学長式辞 令和7年度入学式 (2025.4.3)
本日、晴れて広島大学の学生となられた4,092人の皆さん、ご入学おめでとうございます。皆さんが広島大学で一歩を踏み出したこの時を、ともにお祝いできますことを学長として、また、広島大学同窓生の一人として何よりうれしく思います。これまで皆さんを支えてこられたご家族、関係者の方々にも、心から敬意を表したいと思います。
さて、皆さんは今、広島大学はどんな大学なのか、何を学べるのかといった期待と不安を胸にしながら、この場におられることと思います。
まず、第一に広島大学には前身校を加えると150年を超える長い歴史があります。最も古い源流は明治維新からわずか6年後の1874年に創立した白島学校にさかのぼります。原爆により広島高等師範学校、広島文理科大学、広島工業専門学校をはじめ広島市内にあった前身校の多くは倒壊・焼失し、多数の尊い命が失われました。新制広島大学は、被爆から間もない1949年に開学し、これら専門分野も校風も異なる多様な9つの前身校の歴史を継承し、今日に至っています。
2番目は、「平和の大学」であることです。文部大臣を経て就任した森戸辰男初代学長は、荒廃したキャンパスを緑にするため、世界の大学に「植物の種や苗を送ってほしい」と呼び掛けました。文字通り、広島大学は「希望と平和のシンボル」として緑溢れる大学を目指して出発したのです。
今年は広島・長崎に原爆が投下されて80年の節目です。昨年は日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞しました。新入生の皆さんには、戦争、核問題、飢餓などを考える「平和科目」を選択必修で学んでいただきたいと思います。大学としても今年8月6日には、昨年夏から3回主催した世界各国の大学長による「平和学長会議」の第4回目を開催します。
3番目は、国立大学最多の12学部と、4研究科1研究院を擁する全国屈指の総合研究大学であることです。中四国唯一の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)である「持続可能性に寄与するキラルノット超物質国際研究拠点」や、大学初の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」が国の採択を受け、世界中から気鋭の研究者が結集して地球と人類の未来に貢献する研究が始まっています。
4番目は、多様性と国際性に富む大学であることです。2024年11月現在、101ヵ国・地域から2078人の留学生が集う一方、大学間の国際交流協定も56カ国・地域の369機関に上り、幾つもの留学の機会を用意しています。また、来週からは学部新入生向けの特別講義「世界に羽ばたく。教養の力」が始まります。作家の佐藤優氏、脳科学者の池谷裕二氏、本学の卒業生でノンフィクション作家の堀川惠子氏、先程国家独唱してくださった中丸三千繪氏をはじめ科学、芸術、スポーツ、ビジネスなど各界で活躍されている日本のリーダーの方々に講師を務めていただきます。
現在、SNSやインターネットを通じて数多くのフェイクニュースが生成拡散される中、先進国においても民主主義が試練にさらされています。先の見えない不確実な時代にあって、与えられた問題の正解を短時間で見つけることが、大学の学びではありません。むしろ、答えが幾つもある場合や、答えが見つからないケースも多々あるからです。
皆さんには、いかに解くべきかのHowだけでなく、Why、すなわち日々の出来事に、なぜそのような問題が起こるのか疑問を持ち、歴史的な背景なども含めさまざまな角度から考える習慣を身に付けていただきたいと思います。
ドイツの哲学者アルトゥル・ショーペンハウアーは、著書「読書について」の中で、人生は短く、貴重な時間を漫然とした多読に費やすのではなく、良い書物を選んで深く読む重要性を説いています。限られた時間の中で、どのような知と向き合うか、どのような問いを抱え、いかに思索するかが、皆さんのこれからの人生を大きく左右するでしょう。
まずは本学で何を学びたいかを考えながら、古今東西の良書とされる古典を紐解くことで、知の扉を開いてください。
大学生活では勉学はもとより、課外活動などを通じて自分を磨きながら、さまざまな事に積極的にチャレンジしていただきたいと思います。皆さんに「広島大学で学んでよかった」と思っていただけるよう、教職員一丸となって支援します。本学での日々が実り豊かなものになることを心よりお祈りして、お祝いの言葉といたします。
令和7(2025)年4月3日
広島大学長 越智光夫