第14回 生物圏科学研究科 D3 万代 小百合さん

写真:万代小百合さん

取材実施日:2014年2月3日

第14回研究室訪問は、生物圏科学研究科 環境循環系制御学専攻 環境化学・環境分析化学研究室の博士課程後期(D)3年、万代小百合(ばんだい さゆり)さんが取材に応じてくれました。研究のやりがいや一度就職した後のD進学へ至った決め手などを伺ってきました。

研究を始めたきっかけは?

高校の頃から環境について関心を持っており、山口県立大学に進学し、卒業研究で雨の分析を行いました。雨は大気環境(雲)中で非常に細かい氷の結晶に過冷却状態の水の粒が吸着し、一定程度まで成長すると降下し、0℃以上の空気の層を通って地上に到達すると雨になります。この時、大気環境中に排気ガスに含まれる窒素酸化物や工場の煙に含まれる硫黄酸化物などが存在していると酸性雨が発生し、その影響はまず植物の葉に現れます。このようなことが雨の分析を通して分かってきたので、Mでは大気環境と植物についてさらに深く学んでいきたいと思い、その分野の先生がいらっしゃる広島大学にMから進学しました。

研究内容はどのようなものですか?

研究分野は大気環境化学で、大気汚染物質が植物にどのような影響を与えているのかについて研究しています。酸性雨は植物を枯らせてしまうなど、みなさんも聞いたことがあると思います。大気汚染物質が植物に影響を与えていることは明白ですが、それに対して科学的根拠をもって一つ一つの植物種がどのような過程を踏んで気孔を閉じたり(防御反応)、光合成を行わなくなってしまったりする(仮死状態)のかなどのメカニズムを解明しています。
実際に総合科学研究科にある農地のハウスで、植物を育て、一定期間大気汚染物質を与えます。そして光合成を中心とした生理機能にどのような影響があるか測定、分析を繰り返し、観測しています。今のところ汚染物質を与えた植物体内では、葉内の元素や電子を伝達する機能が低下し、壊れるという影響が見られました。これによって、植物が枯死する原因に光合成がうまく行われなくなることによるエネルギー不足と、光合成ができないという二重のストレスを挙げることが出来ます。

写真:実験をする万代さん1
写真:実験をする万代さん2
写真:実験をする万代さん3

D進学の決め手は?

「専門性を高めたかったから」に尽きると思います。M修了後は一度企業に勤めましたが、研究とは離れた業務だったことや、様々な人と出会う中で「もっと専門性を高めてみたい」、「まだチャレンジしてもいいんだ」と思えたのでまた大学に戻り、Dへ進学することにしました。
私の研究は実際に植物に影響を与え、植物が影響を受けて変化していく過程を観測、分析するといったもので、これは3か月から6か月の単位で結果が分かります。Mの2年間であっても様々な対象を扱うことが出来、興味が尽きない研究だと思えたことも決め手のひとつです。

先生の指導方針や研究室の特色は?

指導方針は、自由に研究させることだと思います。Dになってからは指導教員の佐久川先生からあるテーマを与えられ、その後の実験計画は自分で立てる方針になりました。自分の意見を反映しやすいため面白くもあり、難しいところもあります。実験計画を基にディスカッションを重ねたり、アドバイスを頂いたりして、温かい目で見守ってくれる先生です。
特色としては、Dの留学生が多いことが挙げられます。現在はアフリカから2名、アジアから1名いらっしゃっています。やはり国の発展に伴って、水環境の悪化が進んでいるためそれを改善すべく、研究をされています。

研究環境はいかがですか?

植物に関して研究をする上では、器具は一通り揃えていただいてあります。学生プラザの裏の農地に大小のハウスがあり、主にそこで実験をしています。ハウス内で学生3、4人が同時に植物育成、実験を行う時もありますが各々の場所を確保できるくらいの広さもあります。
また植物を扱う研究なので、新しい種の実験に入る時は研究室の学生みんなで買い出しに行き、植えたりします。その後の管理も自分たちで行うので、日中はずっとハウスで植物の世話をしたり測定をしたりしています。

写真:万代小百合さん

就職はどのような方面にされる方が多いですか?

学部四年生で就職する学生は、様々な分野に行きます。研究で分析を用いているので、その分野に就職する学生もいくらかいます。Dまで進学した学生は、大学に残られる方が多いです。前述の留学生たちは、もともと祖国で職に就いていて、その後留学に来ている方が多いので帰国後もまた元の職に就いているようです。

研究のやりがいは?

対象が植物で、主にフィールドワークを行っているため、条件も数値も自然に左右され、まったく同じデータが取れるわけではありません。各種条件の下で得られた数値から、傾向を読み取ることが非常に重要になってきます。数値は全ての人にとって一定ですが、そこから何を読み取るかは実験者次第です。いかに正確に傾向を読み取るかに、やりがいを感じます。
また、インターンシップに参加した時に企業で分析業務を行わせて頂きましたが、お客様に数値を報告する段階までで終わりのものもありました。その数値を得たお客様が傾向を読み取ります。しかし研究では自分で分析し、得られた数値から自分で傾向を読み取り判断し、次の実験に繋げていくので、「研究」としてのやりがいを再認識できました。

写真:パソコンでデータを処理する万代小百合さん

今後のご自身の展望は?

長年に渡って研究をやってきて、様々な情報から自分が正しいと思う情報を選択する作業を何千回としてきました。また数値から情報を読み取る作業も繰り返しやってきています。これらの経験を活かし、自分がこれだと思うものを見極めて、今後は企業に場を移し分析の業務に励んでいきたいです。

(注1)環境化学・環境分析化学研究室のホームページ
http://home.hiroshima-u.ac.jp/eac/index.html

取材者:志田 乙絵 (文学研究科人文学専攻 日本・中国文学語学コース 博士課程前期1年)


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