題である教育の国際化への対応や教養教育の見直し、教育研究基盤の安定・充実のための外部資金獲得に向けた組織整備にも取り組んでいます。霞キャンパスでは、念願であった新外来・中央診療棟や、医師の定着に資する目的で計画されたレジデントハウスの建設も始まります。さらに東千田の跡地利用についても、広島市等が策定した利用計画の実現がストップしていますが、実現可能な利用計画策定等に向けて、本学も主体的に取り組まなければなりません。

21世紀は、人類共通の課題解決に向けての取り組みが進み、「人間同士のつながりを尊重した希望に満ちた社会」が実現するよう努め、そのことに本学が貢献してゆかなくてはならないと思います。

2010年が健やかで充実した年になりますよう祈念するとともに、未来社会のために私どもが何をなすべきかという原点を忘れずに、共に新しい年に臨みたいと思います。


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